第3話 墓場での出会いと別れ
剣士はいないはずでは…?
しかし、眼の前では遠目に割とセクシーな装備の燃えるような赤髪の女の子がスケルトン剣士の大軍勢を相手に大立ち回りをしている。
ここら辺りの奥まで来ると、スケルトンの剣士としての腕も馬鹿にならないレベルなんだよね。僕も1対1ならなんとかなるけど、2対1だともう無理かもしれない。だからこそいい鍛錬になると思ってここに来たんだけど…そんな中で何十体といるスケルトン剣士を相手に互角に戦えているのだから、あの女の子は本職の剣士の中でもかなり強いのかもしれないね。
剣が薄っすらと光っているから、あれの効果で倒しているんだろうなぁ。教会で祝福の魔法でもかけてもらったのかな?見るからに一番効果が低い(その代わり持続時間は長い)やつだけど。確かにあれでも倒せるといえば倒せるだろうけど、よくあれであんなスケルトンの大軍に挑もうって気になるなぁ。新手の修行法かしらん?
―――はっ!やっ!とおっ!
―――カキン!カキン!カキン!
その女の子は何十体といるスケルトン剣士と何度と無く剣戟を交わしながら、隙を作っては1体ずつスケルトンを葬ってはいる。いやぁ、見事だなぁ。
…でもその討伐スピードより、その辺から際限なく湧いてくるスケルトン剣士が集団に合流するスピードの方が早そうなんだけど。むしろ今のあの状況はそれを繰り返しているうちにあそこまでスケルトンが大集団に膨れ上がってしまったんじゃないだろうか。そう考えるとあの女の子はいつから戦っているの?
ていうかアレどうにか出来るんだろうか。でも乱入は横取りとかで揉め事に発展しやすいから禁止されているからなぁ…と思って見ていると、
―――キャッ!
小さな悲鳴が聞こえた。
どうやら下がりながらスケルトン軍団の攻撃を捌いていた赤髪の女剣士が、足元の墓石に気付かず躓いて尻餅をついたようだ。
その隙を逃さず畳み掛けるように攻めるスケルトン軍団。女の子も転んだまま気丈にも剣を振るいながら、なんとか立ち上がろうとしている。が悲しいかな、あまりにも多勢に無勢過ぎた。あっという間に大量のスケルトンたちにのしかかられて、もみくちゃにされているようだ。あれ、これかなりマズいのでは?ここまで劣勢になったのなら乱入しても怒られない…よね?
急いで駆け寄ると『ええい、離れろ』とか『くそっ、ここまでなのか』とかスケルトンの山の下から聞こえる気がする。とりあえずなんとかするか。怒られたら謝ろう。
―――昇天
と僕が魔法を唱えると、一帯のスケルトンが真っ白な光に包まれる。数秒後にその白い光は一際白く強く輝いてから消えると、消えた光と共に一体のスケルトンさえいなくなっていた。
そう、僧侶を始めとする回復職にはこういう不死者への決定的な攻撃手段があるんだよね。この昇天は対象が不死者であれば少しの例外を除いて、それが大量の群れであろうともまとめて一気に消し去る事ができる光魔法だ。これがあれば、個人戦闘技術の訓練中でスケルトン相手に不覚をとっても、一気に逆転できるので個人でも安心という訳だ。
なら普段から何でこれを使わないのかって?これには明確なデメリットがあってねぇ…昇天などの浄化系魔法を使うと、魔物を倒したときに得られるはずの経験値やその場に残す魔石や拾得物《ドロップ品》等が一切残らないんだよね。だからいざという時にしか使わないんだ。
あ、そんな事よりもぐったりと倒れている女の子は大丈夫だろうか。
近寄ってみると…あ、大丈夫じゃないね。スケルトンに圧し掛かられ、その時に剣で斬られたと思しきいくつもの斬り傷もさる事ながら、もともと露出の多い装備だったみたいだけど、露出が多いというレベルじゃなく一部外れてしまっている。
そうなるとどうしても胸に目が行ってしまう。なぜかって女の子にとって見せたくなものが見えてしまっているから。ええと、あんまり見たらいけないよね。そちらにすごく目が引き付けられるけど頑張って見ないようにしながら、とりあえずその女の子の身体に僕の今着ている僧侶のローブを掛けてあげる事にした。
ふぅ、これで目のやり場にも困ることがなくなって少し落ち着く事ができた。この女の子があたり一帯のスケルトンを全部かき集めちゃったのか、この付近に今のところ他の敵の気配はなさそうだね。
しかし、こんな素敵な女の子の頭を腐肉が飛び散ってそうな墓地の地面に直に置いたままにしておくのもかわいそうな気がする。でもローブは掛けてあげちゃったから他に頭の下に敷ける様な物は無いなぁ。仕方ない、僕の膝の上で我慢してもらおう。しかしよく見るとこのコ、すっごいかわいい気がする…もしかするとこれはすごいレベルの美少女なのでは?繊細な赤髪もとてもキレイだし。でも呑気にそんな観察する前に傷ついているんだし、とっとと回復魔法をかけてあげるべきだよね。
―――回復!
女の子の身体を白い光が包む。恐らくこれで傷が治ったはずだ。僕のローブがかかっているからちゃんと傷が癒えたかまでは見えないけどね。え、ちゃんと治ったのかローブをめくって確認しないとダメじゃないかって?
でもそれだとこの美少女の胸が陰キャの目に晒されちゃうよ?医療行為なんだから、それは仕方ないこと?そう…なの?そう…かも。うん、不可抗力だよね。医療行為♪医療行為♪とローブに手をかけてめくろうとしたところで
―――ぱちっ。
その美少女の目が見開いた。
おお、これはかわいい。目をつぶっていてもかわいかったけど、目が開かれると余計に美人だね。みんな喜ぶんだ、これはまごうことなき美少女であります!こんな美少女をこんな間近で見れるなんてもう死んでもいいかも!あ、目があった。キュン。
ん、でも何か大事な事を忘れているような。
―――ガバッ
するとその美少女は勢いよく立ち上がった。あ、ダメだよ。そんな状態で勢いよく立ち上がったら大事なところが見え…
―――バチーン!!!
自分の着衣の状態を確認したその美少女は、怒りを堪えているかのように一瞬プルプルと震えていたかと思うと、今更ながらも僕のローブでその見事な肢体を隠しながら振り返って僕の事を見た。そして右手を勢いよく振りかぶり、そのまま勢いよく僕の頬に炸裂させた。彼女の見えてはいけないものを見てしまっていた僕はとても意識が散漫になっており、その平手打ちを避ける事どころか身構える事すら出来ず、まともにそれをくらってしまった。
その結果、僕は即死だった。ちーん。
墓場だから後始末が楽でいいね…ガクッ。