第28話 魔法家
無事、図書館の個室を借りる事が出来た。
僕が奥に入り、手前にシズカさんとクサナギさんが座る。
「じゃあ、相談事を話すよ。でもその前にちょっとの間だけ、クサナギさんは耳をふさいで後ろを向いてくれるかい?その後でシュテファンさんが、クサナギさんに教えるかどうかはシュテファンさんに任せる。どうかな?」
「ええ、いいわ。ユズリハ、悪いんだけど少しの間だけそうしてくれる?」
肩をちょっと竦めたあと、『へいへい分かりました。』とクサナギさんは、後ろを向いて耳を塞いでくれた。そして僕はおもむろに懐からマウリア先生の闇魔法の魔導書を取り出した。
―――!
それを見た瞬間シズカさんはそれが何か分かったようだ。で、僕を見る。
僕は頷くとシズカさんは少し考えた後、彼女は無言で僕の手の中の魔導書に対して手で払う仕草を見せた。もうしまってくださいという事だろうか。そう受け取った僕は闇魔法の魔導書をしまった。
するとシズカさんはもういいよとばかりにぽんぽんとクサナギさんの肩を叩いた。
「ん?もういいの?」
「ええ。それで他の人に秘密にしたいというスメラギ君の理由も理解したし、尊重したいと思うの。だからユズリハは席を外してくれる?」
「ふーん…まぁいいよ。シズカがそういうならそうなんだろう。じゃあ、私は行くけど、アキラっちは変な事を考えるなよ?クミコがうるさいからな。」
と言ってクサナギさんは個室から出ていった。
『なんでユズリハが一人で出て来てるんだ!アキラとシズカを二人きりにする気か!?』
『クミコ、ここまで追っかけてきたの?暇なの?』
とか聞こえたような気がするが、気にしない事にする。
で、扉を閉める。シズカさんと二人きりだ。告白した時を思い出してちょっと緊張しないでもない。一つ深呼吸する。するとその空気を感じたのか、ちょっとジト目になるシズカさん。僕は慌てて闇魔法の魔導書を懐から出す。
「それ、闇魔法の魔導書よね?」
シズカさんは正気?とばかりに僕に確認してきた。
「うん。僕が光魔法を使うのは知っていると思うけど、僕は光属性以外の適正がほぼ無いんだ。で、悩んでいたら闇魔法を紹介されて、適正を調べてみたら高かったんだ。だから僕は闇魔法を使いたいと思っていて、今まで試行錯誤してきたけど、上手くいっていない。そこで魔法に詳しいシュテファンさんの力を借りたいという訳なんだ。」
「うーん、なるほどね。」
しばらく考え込むシズカさん。
「そうね。確かに危ない橋ではあるけど、とても興味深くその上面白そうね。私自身は闇魔法を使う気はないとはいえ、その知識が他の魔法の役に立つかもしれないし、将来魔族と敵対する事が絶対無いとは言えない。私にも貴重な機会と言えるし、何より私の魔法知識欲がやれと言っているわ。だから私からもお願いするわね。」
「そうか、シュテファンさん、ありがとう。」
「そうそれ、これからは私の事はシズカでいいわ。私もアキラ君と呼ぶわね。」
その後、僕らは日没までの数時間、魔導書を片手に議論を戦わせた。これから火水木の放課後はシズカさんと闇魔法の研鑽を重ねていくことになる。僕にとっては闇魔法の習得だけでなく、基礎魔法属性への知識も深める事になり、一石二鳥ともいえる結果になったのだった。




