第27話 告白
…そこにいたのは一人ではなく三人だったけど。
真ん中には僕が呼び出したちょっと困った顔をしたシズカ シュテファンさん。左には険しい顔をしたクミコ。右は面白そうな表情を隠そうともせず見守っているクサナギさん。
ああ、うん。まぁこれは僕が迂闊だったのかもしれない。実際にこの場に来てみれば相手からするとそういう展開がまず浮かんだのだろうと気付かされた。僕が再度の《《愛の告白》》をシズカさんにするのではないかと。
僕もシズカさんも何かをしゃべろうとしたところで、それらを遮るようにもう我慢ならんとばかりにクミコが前に出て僕に告げた。
「アキラがそこまでシズカの事を好きだとは知らなかった。諦めないのは時として美徳かもしれないが、しつこい男はそれ以上に嫌われるぞ?」
と僕はいきなり一刀両断された。アキラは125のダメージを受けた。
ごふっ。だ、大丈夫、ただの致命傷だ。
でも僕にも引けない理由がある。
「あの…シュテファンさんと二人きりで話たいんだけど?」
「それを認めるくらいなら、最初から私はここに来ていない。」
「まぁ、そうかもしれないけど…僕は別にシュテファンさんに改めて告白するために呼び出したんじゃないんだ。それならいいだろう?」
「それを聞いてますます良い訳があるか!アキラ、何を企んでいる!シズカを傷つけるつもりならばお前と言えど許さないぞ!」
どこをどう切ったらそんな話になるというのか、クミコはもう手を付けられない状態になっている。氷の美姫の異名はどこ行った。ほらそこのシズカさん、横で『スメラギ君の実力で私をどうこう出来るとも思えないけど』とか言わない!小さい声でも聞こえてるから!そっちの方が地味に効いてるから!
はぁ…、先生。陰キャにとって地獄としか思えないこの状況がリスクってやつですか?そうだとすると、ごめんなさい。僕はもうリスクに立ち向かえる気がしないです。
「まぁまぁ、クミコも落ち着きなよ。見た感じこのアキラがそんな事するようには見えないし、本当にそれ以外の用事でシズカを呼び出したみたいだしさ。」
とこんな地獄のような状況で、クサナギさんが助け船を出してくれた。
ああ、女神がここにいた。もう貴女に足をむけて寝られません。と思ってキラキラと輝いた瞳(自称)でクサナギさんをみていたら
「悪いけど、気持ち悪いからそんな目でこっち見ないでくれる?」
とまたもや切れ味鋭い矢が僕に容赦なく突き刺さる。大丈夫、ただの致命傷だ。致命傷は何度受けてもただの致命傷なんだぜ。
「そうよ、クミコ。ついてくるだけで口を挟まないって約束だったでしょ?
ごめんね、スメラギ君。二人きりって言われてちょっと一瞬だけ不安になっちゃって、その時にクミコに相談したらこんな事になっちゃったの。もうちょっと落ち着いて考えればよかったのにね。」
『ぐぬぬ』と悔しそうに僕を見ているクミコ。
シズカさん、ちなみにアレですか。もうちょっと落ち着いて考えれば、僕の実力でシズカさんをどうこう出来るとも思えない事に気付けたってことですかね?まぁ事実ですけど。するとクサナギさんが
「で、どうなの?告白じゃないなら、私たちが同席しても…クミコは面倒そうだから除いてもいいけど『なんでよ!』『どうどう』。ほら、こんなだし私だけついていくってのはどう?それならまぁあの猛犬も落ち着くとはいわないけど、納得するとは思うのよね。」
僕は考える。話すのは一人でも少ない方がいい。これは僕だけの問題ではないのだ、間接的にマウリア先生も危険に晒しているのだから。
先生の言葉を思い出す。リスクとその見極め。僕はじっとクサナギさんを見る。どう?とばかりに小首を傾げられた。この人が闇魔法の相談に役に立つかどうかは分からないけど、この人は信用していい人だと思う。
「わかりました。クサナギさんにもご足労をお願いしてもいいですか?」
「ええ、もちろんよ。シズカは良いのよね?」
『ええ、もちろんよ。』と言ってくれた。その隣ではクミコが水色のハンカチを噛みながら『むきぃぃ』と悔しがっている。そういえば今でこそ氷の美姫なんて言われてクールなイメージを持たれてるけど、幼い頃はこういうアツい面を結構見せてたよなと懐かしく思い出した。
「じゃあ、クミコは後でね。アキラ、どこか場所はとってあるの?」
「ええと、そうだなぁ。本当はここでと思ってたんだけど、学園の図書館の個室に行こうか?あそこなら防音もしっかりしてるし。」
と僕らはクミコをおいて、図書館の個室に向かった。