第26話 闇魔法とリスク
火水木は、講義メインの三日間だ。得意分野だから余力があるともいえるし、ここで余計な点数を落とすわけにはいかないという面もある。
うん、まぁでも闇魔法に手を出しちゃうんだけどね。
闇魔法の事を知っているのは今のところ、マウリア先生だけだ。レイラにも言ってない。別にレイラの事を信用してないとかじゃないんだけどね。どちらかというと驚かせたいになるのかなぁ。
―――闇の矢!
…
うんともスンとも言わない。
闇魔法の魔導書をもらってから一週間が経つけど、まだ闇魔法の一つも発動していない。正直、苦戦しているね。ただ魔物には基本的に効果が薄いみたいだからダンジョン演習に使えるとは思ってない。あと来週と再来週の個人戦は、下位同士の対戦になるので、そこは闇魔法無しで十分にいい勝負になるのではないかと思っているし、そうしたいとも思っている。光の矢も昨日みたいにAクラスといえど下位同士なら十分通じる気がするんだ。
ただし、3週間後から始まる中位(11~20位)との戦いでいい勝負に持ち込むには何らかの闇魔法が必要なのではないかとも思っている。だからそれまでに何か使える闇魔法を覚えて、実戦で使えるようにするのが今の目標だ。
そして攻撃魔法で一番オーソドックスな矢の魔法。闇魔法なら闇の矢を使う訳にはいかない。黒い矢の魔法なんか使ってしまえば一発で闇魔法というのがバレてしまう。だからそれまでに闇の矢以外の闇魔法を覚えるところまでいかないといけないんだけど…
―――闇の矢!
ぷしゅううううう。
とはいえ、この通り基礎魔法である闇の矢ですら発動してないんだけどね。うーん。何かが根本的に違うのかなぁ?なんかそんな気がする。
ということで先日マウリア先生のところに相談に行ったんだけど、予想に反してこう言われたんだ。
「アキラ。私はアキラに闇魔法の魔導書というこれ以上ない貴重で危険な物を渡した。そこでは私自身も相応のリスクを背負っていると思っている。だからアキラにも私と同様にチャレンジという名のリスクを背負って欲しいと思っている。」
いきなりリスクと言われて僕はきょとんとしてしまったが、マウリア先生は手元の書類から目を離すと、僕を見ながらすっかり冷めてしまったと思われるコーヒーをすすりだした。
「私はアキラの一番の問題点は戦えないことではないと思っている。アキラが一番取り組まなければいけないのは、人付き合いなのではないか?アキラは相談すべき人を見極めて、そこでリスクをとるべきだと私は考える。だから、私はアキラの相談に乗ってやらない。」
マウリア先生はそこで席を立って窓の外を見た。そこは魔法の練習場で窓の外では魔法の練習をしている生徒たちがいる。
「私が講義している魔法史なんて興味を持つ学生が少ない中、真剣に取り組んでくれるアキラの事を個人的にとても好感を持っている。そんなかわいい生徒がわざわざ私のところに頼みごとにきてくれる。本当は相談にのってやりたい。だが、それが本当にアキラにとって良い事なのだろうか?とも思うんだ。」
振り返って『わかってもらえるか?』と先生に言われた僕は、その先生の顔が美しくもとても悲しそうにしか見えなくて、ただ頷くしかなかった。僕はほどなくして先生の研究室を辞した。
うーん。このまま一人でやっても何も進展が無い気がする。先生のいうとおり誰かに相談するべきなのかもしれない。誰に相談するべきなのだろうか?
まず魔法に詳しい人だよな。そして僕が相談できそうな人で闇魔法の秘密を守ってくれそうな人か。
…うん、一人心当たりがあるね。
僕は放課後、その人を呼び出したんだ。二人きりになれそうな屋上に。
そして僕が放課後屋上に行くと困った顔をしながらだけど、その女性はちゃんといてくれたんだ。