第25話 個人戦(第四週)
今日は月曜日。午前中の講義やレクチャーが終わって午後になれば第4週の個人戦だ。
第4~6節は下位(21~30位)同士の戦いになるから、下位にいる者からすれば、ポイントを得られる最大のチャンスはここで、絶対に負けられない戦いになる。そして学園側《作者》の厳選なる抽選の結果、僕の相手に決まったのは順位第24位ルシア・バルガス。
マリュウカ取り巻き三人衆の一人で、槍士貴族様と言った方がみんなには馴染み深いだろうか。
演習場前で無言で順番を待つ僕とバルガスさん。
授業は基本的に一緒なので、別に2週間前のダンジョン演習から一度も見かけたことも無い訳ではないが、基本的に立ち位置的にも身分的にも全く交わらないので、一言も交わしてはいない。
前の組が終わったのだろう。演習場のドアが開いた。演習場に進むバルガスさん、入る直前に振り返ると
「調子に乗るなよ、平民!
前々回のダンジョン演習では私より評価が良かったみたいだが、私はお前より劣っていた等とは一瞬たりとも思っていない。私は常に3匹以上のゴブリンと戦っていたんだ。1匹しか戦っていない、しかもその1匹すら倒せなかったにもかかわらず、ちょっと指示を出した程度で良い気になるなよ、平民!
今日、衆人環視の前で圧倒的に打ち倒してどちらが上かをはっきりさせてやる!!!」
―――バンッ!
それだけ…というには随分と長い口上だったが、それを言い放つと演習場の中に入り、バルガスさんは勢いよくドアをしめた。
「うん、それは別にどっちでもいいんだけど、少なくとも僕はまだ中に入ってないんだから、ドアは閉めないで欲しかったな。」
もちろんそんな僕の言葉はドアに遮られて届くはずもなかった。
ドアを開けて演習場内に入るとそこには何食わぬ顔をしたバルガスさんがいた。
僕も特に何も言う事はなく、開始線について試合開始を待つ。
―――ブーッ
試合開始のブザーが鳴る。するとそんなに強くなさそうな火の矢が飛んできた。
バルガスさんの火の適正はそんなに高くないのだろうが、特にこれでどうこうという訳ではなく牽制程度なのだろうな。僕はそれを盾で打ち払うと、そこにバルガスさんが槍をしごいて向かってきた。一突き二突き三突き。
―――カンッカンッカンッ!
その全てをなんとか盾で防ぐが、それでバルガスさんが別に態勢を崩すわけでもなく、僕の持つメイスの範囲外なので、カウンターを仕掛けられる訳でもない。
―――カンッカンッカンッ!
僕が近寄ろうとすれば、下がりながら槍で突いてきて簡単には近寄らせてくれない。離れればその槍の射程を最大限に生かし一方的に攻撃してくる。僕は盾で守るだけの防戦一方で、さすがは腐ってもAクラスの槍士というところか。オーソドックスだがこれをされると攻撃範囲の短めな武器を持つ僕はどうしようもない。一か八か距離を思い切って詰めるか、射程距離のある攻撃を仕掛けるかだ。
一か八か距離を思い切って詰めようとするが、何度やってもロクに進めない。
それどころか槍の攻撃をもらってしまいそうだ。…うん、わかった。僕の盾の技術ではこのまま無理をしても一方的に突き殺されるだけだという事が分かった。他の方法を考えよう。
―――光の矢!
バルガスさんの攻撃にタイミングを合わせて目潰し的に光の矢を放つ。槍という武器は剣などの他の武器に比べると矢を弾き返しづらい武器だ。これなら有効なはず。そして矢の攻撃魔法はクールタイムがほぼ無いので、どんどんと撃っていく。
しかし、バルガスさんは僕とクミコの先週の戦いを見ていたのだろうか。目を瞑ればなんという事はない事を知っていたようで、目を瞑って守っていた。
「くっ!」
「ハッハッハー!どうした、平民め!こんな蚊みたいな魔法、目を瞑るだけで守られてしまうとは無様過ぎるな!」
と目を瞑ったまま豪語しているので、僕はおもむろに近づいて思いっきりメイスで殴った。
―――バキッ!
「オゴゥッ!」
吹き飛びながら慌てて目を開けるバルガスさん。そこに光の矢を打ち込む。反射的に目を瞑ってしまうバルガスさん。僕はおもむろに近づいて殴る。
―――バキッ!
「オゴゥッ!」
といった感じの事を3回くらい繰り返したら、バルガスさんは静かになってしまった。目に命中させて目潰ししたいなんて誰も思ってなくて、一瞬でも目を瞑ってもらえれば光の矢的にはそれでいいのよね。それをバルガスさんはずっと瞑ったままでいてくれるとか、目に命中するより有難いんじゃないだろうか。
バルガスさんは戦意を喪失したみたいだったが、降伏はプライドが許さないのか絶対にしなかった。このままだと終わらないので、最後にもう一度メイスで思い切り殴ってご退場いただいた。
やった、初勝利だ!
[個人戦4/10終了:合計7点]