第24話 モーニングカフェ
そういえば、帰り道あんなに張り合ってた二人(斥候マウバレイ君と女盗賊アン)なんだけど、気付いたらすごい仲良くなってた。途中から恋人同士みたいだったし、帰り道にはアンとかめっちゃラブラブ光線出しまくりだったんだよね。しかもマウバレイ君はそういうのを受け止め慣れてるのか全然余裕そうで、生きてる次元が違うなって思いました。
僕も早く彼女欲しいなって、すごく切実に思いました。ハイ。
さて、今日は週末土曜日。毎週恒例の死者の墳墓にいってレイラと白い魔石稼ぎの日ですよー。ちなみに最初に戦っていた場所よりちょっとずつ奥に進んでおり、スケルトンもちょっとだけ強くなっている。(得られる白い魔石もちょっぴり大きくなっている)
とはいえ、それ以前に僕は体力をつけた方がいいみたいだから、現在自主訓練の早朝ジョギング中なのだ。
ふう、いい汗かいた。あんまりやり過ぎると日中に響くからこんなところかな。
…おや、あそこにいるのはマウバレイ君とアンでは?っていうか、二人とも昨日と服装が同じなんだけど…え、え?昨日のうちにもしやもう?…キャッ。大人ってしゅごい。
あれ?でも、なんか険悪そうな雰囲気なんだけど。
「信っじらんない!昨晩あれだけ愛してるって言ってくれたじゃない!」
「うん。アンの事は愛してるよ?」
「じゃあなんで、これから他の女のところに行こうとしてるのよ!!!」
「そりゃ、その娘の事も愛しているからだよ。」
「…!」
―――バチーン!
アンが思いっきりマウバレイ君の頬を引っ叩いて彼の下から立ち去る。目に涙溜めてるように見える…なんか切ないなぁ。あ、こっち来る。慌てて隠れようとするもアンに見つかってしまった。
「…見たわね?」
袖で涙を拭いながら、ちょっと目が赤いアンに問い詰められる。僕は目が泳ぎながらこう答えた。
「…イイエ。」
「下手な嘘はいいわよ。はぁ…アキラ。これからモーニングコーヒー付き合いなさい
、奢るから。いいわよね、はいかイエスで答えなさい。分かった?」
「えっ…?い、イエス?」
「そう。良かったわ。じゃあ、行きましょう。」
僕はアンに有無を言わさず連行された。
「さ、いただきましょ。」
アイスカフェオレとトーストされたサンドイッチが僕の目の前にある。ここ、人気のカフェだよね。このモーニングもいいお値段だったなぁ。と思いながらも食べない選択肢はないので食べながら話を聞く。
「あーあ。しかしみっともないところ、見られちゃったわねぇ。」
「僕、誰にも言いませんよ?」
「当り前よ!とはいえ、ただ単にアタシが馬鹿だっただけなんだけど。普段のクラスでもあのイケメン三人の中でもマウバレイはいつもあんなノリだったわけだし。アタシがちょっと浮かれちゃっただけって話よね。」
『まぁ別に減るもんじゃないんだし、いいんだけど。』と言われるも僕は『はぁ…』とだけ相槌を返す。見くびるなよ、陰キャに恋だの愛だのの話に入っていける訳ないだろ!
「で、アキラはどうなの?誰か女の子とヤッた?」
―――ブフォッ!
僕はカフェオレを噴いた。いきなり朝からなんてことを言うんだ。
「キャッ!汚いわねぇ…。じゃあ、なんだ。やっぱりアキラは陰キャそのままのばっちい童貞なんだ。」
「ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」
『えー?本当?』とジト目で見てくるアン。
「じゃあ、聞いてあげる。美人と手を繋いだことある?」
「…クミコと10年位前なら《《何度も》》手を繋いだことあるぞ!」
「…確かにアンタら幼馴染だったわね。っていうか、それドヤ顔でいう事なの?まぁいいわ。次の質問ね。キスはした事あるの?」
「ち、ち、ちっすですと!!!
…オホン。拙者僧侶ですがゆえに職業柄何度も人工呼吸の経験はありますぞ。」
またもやジト目で見られる。うん、我ながら苦しい事は理解している。
『へー、じゃあさ』とアンは言いながらコホンコホンと咳払いをし、急に声色を変えてかわいらしく上目遣いで演技を始めた。
「アキラ君、今の私のファーストキスだったの。私の初めてをあげれて嬉しいな。べ、別にどっちでもいいんだけど、アキラ君も初めてだったのかなぁ?」
と小首を傾げて僕に聞いてくるアン。お、おまっ、誰だ!?
「もしかして、人工呼吸とかしてるとファーストキスじゃないのかなぁ。私もアキラ君の初めて欲しかったな…」
「初めてです。人工呼吸はファーストキスに入りません。医療行為ですから!」
思わず僕はサムズアップを決めながらそう答えてしまった。するとそれと同時にすっと表情が元に戻るアン。
「はい、ダウトー。アキラはやっぱりばっちい童貞ね。」
「ど、ど、ど、どうていちゃう…!あ、しまった。」
っと、もう8時半だ。レイラとの約束の9時に間に合わなくなってしまう。朝練したからシャワー浴びたいし。浴びなければ間に合うけど、前にそれで怒られたんだよな。俺は同じ失敗を二度しない男だ!(キラリ)
「アン、ちょっとこの後約束あるから失礼するよ。」
「えー、アタシみたいな美少女を放置してどっか行くの?」
「や、約束の前に美少女とかそうじゃないとか関係ないだろ!?」
「ははーん、約束相手も美少女か。んー?ああ、Bクラスのレイラね。確かにあの娘も美少女だもんね。しかも噂に聞くにはかなり仲良くやってるみたいじゃない?あの娘とはヤッたの?」
「だから、なんですぐヤるヤらないの話になるんだよ!?」
「で、ヤったの?」
「する訳ないだろ!」
「じゃあ、やっぱりアキラは童貞確定ね。」
「ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!ってこの話はいいんだよ!じゃあ、もう行くからな!」
僕はアンを放置して急いで寮に戻ってシャワーを浴びてレイラとの約束の場所に急いだ。
一方で一人カフェに残されたアンは一人でこんな事を考えていた。
「ふーん、レイラか。アキラはクミコやシズカがタイプなのかと思ってたわ。確かにレイラも美少女だけど、レイラがいけるならアタシでも勝負には加われそうね。アキラ自体はまだ現時点では物足りない事は確かだけど、アキラが有望株なのは確かなのよね。」
―――ずずーっ。
アンはカフェオレを飲みながら、アキラの周りの美少女達を思い浮かべる。クミコ、シズカ、レイラ。
「しかもその株が値上がりした後だと、もう勝負としては苦しそうなのも確かね。安値の今のうちにツバつけとくのもありかもしれないわね。」
フフと今後の計画を考えて楽しそうに笑うアンだった。
僕はその後シャワー浴びて魔石を稼いだりレイラと訓練したけど、闇魔法の進捗も含めて特筆すべきこともなく終わった。そして個人戦は四週目に入り、負けられない下位同士の戦いが始まる。