第21話 新しい魔法
火水木は授業の日だ。今は個人戦とダンジョン演習にどうしてもフォーカスが当たってしまうが、成績判定の配点的にはこちらの方が大きいのだから、こちらを手を抜くのは大損だと思うんだけど…割とみんな授業に集中してないよね。まぁ、僕にとっては良い事だからいいんだけど。
でも僕も目的をもってこの授業期間に当たりたいと思う。それは魔法戦の強化だ。
魔法史の終了後、僕はマウリア先生に相談したんだ。
「ん?魔法戦を強化したいって?」
「はい、僕はどうしても近接戦闘能力が低いので、敵を倒す力が弱いです。そっちはそっちで努力してますけど、成長はゆっくりですし、僧侶という職的にも劇的に強くなるところまではいかないでしょう。なので新たに威力の高い攻撃魔法を覚えたいんです。」
「んー、アキラは僧侶だったよな。アキラの回復魔法は見事だと思うし、別にそのままでも悪くは無いと思うが。誰も僧侶に戦闘力なんて求めておらんよ。それでもと言うのなら…うーん、僧侶か。何がいいかな。」
「光の矢…は、ダメですよね?」
「あれはああいう魔法だからな。不死者用と割り切った方が良い。アキラの適正外だと思うが、火の矢を覚えるという手もある。他は…光以外の適性を探っていくという感じだが…他属性の適正はどうなんだ?」
「火・水・土・風…その辺の基本的な属性は軒並み壊滅的ですね。基本属性とは言い難いですが、光の適正が高かったのは幸いでした。」
「ふーん、闇は?」
「闇!?」
「ああ、たまに得意属性の正反対の属性が得意なやつがいるんだよ。非常に珍しいけどな。」
「え、でも闇って不味くないですか?」
「倫理的な面も含めて色々と不味いかもな。バレればモラレハ神国から異端で追われるかもしれないな。」
「そんなのサラっと、勧めないで下さいよ。」
「でも、強くなりたいんだろう?攻撃魔法欲しいんだろう?」
「くっ。」
「陰険なアキラにはもし使えたなら闇魔法はぴったりかもしれん。すごい嫌らしい攻撃してきそうだ。まぁ、とりあえず適正を見てみてから考えてもいいんじゃないか。」
「陰険じゃなくて、陰キャです!」
どっちも大して変わらんだろ、ほれほれとばかりに黒い魔石を中央に置いた魔法陣図を僕の前に出した。この闇系統に属する黒い魔石に僕の魔力を流した時にどれくらい活性化(輝く)するかで闇魔法の適正が分かるって訳だ。
恐る恐る手を伸ばしてみる。
―――ぺかー
黒い光…って表現が正しいか分からないが、光自体が黒いので眩しくて溜まらないといった感じではないものの昼なのに部屋が黒く染まる。そして魔石の内部が黒光りして勢いよく渦巻いているのが分かる。これは…とマウリア先生を見る。
「いやぁ…本当に闇魔法に適正があるとはな。しかもこれはかなり適正が高いんじゃないか?闇魔法に適正がある人間なんて見たこと無いから知らんけど、80~90%(闇魔法を唱えるときに魔法力の変換損失が10~20%しかない)くらいありそうだ。アキラ、君って本当に人間?魔族が化けてたりしない?」
「ちょ、ちょっと、怖い事言わないで下さいよ。光魔法の適正が100%近いんだから人間でいいでしょ?そんな魔族いないんだから。」
そういえばそうだったね。と言いながら魔法陣図と黒い魔石を片付けるマウリア先生。そして鍵がかかった棚から一冊の本を取り出してきた。
「はい、闇魔法の魔導書。貸してあげるから大事に使ってね。分かってると思うけど、他の人にみられないようにするんだよ。」
とぽんと焼いた芋でも渡すかのように気軽に渡してきた。
えっ?えっ?えっ?こんなの禁書レベルでは?と僕はそれを受け取って良いのか分からず、思わずあっつい芋をいきなり渡されたかのようにお手玉する。
「闇魔法が我ら人間に嫌がられるのは、魔物にはあまり効果が無い敵が多く、その使用先の主たる相手は人間だからだ。だから君の個人戦には役に立つけど、ダンジョン探索にはそこまで役に立たないとも言える。でも光魔法と組み合わせた時、私は君ならば無限の可能性を見せてくれるんじゃないかと思っているんだ。」
僕の目をじっと真剣に見ながらマウリア先生はそういったかと思うと、今度は雰囲気を和らげて微笑みながらこう続けた。
「とはいえ、慣れるまでしばらくの間は一番簡単な闇魔法を使うのさえ、時間がかかるだろうけどね。さぁ、もう用は済んだろう?私も忙しいのでね。ほら、行った行った。」
と僕はマウリア先生の研究室を追い出されてしまった。その手に闇魔法の魔導書をもって。…とりあえず隠れて読んでみるか。