第2話 自分磨きのためのソロ探索
今日は土曜日で週末のお休み期間だ。
昨日の帰り際、クミコにもっと鍛えろと発破をかけられたけど、僕もそのままで良いとは思っていないよ。敵と離れて戦う魔法の行使系はそこそこやれてると思うけど、敵のそばで武器を持って戦うのがまだまだ慣れていないんだよなぁ。
前期試験は一般学問系や魔法学は良かった。でもやっぱり戦闘系があんまりよくなくて、ここが今以上に足を引っ張ってしまえば、来年はAクラスからBクラス以下に落ちてしまうかもしれない。そうしたらクミコとも違うクラスになってしまうわけで、それは避けたいところだ。だから後期試験対策としても戦闘慣れしたい。
ん?クミコの事を狙ってないって言っておきながら、十分意識してるじゃないかって?いやいや、別に本当に狙ってる訳じゃないんだ。憧れている事を別にしても、クミコみたいな素敵な女性の近くにいられるのは悪くないと思わない?それに同じクラスにいればワンチャンあるかもしれない。宝くじは買わなきゃ当たらないんだ。ん?そう言って宝くじ当たってる人見た事無いって?いいんだよぅ。
それに進路とかの今後の人生を考えれば、どうせならAクラスを維持し続けた方がいいだろうから、今後の人生のためっていう大義名分もあるのだしAクラスは維持したいね。
それにクミコの事は置いておくにしても、多分最上位クラスであるAクラスの方が女の子にモテると思うし…モテるよね?だからAクラス死守ゼッタイ!
陰キャ特有の言い訳がすっごい早口だって?放っておいてよ。
なおそんなクミコはクサナギさんとシズカさんの仲良し三人組に、同じクラスで仲がいいイケメン男子グループ3人のいつもの6人で、今週末も学園ダンジョンを探索しているらしい。
…別に悔しくなんてないよ。彼らと彼女らは正直ルックス的にもお似合いだし、テルキナ達と違って彼らイケメン男子グループ3人は性格もよくて僕とも普通に接してくれる性格までイケメンなんだ。悔しいことに完敗だよ。
で僕は今何をしているかというと、さっき言った戦闘慣れのために週末は単独で迷宮に潜って個人戦闘力を高めるのを頑張っているんだ。なんで迷宮に単独で行くんだって?確かに所詮は回復職なんだから仲間を組んだ方が迷宮探索の効率は上がるよ?
でもその時他のパーティーメンバーは僕に近接戦闘能力を求めていないんだ。回復職が無駄に前線に出て負傷、その結果本来の役割である回復職を出来なくなるなんて望んでいない。もちろん昨日みたいに多数の敵が出たら、一匹くらい僧侶に受け持って欲しいなんてことはあるだろうけど、普段から積極的に前に出て欲しいとまでは思っていないんだよね。
でもそれだと僕の近接戦闘能力はいつまで経っても上がらない。だから僕は単独で迷宮に潜るんだ。そこを鍛えるために。
とはいえ、普通に潜ったら回復職の僕は経験値もお金も全然稼げない。学園ダンジョン自体は割とよくあるオーソドックスなタイプのダンジョンなんだけど、実はその3階に分岐路があって、そこから違う迷宮にいけるんだ。そこは死者の墳墓という名前の学園ダンジョンと全く違う性質のダンジョンが広がっていて、出てくる敵はその名が示す通り不死者ばかり。不死者に特効がある回復職の独壇場だね。
ここの浅い階層ならスケルトン系の剣士や力任せなゾンビばかりがいっぱい出るから近接戦闘の訓練になるし、回復職なら相性が良いので単独でも十分に戦える。
とにかくここで近接戦闘の経験を多く積もうという訳だ。まぁ、不死者の群れなんていくら倒してもロクな拾得物《ドロップ品》が出ないから、儲けが微妙なのが玉に瑕かな。よっと!
―――ガッ!ドガッ!
ここら辺はまだかなり弱い部類のスケルトンだね。僕でも一撃で倒せる。でもそれじゃあまり経験にならないし得られる魔石は米粒くらいだ。だから目指す目的地はもっと奥だね。ん?魔石?魔物を倒すと手に入る魔力が宿る石だよ。その大きさに比例して売るとお金になるんだ。
あ、そうそう。この狩場なんだけど、回復職だけじゃなく、炎系の魔法使いもそれなりにいるね。不死者は火の魔法に総じて弱いからね。ゾンビなんかは特に足が遅いから、距離をとるように下がりながら魔法を撃てば十分に一人で戦えるんだ。スケルトンも素早い敵という訳でも無いからね。せいっ!
―――カキン!カキン!ガッ!ドガッ!
ふぅ。ちょっとは骨のあるやつが出てきたね。
ん?
…違う、違うんだ!断じてギャグじゃないんだ。僕の名誉のためにも認識の訂正を要求する!!!
はぁはぁ。…気を取り直して次に行こうか。まだこの辺りじゃあまり経験にならないから、もう少し奥に行こうかな。
スケルトンの話の続きだけど、逆に剣士なんかは非常に相性が悪いと言えるんだ。スケルトンなんて斬っても斬っても蘇ってくるし、剣や槍といった斬ったり突いたりする武器と骨との相性も悪い。僧侶の槌なんかだと骨ごと叩き潰せるから、その点でも僧侶は相性いいかもね。ゾンビなんかも斬っても斬っても蘇ってくるし、むしろ既に死んでる…死体であるあの腐った肉体をいくら斬っても意味があるとは思えないよっと、せいやっ!
―――カキン!カキン!ブウンッ!
―――スポッ!ヒューン
「あっ!大振りしたら僕のメイスがすっぽ抜けて飛んで行っちゃった。ああっ、待ってー!」
…
…
ふぅ。何か?
武器を振り回したら飛んでいくとか緊張感漂うダンジョンでそんな事がある訳ないじゃないか。もしそんな奴がいたらそいつはちゃんと集中してないってことになる。もしそんな奴がいたら、こう言ってやるといい。
―――ダンジョンは遊びじゃないんだぞ。
ってね。いいかい、もう一度言うよ?スケルトンには僧侶の槌なんかだと骨ごと叩き潰せるからオススメだよ!
だから基本的にこの死者の墳墓に剣士とかはいないんだ。…いないはずなんだけどね。