第19話 特訓と攻撃魔法
今日は日曜日。レイラと個人特訓の日だ。
昨日はいつものように死者の墳墓でスケルトン相手に白い魔石を稼いだ。生活必需品も揃ってきて資金にも少しずつ余裕が出てきたし、装備回りにも少しお金をかけてもいいかもしれない。でも装備って高いんだよなぁ。後でレイラに相談してみよう。
午前中は学園の図書館で座学の復習。レイラはやれば出来ると思うのだが、勉学は本人いわく向いていないらしく、すぐに飽きて僕を誘惑してからかって遊んでいる。汗かいてなさそうなのに胸の谷間を露骨にタオルで拭うとか。レイラのために補習をやっているのだから、もうちょっと真面目にやって欲しい。
自習終了後、流行りのランチを食べながら先程の装備の話をレイラにしてみた。
「うん、装備か?そりゃお金をかけた方がいいに決まっている。学園ダンジョンは危険が少ないとはいえ、生命にかかわる事が無い訳じゃない。ちょっとの差が明暗を分ける事もあるのだから。」
「確かに…でも装備って高くない?ただでさえ、武具の修繕費だって馬鹿にならないんだし。」
「まぁな…だから、安めの小物あたりから少しずつ充実させていくのがいいだろうな。」
「うーん、小物ねぇ。その辺ってセンスが問われそうだよなぁ。後でレイラも一緒に見てくれない?」
「!」
「なんでそんなびっくりしてるのさ。」
「アキラが女性を自然に誘った…だと!?」
「照れを隠してなるべく自然に誘ったつもりなんだから、そこをフォーカスしないでよ!」
「アキラ、ひょっとして私は女性として意識されていないとかじゃないだろうな!」
「…なんでいつもレイラに指導されているように、頑張ってなるべく自然に誘ったのに叱られなきゃならないのさ。」
何を思ったのかいきなりレイラは中腰になると、胸を寄せて前屈みになり僕に胸の谷間を見せつける。僕は思わず顔を真っ赤にしてどぎまぎしてしまう。
「ふむ…よしとするか。」
「なんて確認の方法をしてるんだよ!」
「嫌だったか?」
「嫌じゃないけど…あ、そういえば前から気になっていたんだけど。そのレイラの鎧って露出はかなり高いけど、でも一方で目を凝らさなくても魔力を感じるくらいの結構な逸品だよね?それすごく高いんじゃないの?」
「ああ、そうだ。これはマッケロ商会秘蔵の品らしくてな。金貨1万枚以上する極上品らしい。効果もすごいぞ。防御力は元より温度調節機能が付いてて汗かかないとかな。ちなみに今までは愛人に着せて楽しんでたらしい。」
「金貨一万枚!?地方なら金貨1枚で家族が一か月暮らせるよね!?それが1万枚?っていうか、その前にさっき胸元をタオルで拭く振りしてたよね?汗かかないんでしょ!?」
「あちゃー、まぁいいじゃないか。『よくないよ!』ちなみに、こういう魔法の鎧は使わなければ紛失もしないし、時間経過で価値が下がらないから資産としても優秀で、その間も愛人に着せれば楽しめるしの一石二鳥で悪くないそうだ。今回私のところに回ってきたのは、これも私が王国騎士となるための投資の一環らしい。まぁ貸与だがな。」
「うへぇ…お金持ちってすごいね。」
「そうだな。でも貸与の理由がもう一つあってそれも割と酷いんだぞ、聞くか?
この魔法の鎧自体は確かに鎧として優秀だ。でもこの見た目は男は嬉しいだろうが、どうでもいい男も含む全ての男の視線をひきつけるから、女としてはとっても微妙だ。だが同時にそれが会頭の狙いでもあるのだ。」
「え、どういう事?」
「私が王国騎士になる事を期待されて、一時的に奴隷ではなく養女になってるのはいいよな?それで会頭に『お前がもし王国騎士になれなかったら、お前は奴隷女として売られる事になる。そうなった時のために、それを装備して男に見られることで女を磨き、少しでも価値を上げろ』って事らしい。」
な、酷いだろ?と言って笑うレイラ。
「とはいえ、この金貨一万枚以上する鎧が優秀な事は確かだし、無償で貸与してくれるなら喜んで使うんだけどな。だからこの恥ずかしい鎧を着て、アキラにまじまじと見られる事は私の仕事でもあるんだ。だから遠慮せずに見て良いぞ?」
ほれほれと胸を僕の方に押し出してくるレイラ。思わず視線がそっちに行ってしまうけど、『そっかそっかー、じゃあ僕もバッチリ見れてお互いにWin-Winだね』とはならないよ。しかも気の利いた返しが全く浮かばない。もっと恋愛(?)偏差値上げたいよ。
午後からは、レイラ先生の個人レッスンだ。
弓矢での練習が早速個人戦に役に立ったから、今週もまずそれからお願いする。
―――ヒュンヒュンヒュンッ!
―――カンッサッカンッ!
まだおぼつかないところはあるけど、先週よりかはよくなったように思える。リアル矢が魔法矢の防御の練習にもなるなんてね。むしろレイラの射る矢の方が鋭いかもしれない。流石に追尾性能は無いけど。
「ところでアキラ。アキラには攻撃魔法無いのか?」
「ある事はあるけど、微妙なんだよね。」
―――光の矢!
僕の光の矢は光の如き素晴らしいスピードで飛んだ。レイラが慌てて避けようとするもとても間に合わず、二の腕にざっくりと刺さる。
「…?」
だが、その直後から怪訝そうな表情を見せたレイラは二の腕をじっと見て、光の矢を抜きさるとそこには蚊に刺されたような跡があった。
「いきなりゴメンね。でも体験してもらった方が早いと思ったから。見ての通り速度は申し分ない…っていうか避けるのはほぼ不可能な気がするんだけど、威力がこの通りで…、ああ例に漏れずアンデットにはこんなんでもすごい効くよ。」
「なるほどな。でも、何でもすぐ決めつけるのはアキラの悪いところだぞ?」
「え、でも使えなくない?」
「確かにそのままならな。それとモンスターにもそれこそアンデット以外には効かないだろうな。だが対人戦では違うぞ?これは強い武器になる。」
「えっ、そんな事ある?」
「あるぞ。これ、目に飛んで来たらどうなる?」
「あっ!」
「恐らくこれは目を瞑ればまぶたで止まる程度の威力だろう。だが、目潰しとしては非常に有効だ。達人クラスともなれば目を瞑らせても効果は薄いかもしれないが、相手を一瞬でも目を瞑らせることが出来ると思えば、非常に効果は大きいだろう。」
そうだ。確かにそうだ。そしてこれがあれば。前々回はともかく前回の個人戦でもう少しいい勝負が出来たのでは?
「そうだな。アキラも気付いたと思うが、これがあれば前回のマリュウカ嬢との戦いも勝てたかどうかまでは分からないが、また違った形になったのではないかと思うぞ。」
「そうだね…そう思うととっても悔しいよ。変な思い込みのせいで…」
「まぁ、それは後悔しても仕方が無い。それよりその光の矢を私に沢山撃ってくれないか?私も盾の練習がしたいし、アキラの光の矢の練習にもなるだろう。使って行けば他の使い道もあるかもしれないからな。」
このスピード特化の光の矢を躱すのはレイラですら難しいのか、最後まで苦戦していた。それでも未経験なのとは雲泥の差らしく練習にはなったようだし、僕の自信にもなったので良かったんじゃないかな。
それと途中からはレイラがリアル弓矢で討ち返すようになり、僕は盾を持ちながら光の矢を撃って、お互いに矢合戦をするなど特訓なんだけど楽しくやれたと思う。