第18話 ダンジョン演習後半(第二週)
「ズレータさん、二人の間で戦線を維持してください。僕はその間に二人を回復します!」
「おう、任された!」
僕は大盾戦士に回復を飛ばす。本当は槍士の方がマズいのだが、大盾戦士の方が何があっても生存時間は長いだろう。そこをズレータが大盾戦士と槍士の間に割り込んで斧で大暴れする。
「おらああああっ!」
まとめてゴブリンを3匹くらい吹っ飛ばした。頼もしい。
「モブ土君は、相手の射程系をお願いします。僕がアーチャー苦手なのでそちらを優先してもらえると助かります。」
「オッケーだよ。」
モブ土君には早速大技である足元に石の槍を生やす石の槍をアーチャーに放ち串刺しにしている。あとはメイジとシャーマンの相手をしてもらおう。
槍士の傍に近づき、槍士の相手を一匹引き受けながら、回復のクールタイムが明けるのを待つ。槍士はかなりダメージが大きいのと動揺が激しいのかゴブリンともまともに打ち合えていない。
クールタイムが明けて槍士に回復をかける。
「少しの間であれば、僕が引き受けるので一回引いて立て直してください。」
「うるさい!平民の僧侶ごときに何が出来る!」
と言って無理矢理前に出てまたゴブリンの攻撃をくらっている。槍士はある程度距離をとって戦う方がいいのだが、明らかに頭に血が上っているようだ。
反対側の大盾戦士は逆に意気消沈しているようで、敵を引き付けるでもなくゴブリン一匹と盾で殴り合いをしているような感じであまり役には立ってない。まぁ回復をしなくていい分槍士よりマシか。
ズレータはゴブリンは蹴散らしていたが、現在はゴブリンファイターと戦闘中だった。1対1なら勝てるだろうが、それをサポートする形でゴブリンリーダーがおり、実質2匹が相手だと流石にすぐには抜け無さそうであった。
モブ土君は、シャーマン、メイジの2匹と岩の矢を撃ち合っている。遠目からの撃ち合いなのと1対2なので、こちらもすぐに決着が付きそうな感じはない。
アキラは戦場を見回すがどこもすぐには決着が付きそうにない。そして槍士は常に回復が必要な状況。そこで僕の選んだ行動は、
―――祝福!
「ズレータさん、頼みます!」
ズレータの武器にブレスをかける。アンデット相手に特効なバフ魔法であるが、平時でも多少の効果はある。この局面を打開できるのはズレータだけだという僕からのメッセージを理解し、ズレータはより激しい攻撃をゴブリンファイターに加えていく。
回復はクールタイムが明ける度に槍士に撃っているが、はっきりいってキリが無い。大盾戦士とモブ土君が被弾した場合はそっちの方が優先である。この二人を視界に入れつつ、目の前のゴブリンを殴っていく。とりあえず出来る事をするんだ。すると
「うおおおおおっ!」
突如、ズレータが雄叫びを上げた。見たところゴブリンリーダーに隙を晒してまで、ズレータは早期にファイターを倒す事を選択し、見事ファイターを斬り裂いた。当然の如く、ゴブリンリーダーにズレータは斬りつけられる。僕はその意図を読みとり準備していた。すぐさまズレータを回復させるべく
―――回復!
とズレータの傷を癒す。そして傷が癒えたズレータは返す刀でゴブリンリーダーを切り裂いた。
「ズレータさん、ナイス!」
そして、僕は結局倒せなかった目の前のゴブリンを盾でズレータの方に突き飛ばす。これも了解したとばかりにズレータは斧を振り下ろし、ズレータはそのゴブリンを粉砕してくれた。
「ズレータさんは、槍士さんのゴブリンから倒してください。僕は斥候さんを見ます!」
「おうよ!うりゃっ!」
ズレータさんが早速近くのゴブリンを粉砕する。僕は先程までゴブリンリーダーがいたあたりでぼろ雑巾のようになっている斥候貴族のところに急いだ。
…
…よかった。まだ息はあるようだ。
―――回復!
ぼろ雑巾のままだが、とりあえず生命を繋ぐ事は出来ただろう。そしてクールタイムを利用して周囲の状況確認する。ズレータが、槍士周りのゴブリンを文字通り破壊していた。そしてそのまま大盾戦士のゴブリンに向かい倒していた。
その後、ズレータはモブ土君と魔法を撃ち合っているゴブリンシャーマンとメイジに向かっていく。大盾戦士と槍士はその場で立ち尽くしていた。お前ら働けよと思ったが、声を掛ける気にもなれず、前を向いてもう一度ぼろ雑巾貴族に回復を掛けた。
ズレータがゴブリンメイジを倒すと、1対1になったのを見計らって、モブ土君がとっておきの岩の槍でゴブリンシャーマンを倒し、ようやくここの中ボス部屋の敵を全滅させることができた。
「ふぅ。ズレータさん、モブ土君、ありがとう。お疲れ様。」
そしてまだ瀕死状態のぼろ雑巾貴族に渋々回復を掛けた。
戦列復帰するにはまだまだ回復が必要なぼろ雑巾貴族と怪我が多い槍士貴族がおり、彼らを全快にするには僕の残りの魔法力が足りなかったのと、もう全員疲労困憊だったので、この階層を最後に撤収する事とした。
これは誰が提案する事も無く、皆が自然と帰路についた。
「おう、アキラ。助かったよ。お前、リーダーも出来るんじゃねえか。だったら最初からやってくれよ。」
「無茶言わないでよ。ズレータさん以外にはあの人がリーダーする以外の選択肢はなかったでしょ。むしろズレータさんがやってくれたらよかったのに。」
「いやぁ、俺はリーダー向いてないんだよ。…まぁでもアレ見ちゃうと俺がやった方がまだマシだったかなぁとも思わないでもないけど。」
「アハハハハハ、そうだよね。」
僕とモブ土君は笑いながら同意した。
ちなみに取り巻き3人衆は僕らの数歩後ろをとぼとぼと歩いている。槍士貴族も意識が戻った斥候貴族もこれ以上の回復《貴様の施し》は不要との事で、大盾戦士貴族が支えながら帰るようだ。
今日は第五階層までで探索を終えて帰還する事になった。
現時点での第五階層突破は平凡な結果でチーム全員がまず1点を獲得。今回のアキラの出来は『優』だったので加点2点で合計3点だった。なんかすごい頑張ったのに先週と同じなのは複雑なような誇らしいような。
[ダンジョン探索2/10終了:合計6点]
[個人戦2/10終了:合計1点]