第16話 個人戦後半(第二週)
僕とレイラの特訓の成果を見くびるなよ!
と意気込んだ時だった。彼女の手元がピカッと光ったかと思ったら、
―――グサッ!
僕の左ひざに雷の矢の魔法が突き刺さる。僕はバランスを崩し転倒した。慌てて前方に魔法障壁を張る。するとその向こうから
「フフフ、アハハハハ!わらわが火の矢しか使えないと思ったのかえ?それはわらわに対する侮辱よのぅ。とはいえ平民ごとき火の矢だけで十分かと思ったが、そうでもなかったようじゃな。いやはや、よく頑張った。褒めてつかわすぞえ。」
魔法障壁の向こうには腰に手を当ててこちらを見下しながら高らかに笑う金髪縦ロールの美少女。
くそっ、まだだ。僕はその間も続く相手の火の矢を魔法障壁で防ぎ、効果が切れる前にまた魔法障壁を張り直しながら、隙を見て自分の膝に回復を使う。よし、まだいけるか!?
―――ビリっ!
うっ、雷の矢の影響がまだ残っているのか…足が痺れている?
―――ぱりんっ
はっ!?慌てて次の魔法障壁を張る。今張り直したばかりだぞ?
―――ガン!パリンッ!
炎の槍か?僕は慌てて魔法障壁を張り直しながら、彼女の動向を窺う。火の矢なら5~6発以上は耐えれたのに炎の槍だと1発で半分以上削られてしまっているのか?
またもや炎の槍が飛んでくる。その後ろから火の矢や雷の矢が飛んできたり準備されているのが見える。僕は足に快麻痺をかけて麻痺をとる。
そして僕は横っ飛びしてその場所を離れながら魔法障壁を張り直す。
そこに数秒後また炎の槍が着弾して、魔法障壁が割れる。
「おうおう、よく粘るではないか平民。地面に這いつくばって、とってもお似合いだがな!アハハハハ!」
くそっ、近づかなければ勝機はない!行くしかない!魔法障壁を張ると、それが割れる前に僕は猛然と彼女の方にダッシュし始めた!
「何!?」
彼女はまだ僕が向かってくるのかと驚いたようだが、彼女の魔法の行使は止まらない。
火の矢だけでなく雷の矢も炎の槍も飛んでくる。炎の矢なら盾でなんとか防ぐこともできたが、雷の矢は威力は低く膝等のの急所にピンポイントで当たらなければなんとかなったが、完全に躱すこと自体は速度的に難しかった。そして炎の槍は威力が大き過ぎて盾でどうこうするのは今のアキラの技術では難しかった。
そして炎の槍の処理を誤って、直撃をくらってしまい左半身が半ば吹き飛ぶような傷を負ってしまった。その時点で誰もが試合終了と思ったが、アキラはそこから驚異的な粘りを見せる。
なんとか魔法障壁を張り時間を稼ぐと自身に回復を使う。それは全快には程遠かったが、魔法障壁が壊れる度に魔法障壁を張り直し、回復のクールタイム経過後に再度自身に回復。それを何度か繰り返し、なんとか動けるようにまでは回復した。しかし、火の矢を避けて避けて避けて、マリュウカ フォン ローゼンタールの下にまで辿り着けるかというとそれは難しいだろう。それにはまだ幾度かの回復が必要そうだ。
そして、この時一試合10分の時間制限の中で既に7分を経過していた。幾度かの回復に必要なクールタイムを考えると、そこから彼女を攻め切るのはいかにも難しい。そこでアキラは時間切れまで粘る事を選択した。時間切れまで粘って引き分ければ1点。救いは彼女には魔法しかない事。魔法障壁で守りきれれば、時間切れまで粘れるのではないかと。
それに気付いたマリュウカ フォン ローゼンタールは、更に魔法を連打する。
「平民め、無駄な抵抗を!落ちろ!落ちろ!落ちろ!」
クールタイムの無さそうな火の矢を限界まで連打し、炎の槍をクールタイムが明ける度に撃ってきた。魔法障壁がすごい勢いで消し飛ばされていく。僕は魔法障壁を張っては破壊され張っては破壊される!
アキラは魔法力にかなり自信があるタイプで、今まで尽きる事を目標として魔法を行使しない限り尽きた事は無かった。しかし、自身の治癒のために魔法力消費の大きい回復を何度も使っており、そして魔法障壁を数えきれないほど使っている。序盤に盾を駆使して魔法障壁を節約していたが、もしそれをしていなかったらとうに尽きていただろう。
一方で貴族は一般的に魔法力が多い傾向にあり、マリュウカ フォン ローゼンタールはその中でも大貴族であり、魔法力が非常に多い事で知られていた。流石の彼女の魔法力であってもここまで攻撃魔法を連打すると底が見えてきた。
「火の矢!火の矢!火の矢!」
「魔法障壁!」
「!」
そしてこの試合何度唱えたか分からない魔法障壁だったが、遂に魔法障壁が現れない時が来た。アキラの魔法力が尽きたのだ。アキラは自らに迫りくる火の矢群を歯を食いしばって見つめるしかなかった。
―――勝者、マリュウカ フォン ローゼンタール!
目の前から目障りな平民が消え、勝者名として自身の名前がコールされた時、マリュウカは自身がもう一回すら火の矢が撃てない事が分かった。彼女もまたギリギリだったのだ。
「フン。」
マリュウカはフラフラになりながら演習場を出ると、そこには目障りな平民が気絶したまま倒れていた。戦闘不能になって演習場の外へ転送された場合、意識が戻るまでは1分弱はかかるらしい。すると彼方から自身の取り巻き3人が喜びながら迫ってきた。
「キャー!流石です、マリュウカ様!平民の癖に無駄な抵抗をしてマリュウカ様のお手を煩わせるなんて、身の程を知らないやつですね、こいつは。」
取り巻き3人のうちの一人が気絶したまま、まだ意識の戻らないアキラを蹴飛ばそうとする。
「うるさい、どけっ!」
マリュウカはそんな取り巻きを突き飛ばすと、その場を去っていった。
「キャッ!…マリュウカ様、どうしたのかしら?言っちゃ悪いけど、平民ごときにちょっと苦戦したからイライラしてたのかしらね?」
…
…
「くっ、ド平民の癖に。」
逸早く自室に戻ろうとするマリュウカの足取りはいかにも疲れたというそれだったが、その口元には薄っすらと笑みが浮かんでいた。
その日のアキラは健闘が認められ、1点の加点があった。
[個人戦2/10終了:合計1点]