第15話 個人戦前半(第二週)
今日は月曜日。
定例の個人戦がある日で、今日の相手は4位のマリュウカ フォン ローゼンタールだ。先週は情けない敗北だったので、今週も敵は強いがもう少し何とかしたい。
ちなみに彼女は大貴族の令嬢で、金髪縦ロールの気品あふれる美少女だ。僕みたいな陰キャとは元々接点などないが、大貴族の令嬢だからなのか普段から明らかに避けられていると僕は感じている。
まるで『下賤の者はわらわに近寄るな!』とばかりに。
とはいえど、同じ平民でもイケメン三人衆とは仲良く…というか特にタクヤとはかなり親しくなりたそうに話しかけているように見えるから、実はその辺は僕の勘違いで、彼女にとって相手の身分はそこまで重要ではなく、ただ単に僕が避けられているだけかもしれない。
…それはそれで悲しい。
午前の講義が終わり、午後の個人戦が始まった。上位陣は順当に勝っているようだ。次は僕達の番で、目の前では演習場の前でローゼンタール嬢が順番を待っている。彼女は第4位の魔法使いであり、大貴族ならではの魔法力の多さと、大貴族流の魔法教育で、彼女の魔法の腕はAクラスでもトップレベルだ。
そんな風に彼女の情報を思い出しながら僕は彼女を見ていたんだ。そんな僕の視線に気付いたのか彼女は振り返った。そこに自分を見ていたのが僕だという事を認識すると、それまで澄まし顔だった目の前の美少女の表情に陰が落ちた。
はぁ…そんな目に見えてがっかりしなくても良いんじゃないかなぁ。
でも僕は勇気を出して手を差し出した。こういう時、『レディに対しては男性からアクションを起こさないといけない』って日頃からレイラには口酸っぱく言われているんだよね。
「今日の試合はお互いに頑張ろう。」
やったよ、やってやったよ!俺なけなしの勇気を振り絞って言ってやったよ!しかもこんな高貴そうな美少女に!レイラ先生見てくれているかい!?
しかし、それに対する反応は劇的だった。彼女は僕の差し出した手を見るとわなわなと震えだし、
「お前のような平民がわらわに握手を求めるだと…?握手を求められたこの手袋すら汚れてしまったわ!」
と僕にバシッと手袋を投げつけたんだ。
「そんなに握手がしたくば、その手袋と握手をしていろ!!!」
と彼女は僕に言い捨てると、準備が出来た演習場に入っていった。
―――ぱさっ
純白で金縁の高そうな手袋が僕の頬からずり落ちて、地面に落ちた。
え、いきなりなんなん?僕前世で貴女に何かしましたか…?
しばし唖然とするも、僕も気を取り直して演習場に入ると、そこには先程の事など何もなかったかのようにマリュウカ フォン ローゼンタールが魔法杖を持ち、待ち構えていた。
―――ブーッ!
僕が開始線に立つとすぐに開始のブザーが鳴る。
彼女は僕をゴミでも見るような目で見、開始と同時に『すぐ死ね』とばかりに火の矢の魔法を連打してきた。僕はそれを魔法障壁で落ち着いて防ぐと、メイスと盾を持って彼女を攻撃すべく走る。僕にも攻撃魔法が無い訳ではないけど、彼女のそれと見比べると明らかに見劣りがするからだ。ならば物理で殴り勝つしかないよ!
しかし防いでも防いでもすぐに次の火の矢が矢継ぎ早に飛んでくる。それらを僕は魔法障壁で完璧に防ぐが、相手までの距離を詰めるには自分の魔法障壁が邪魔になっているとも言える。そんな時、僕は昨日のレイラの言葉を思い出した。
―――魔法の矢はアキラは魔法障壁で防げるのだろうが、盾で防いだり躱したりしてもいい。これは魔法戦でも役に立つはずだから身に着けて損は無いぞ!
そうだ。盾で躱す事は魔法障壁に比べると難しいが、近寄りながら行えるという利点がある。今こそ特訓を活かす時だ!
僕はいかにもおっかなびっくりといった感じで、いくつかの火の矢を避けたり盾で躱したりし始めた。お陰で少しだけだけど彼女との距離を縮めることが出来た。
―――ちっ!
彼女は軽く舌打ちをすると、こちらと少しでも距離をとるべくゆっくりと下がりながらも火の矢を連打してくる。それに対して僕は難しそうな時は無理せず魔法障壁で、いけそうなら盾と回避で少しでも近寄ってやる!
火の矢を避けようとして掠る事なんてしょっちゅうだった。盾を使って受けたり回避しようとして失敗して何度か直撃したこともあったが、たまに単発で直撃する程度ならば、回復のクールタイム*が溜まっていれば、何とかなった。
半分くらい距離を縮めたぞ、あともう少し!
彼女の顔にも少し焦りが見えるようだ。これはいけるかもしれない!?
※クールタイム…魔法によっては連続では使えない魔法があり、一定時間経過後に再度使えるようになる。その一定時間の事をクールタイムという。