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第1話 ハイスペックな幼馴染

魔法が使えるようになったところで、彼女ができるとは限らない。

でも――僕は信じてる。信じたい。

魔法学園で彼女ができるって、ネットに書いてあったから。


そんなわけで、僕は魔法学園に入学した。彼女を作るために。


そして半年が経った。いまだに彼女は出来ない。

あーあ、彼女欲しいなぁ。それもかわいくて胸が大きいといいなぁ。それで毎日一緒に登校…


「アキラ遅れてる!また鼻の下伸ばして!ここはダンジョンなんだから集中してよね!」


なんて考え事をしていたら、ちょっと歩くのが遅れたようだ。最後尾からちょっとだけ離れていたので、先を行くクミコに注意された。周りの他のパーティーメンバーから失笑が起こる。


僕の名前はアキラ スメラギ。僧侶の職業ジョブを持っているジャスティン魔法学園の1年生だ。そして今話しかけてきたこの女性の名前は、クミコ クローテッド。濡羽色ぬればいろのしっとりとした長い黒髪が特徴で、僕の幼馴染だ。…残念ながら本当にただの幼馴染で、同じくジャスティン魔法学園の一年生であり、魔法戦士の職業ジョブ持ちだ。比類なき美貌を誇る彼女は特に男子に大人気で、多くの男子から告白を受けているようだが、全く取り付く島もない断り方と彼女の得意魔法の属性から、『氷の美姫』の異名が付いている。確かに雰囲気的にも、どちらかというとクールで理知的な印象を受けるかもね。入学時も首席でこの前の一年前期の定期考査でも首席を維持した才媛でもある。うん、後ろから見てもスタイルいいなぁ。


「スメラギ君、あまり妙齢の女性をジロジロと見るものではないよ。いかにクミコ君が月の女神の生まれ変わりともいえる麗しき佳人で、たとえ君がその幼馴染であってもね。」


大袈裟とも言える身振り手振りを加えて、クミコを称えているいけすかない金髪のイケメンはウィリアム テルキナだ。顔だけじゃなくて剣士としても確かな実力もあるけど。彼は総合5位で、僕と違って接近戦で敵を倒すのが得意な剣士だ。

僕?僕は総合で28位だったよ。

彼女らと比べれば大したことないけど、王国中の優秀な生徒が集められて各クラス30名毎に成績順で分けられるこの学園で、ギリギリとはいえ一番上のAクラスを維持できるのは悪くない、むしろ世間一般的には素晴らしい成績だよ。それは来年も彼女と同じクラスに在籍できるという事だしね。


「…テルキナに名前で呼ぶ事を許した覚えはない。」


「ああ、ごめんね。クミコさん。」


その切れ長の眼でテルキナに冷たく接するクミコ。

一方のテルキナはそれを気にした様子もない。彼は常日頃から彼女…クミコへの好意を隠そうともしておらず、クミコ好きを公言して憚らない。一方であれだけのイケメンだけど、クミコがなびく様子が一切無いのがせめてもの救いかな。


「…。」


クミコは毎度注意しても一向に直らないテルキナの態度に諦めたのか軽く溜め息をつくと、僕らを放って再び歩きだした。するとクミコがこちらを向いていない事を確認したテルキナがこちらに近寄ってきて肩を組むと低い声で僕にこう告げた。


「おい、幼馴染だか何だか知らねえが、俺のクミコをジロジロみるんじゃねえ。あんまり調子に乗ってんじゃねえぞ。」


「別にテルキナ君のものって訳じゃないと思うけど…」


「ああ!?いちいちうるせえな。見てろ、今年中にクミコを落として見せるからよ。そしたらお前はもう二度と近付かせねえからな。」


去りざまに僕の右足の甲を思い切り踏みつけていくと、「クミコくーん」といくつか音程が高くなった声でクミコの後を追うように駆けていった。手加減せずに踏みつけていったせいで足がちょっと痛い。魔法の無駄遣いかなと思ったけど回復魔法で治しておいた。


はぁ。僕からクミコに話しかける事なんて無いのに。

テルキナ君がクミコに相手にされてないからって、僕がクミコと会話が成立してる事だけでもう気に入らないのかな。でもそれって僕のせいじゃないんだけど。


僕がクミコの事をどう思ってるかって?

小さい頃は僕らは仲が良くてよく話したし、一緒に遊んでいたんだ。でも大きくなるにつれてクミコの容姿が並レベルではなく隔絶したレベルの美しさで、僕には手を伸ばしても届かない高嶺の花というのを実感させられるにつれて、二人の間に会話はなくなっていったなぁ。むしろ、今の方が同じクラスメイトな分、たまに挨拶を交わす程度だけど話しているかもね。

初恋の人である事は確かだけど、今でも想い続けているのかと言われると違う気がする。好きよりは憧れに近い感情かな。それってクミコのあまりの高スペックさに始まる前から怖気づいたんじゃ?と言われても否定はできないなぁ。


はぁ…しかしクミコとは言わずとも、僕にも誰かステキな彼女できないかな。でも僕みたいな陰キャにはなかなか…、ただ『陰キャは諦めた時点で即試合終了だ』って誰かが言ってたから、その日を夢見てせめて自分磨きはしていきたいね。


あ、考え事してたらまた隊列から置いてかれている。急がないと。

僕は先行する仲間たちを追いかけた。


今僕がいるのは迷宮ダンジョンだ。世界に数百とある探索者に富と栄誉をもたらす不思議な迷宮の一つで、ここは学園ダンジョンという通称がついている。学園にあるからなのか安全だから学園にあるのか知らないけど、罠少なめ&嫌らしい敵少なめでかなり安全な部類のダンジョンらしい。

とはいえ、迷宮特有の敵モンスターは出るし、モンスターにやられてしまえば普通に死ぬ。

学園の授業でダンジョンを探索する時は、1パーティーを6人構成として多少の職業の偏りは考慮するものの、大体はランダムにその都度振り分けられる。

今日の僕らのパーティー編成は、僕とクミコとテルキナの他は、斧戦士と魔法使いと弓術士だ。戦士の方はズレータといってテルキナといつもつるんでいるだけあって、僕とはあまり相性が良くない。

弓術士の子はユズリハ クサナギって言うんだけど、クミコとは仲がいいみたいでよくしゃべっている。僕にも分け隔てなく接してくれるから、彼女がこのパーティーにいてくれてよかったと思っている。

魔法使いのコは、シズカ シュテファンって言うんだけど、ええと一言でいえば入学早々僕が告白して撃沈したコだね。この子も黒髪のロングヘアーでスタイル良く、性格はもの静かなタイプ。ちなみに告白して爆死した次の日には既にクミコには伝わったらしく、すっごい冷めたまるで虫けらでも見るような目で見られました、ハイ。まぁ告白した話はまた今度で。

はぁぁぁぁ、今日はたまたま同じパーティーになったから、たまにシズカさんと目が合うんだけど気まずいんだよぉぉぉ。なぜ僕は振られた場合のその後の事を考えなかったのか。


このパーティは学年でも上位のAクラスで構成されてるし、その中でも成績優秀者が多数集まったパーティーだけあって、今日も何の問題もなくダンジョン探索を終えたよ。


…ごめん、嘘ついたかも。

まずゴブリンの群れと遭遇した時に、僕も一匹くらい担当しようと思って焦って前に出ようとしたら、クサナギさんにぶつかっちゃって、それがちょうどクサナギさんが射るタイミングで、クミコにその矢が危うく刺さりそうになって両者から睨まれたんだよね。あの時も隊列からちょっと遅れてたからなぁ、それで焦って前に行こうとしたのがマズかったかも。


その他にもテルキナがズレータの背後から正に敵に対して飛びかかろうってタイミングで前衛用の重くて堅くなる補助魔法をかけちゃって、テルキナがバランス崩して顔面から地面にダイブしたのもあった。そういう時は一声かけないとだめだよね。

しかも、ちょうどそのタイミングでズレータがゴブリンに斬られてケガをしてたのに、顔面擦り傷だらけの怒ったテルキナが怖くて、思わずテルキナに回復魔法かけちゃったのもあった。その回復魔法のクールタイム*中、怪我したままのズレータに恨めしそうにじっと見られていたりとか。ごめんね、ズレータ。

ただその後、その怪我を一発で治したのは悪くなかったみたいだけど。


※クールタイム…魔法によっては連続では使えない魔法があり、一定時間経過後に再度使えるようになる。その一定時間の事をクールタイムという。


とはいえ、何も問題ないって言ったら他のパーティーメンバーから文句言われちゃうね。



ちなみに迷宮からあがって解散する前にクミコにぷにぷにする僕の腕を掴まれて


「アキラはもっと鍛えた方がいい。ミスが多いのは体力がなくて自信が無いからだ。同じAクラスで今後も私ともパーティーを組む可能性がある以上は、幼馴染だからといって怠けていたら許さないからな。」


と一方的に告げられて解散になったよ。

しかも、言われた内容もその表情にも甘さの一欠片すらも含まれていないにも関わらず、腕を触られた…実際は手袋で装備越しに無造作に掴まれただけなんだけど、それすら気に食わないのか、『けっ』とでも聞こえてきそうな表情でテルキナとズレータが僕を一瞥して去っていったよ。今日の事を思えば無理もないか、はぁ。

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