第7話 崩壊
ドームにて。
アトムは天井を見上げた。
ドームは何度も衝撃を加えられて、歪な凹みができていた。
もう間もなく天井は崩れるだろう。
大気中の埃のせいで、肺が痛む。
必死に息を吸い込んだ。
これ以上、ここにはいられない。
アトムは最後の手段に出た。
ドーーーン…
まだ終われなかった。
アトムは感情を高ぶらせる。
空気がぶつかり、はじける音がした。
木々が揺れ、砂埃が舞い、
アトムの眼が青白く光る。
アトムは壁に向かって光線を放った。
ドームが衝撃によって変形したせいか、
ビームの威力が強まっているせいか、
はたまたその両方か、
壁の蒸発は想定よりずっと早く進んだ。
問題は、ビームの照射によって壁全体が薄くなり、
ドームの崩壊が早まるリスクだ。
ドームがどれほど厚い金属で作られているのか
アトムにはわからない。
これほど簡単に蒸発するとは、
長い年月を経て、相当もろくなっているはずだ。
ビームを照射し続ける。
壁が泡立ち、蒸気を吹き出しながら、中心が少しずつくぼんでいった。
ガシャン!
近くで音がした。
ついに天井から破片が落下したようだ。
数十メートル上空からの金属片だ。
たとえ特殊な眼や体を持っていたとしても、
当たれば致命傷は免れない。
後は神頼みだった。
アトムは壁の一点に目を凝らし続ける。
高温に熱された金属が地面に落ち、焦げたようなにおいがした。
煙が立ち込め、思わずせき込む。
熱を帯びた頭が、次第に朦朧としてきた。
それでもアトムは目を逸らすことはなかった。
ようやく向こう側に貫通した手ごたえがあった。
あとは自身が通れるようになるまで、穴を拡張する。
アトムは頭を動かし、ビームで円を描くようにした。
すでに10分以上が経過していた。
アトムは限界を迎え、ほとんど意識は残っていなかった。
すぐそばを金属片が落下していった。
腕から血が流れる。
死の足音が一歩、また一歩と近づいてくる。
子供のころの記憶が脳裏によぎった。
アトム:「怖い夢を見た。」
?:「そう、どんな夢だった?」
アトム:「花がニンゲンになって、みんなを食べてしまう夢。」
アトムは訪問してきた職員をおどかそうとしていた。
職員はしばらく黙っていた。
よほど驚いたのだろうか。
職員はアトムに近づいてこう言った。
?:「それは怖かったでしょう。でも、
もしもそんなことが起こっても、
あなたには特別な眼がある。
アトムなら大丈夫。」
なんだか様子がおかしい。
彼女はアトムの背中を撫でた。
?:「大丈夫。」
彼女の手はふるえていた。
このときアトムに、言いようのない感情が押し寄せた。
アトム:「ごめんなさい、こわがらせて。」
ガラガラ…
壁に大きな穴が開いた。
それと同時に、アトムは地面に倒れこむ。
次の瞬間、天井から一層大きな音が鳴り響いた。
金属の塊が一斉に降ってくる。
彼女を長い間閉じ込めていたドームは、ついに破られた。
その正体を知ることもなく、彼女は意識を失った。