第5話 3つの扉
ドームにて。
アトムは走った。
ドームの出入口について、過去の記憶を探る。
人が通れるような出入口は3か所に設置されていたはずだ。
一つは大型の機械の搬入用、
一つは食料などの備品の受け渡し口、
もう一つは…
ドーーーン!
天井から轟音が鳴り響く。
最も近い扉の前にたどりついた。高さと幅が5メートルはある巨大な扉だ。
扉は分厚く、ビームを照射してこじ開けるには相当な時間がかかる。
アトムはこの扉から脱出することをやめた。
2つ目の扉に向かって走り出す。
2つ目の扉はずっと小さく、人一人なら通れるくらいの大きさだった。
向こう側から手動でロックがかけられている上に、パスキーのスキャンが必要だ。
壁に立てかけられた備蓄品の袋をあさると、食料や水のほかに、
用途の不明な円筒状の機械が何種類か収められている。
アトムは3つ目の扉に向かった。
3つ目の扉には、「緊急時専用」と赤字で書かれたプレートがぶら下がっている。
長い間放置されていたようで、扉の全面が植物に覆われていた。
横にはボタンが備え付けられており、ボタンを押すと外部の職員と通信できるようになっている。
ボタンを押した。
カチ。
プルルルル…プルルルル…
まだ機能しているようだ。
祈るような思いで応答を待つ。
プルルルル…プルルルル…
プルルルル…プルルルル…
『ガチャ…』
?:『もしもし…こちら管理棟』
来た!
アトム:「すみません、ドームの中にいる、ここから出してもらえませんか。」
?:『…もしもし?』
アトム:「ドームが壊されそうなの、だからここから出して!」
?:『君はアトム?』
アトム:「…いや」
?:『耳が、よく聞こえなくて…』
アトム:「早く!ドームの外に出してください!」
ドーーーン!
?:『…管理室の端で、電話がかかってきたんだ。
誰かが助けを求めているんだろうと思って。私と同じで…』
アトム:「だから…」
?:『操作室まで歩けない。話がしたいのですが。
ここにはもう、ほかに話せる者がいない。しかし…』
?:『生き伸びたいのなら、ここにいてはいけない。』
いったい何が起こったのだろうか。
?:『通信を切ってください。』
アトム:「…ありがとうございました。ごめんなさい。」
アトムはもう一度ボタンを押した。
プツン。
どうやら管理棟は壊滅的な被害を受けたらしい。
全ての扉の確認は徒労に終わった。
ドームはアトムを閉じ込めるためのものであった。
外界からの脅威は想定されていなかった。
アトムはうつむいた。
花を踏んでいることに気が付いて、足をそっと横にずらした。