第4話 育児用ロボット
アヤはドームの改造計画に反対だった。
ドームの外側に無数のパイプをつなぎ、吸収したエネルギーを直接、軍事基地に送る計画だった。
エネルギーを取り出すことの意義を科学者として理解していたが、胸に抱えた霧は晴れない。
アトムをドームに閉じ込めておく道理はどこにあるのか。
アヤはアトムの成長を記録したファイルに手を伸ばした。
幼いアトムの写真が挟んである。
9歳まで彼女のそばに近寄ることができたのは、
特別に開発された育児用ロボットだけであった。
ドームの外で用意した食事を届けたり、
音声や画像を通じてアトムに教育を施した。
育児ロボットの寿命はたいてい3日程度で、
暴発するビームに破壊された。
その残骸を掃除するための装置や、ドーム内の環境調節機能、健康状態を把握する検査機など、
研究者たちは彼女が健やかに育つよう手を尽くした。
アヤは当時の出来事を思い出した。
初めて育児ロボットを操縦して、アトムに近づいた時。
アトムはクレヨンで紙に絵をかいていた。
クレヨンは食べても害がないよう、同僚が休憩時間を削って開発したものだ。
アヤはマイクに顔を近づけた。
アヤ:『上手ね。これは、花?』
アトムは黙って絵を描き続けた。
アヤ:『どこかで見たの。』
アトムは手を止め、本を差し出した。
アヤ:『開いて見せてくれる。』
アトムはページをめくり、カメラの前に見せた。
アヤの言葉を理解し、カメラの意味を理解していた。
アトムは優しく、賢い子に育っていた。
アヤにはそれがうれしくてたまらなかった。
長い年月の末、育児用ロボットの寿命が1か月程度になったころ、
初めて彼女と直接会うための計画が現実的になった。
アヤは計画の実行者に志願した。