第10話 ドームの外
ドームの植物が知性を持ったのは、アトムが9歳のころだ。
アトムが植物を愛したように、植物も愛情を持ってアトムを見守った。
それから彼らは、アトムと同じ目的のもと、進化を続けた。
「いつか外の世界に出る」
変異植物は理解していた。
ドームの外に出るためには、壁を破る必要があること。
ところがアトムにも植物にも、ドームを破壊する力はない。
そして外の世界でのさらなる繁栄のためには、
アトムの光線にさらされ進化を続ける必要がある。
「ここにいてはいけない」
それはドームの外へ出たいと願う植物の怨念であった。
ドーーーン!
突然、大きな音が天井から鳴り響いた。
ドーム内で反響し、揺れが起こる。
何者かがドームを破壊しようとしている。
外部の攻撃は変異植物にとって思わぬ契機となった。
殻は破壊してもらえばいい、あとはアトムが生き残りさえすれば。
「私たちは外に出られる」
変異植物はドームが破壊される、その時を待ち続けた。
…ドーーーン!
力を使い果たしたアトムが地面に倒れこんだ。
天井から大きな音が鳴り響く。
金属の塊が一斉に降ってくる。
ドームは、ついに破られた。
植物はアトムに身を寄せて、彼女をがれきから守った。
そして今。
変異植物は外の状況を理解した。
それは争いであった。
戦闘機が、ドームにミサイルを落としていた。
それを止めようと、違う国旗を掲げた戦闘機が機関銃を発射した。
装甲をまとった人間たちが列をなして、虫のように大地を走る。
ドームの中で聞くよりも、いろいろな音が飛び交った。
変異植物はツタを上空に伸ばし、飛び交う戦闘機を破壊した。
歩兵をなぎ倒し、押しつぶす。
植物は争いに加わった。
一刻も早く危機を退けるため、片方だけを攻撃した。
それからはあっという間に静かになった。
全てが終わるまで、植物のなかでアトムは意識を失っていた。