第1話 朝
“気味の悪い夢だった。
植物が人のような動物へと姿を変え、襲い掛かった。
私はそれを焼き殺そうと目を見開いた。”
ドーム状の天井におおわれた空。
人工的に作られた草原や川。
中心から100mほど歩けば、分厚い金属の壁が立ちはだかる。
まるでスノードームのような場所でアトムは一人、暮らしていた。
アトムは植物が好きだった。
ドーム内の小さな森から花や草を摘み取って、持ち帰り寝室に飾った。
その為、寝室はいつも草花で溢れていた。
アトムはそれを眺めてから眠りについた。
美しい自然がどこまでも続く、壁の向こうの世界を想像しながら。
アトムがドームの中で暮らすのは
彼女が特別な眼を持っていたからだ。
エネルギーをため込み、視線の先にレーザービームを放出する。
葉緑体が光合成によって必要なエネルギーを合成するように、
アトムの眼には、原子から膨大なエネルギーを取り出す機能が備わっていた。
また、そのエネルギーはアトムの身体的成長にも影響を及ぼした。
アトムの体の成長は止まることがなく、
2メートル半を超える身長と丈夫な骨や筋肉を持ち、
不自由なく立って歩くことができた。
アトムが目を覚ました。
半ば夢から覚めないまま、洗面所へ向かう。
装着した小型のイヤホンを起動して、しばらくすると声が聞こえた。
「おはよう、調子はどう?」
「おはようございます。調子は…悪くない。」
「そう、良い一日を。何かあればすぐに呼んでください。」
プツン。
台所で朝食を済ませ、外に出る。
100m先の「壁」へ向かって歩いていく。
幾度となく歩いた道を進みながら、アトムは今朝の夢のことを思い出していた。
“植物が人のような動物に姿を変え、襲い掛かった。
私はそれを焼き殺そうと目を見開いた。
ところがどれだけ眼を凝らしても、ビームが放出されることはなかった。”
壁にはすぐにたどり着いた。近くで見ると錆や傷が目立ち、下のほうはツタが這っている。
高さ2メートルほどに設置されたボタンに触れた。
壁が左右に分かれ、ロボットアームとカメラが伸びてくる。
小型イヤホンから声が聞こえた。
「バイタルチェックを行ってもよろしいですか。」
「はい」
カメラが瞬きをして、上から下へと順に見つめていった。
「バイタルチェックが完了しました。」
アームが引っ込み、鈍い音を立てながら壁の隙間が閉じていく。
締め切られる直前、向こう側から声が聞こえた。
「ここにいてはいけない。」
隙間が閉じた。
聞き間違いかもしれなかった。
この施設の職員とは直接会話をしたこともあった。
彼らは私の眼を制御できるようにすると約束した。
そうしたら世界を見て回ろうと。
緊急事態が発生したのかもしれなかった。
判断がつかないまま、アトムは次のメッセージが届くのを待った。
昨晩見た夢を思い出しながら。