プロローグ
ふと思いついて書きました。
続くかどうか分かりませんが、読んだ感想とか頂けると嬉しいです。
異世界転生物のテンプレと言えば何だろうか?
ずばりチートである。所謂転生チートというやつだ。
その内容は、生まれながらに世界最強クラスの魔力を有していたり、全属性適性が有ったり、時空魔法のような伝説の魔法を使えたり、怪物級の剣術の才能が有ったりと多岐に渡る。
チートと一口に言っても色々あるということだな。みんな違ってみんな良いってことで。
しかし、昨今はチート無し転生というジャンルが増えてきた。
これはこれで良い物だ。ただ一つ気になるとすれば、結局は最終的に主人公最強系に行き着くことが多い印象がある。
折角チート有りとチート無しでジャンル分けしているのにちょっと勿体無いのではないかと、少し前までの俺は思っていたのだ。実際に自分が異世界に転生するまでは。
(前世の記憶持ち、はっきりとした自我が有る。これだけでも間違いなくチートじゃないか)
然もありなん。転生自体がチートなのだ。
身をもって理解してしまえば、それはそうだと言うしかないだろう。
生まれ変わって赤子になってしまっても、前世で培った経験や知識は無くならない。様々な形で活かすことができる。
異世界転生物でテンプレの魔力を増やす訓練とかも、鍛えれば強くなるという前世では普遍の常識から基づく思考や本来はあり得ない自我が有るからこそできることだ。
改めて思うが、転生チートが無い?
いやいや、前世の記憶を持って転生したことそのものがチートと言わずして何がチートなのか。
俺が転生した異世界にも魔法があるようなので早速魔力を感知することから始めて、生後半年の今では既に体内での魔力操作ができるようになってきている。
毎日魔力を体外に放出して枯渇させることで身体はより多くの魔力を溜め込もうとするのか、感覚的に生まれた時と比べて倍近い魔力量に増えており、そろそろ何歳か上の兄に追いつきそうな勢いだ。
幸い貴族転生なんかじゃなくて長閑な田舎の農民として生まれたので、成人すれば自由に生きることも可能だろう。
実際には労働力として将来は期待されていると思うが、それ以上に稼いで仕送りできるようになれば家族も文句は言わないはずだ。無理なら家出するしかないけど。
やっぱり異世界に転生したんだし、世界中を見て回るのが現状の夢である。目指せ世界一周!
とはいえ、今は自由に身体を動かすことも儘ならない。
将来少しでも運動神経が良くなるようにと、毎日欠かさず体操擬きをしている。適当に動かすのではなく、イメージした通りの動きを意識するのは忘れない。
まだ赤子なので寝て起きてを繰り返しているが、一応スケジュールとしては、起きる→魔力の精密操作訓練→体操擬き訓練→魔力枯渇による最大魔力量増加訓練→寝るというサイクルだ。
これを起きる度にやっている。それ以外することもなくて暇だから、熱中できることがあるのは助かっている。
取り敢えず自分の意思で動けるようになるまではこの生活を続けることになるだろう。
日頃の運動のお陰か、はたまた異世界人だからか。生後半年でありながら壁に手をつきながらであれば少しずつ歩けるようになってきた。
不便な日常との別れはもう少しのところまで来ている。あともう一踏ん張りだ。
「……ぁっ……ぉぎゃあああ!!」
うっかり実際に踏ん張ってしまい、つい粗相をしてしまったのはご愛嬌ということで許してほしい。
まだこちとら赤子なもので。いつも迷惑かけるねぇ、母さん。
◆◇◆
SIDE-お母さん-
ファルテニア王国の南部。ユーグレミア大陸の最南端。
周囲を山に囲まれた自然豊かなシルヴァスター辺境伯爵領の更に南側、三ヶ月に一度だけ行商が訪れるような小さな農村が私たちの住む村だった。
名前もない本当に小さな農村だけど、ここは良い村だと忖度抜きで言い切れる。
山に囲まれた土地でありながら魔物の類は殆ど居なくて、年に数回現れても村の男衆で問題なく対処できてしまえる弱い魔物しか出ない。
そのため野生動物も伸び伸びと繁殖しており、日々の糧には困らない。長閑で平和な理想的な村だ。
そんな村で暮らす私だが、五年前と三年前、それから半年前に男児を一人ずつ産むことができた。
我ながら育て方が良かったのか、長男は極めて健康体で優しく気の利く良い子だし、次男は少し体は弱いが発想が柔軟で利発な子に育ってくれた。
これだけでも恵まれているのに、これまた三男が凄い子だったのだ。
初めの頃は夜泣きの少ない子だと思っていただけだった。
便が出た時や腹が空いた時には泣くが、夜半に目が覚めてしまっても泣かずに大人しくしている。モゾモゾと動いた後は、静かに眠りにつく。
前の子二人で夜泣きには苦労させられたから、こんな楽で良いのかと戸惑ったほどだ。もう慣れたけどね。
それに気がついたのは、私たち家族ではなく村の牧師様だった。
不自然な魔力の動きを感じると我が家に訪れた牧師様は、赤子用の寝具で大人しくしているあの子を見て酷く驚いていた。
話を聞いてみれば、どうやら魔力を自由自在に体内で動かしているという。私には何が凄いのか分からなかったが、元冒険者である旦那や優れた魔法使いでもある牧師様はとっても興奮して「天才だ!」と騒いでいた。
試しに牧師様の鑑定スキルで見てもらったところ、既に複数のスキルと赤子とは思えない魔力量だったらしい。
まだ生まれてから半年しか経っていないのに、旦那たちは大きくなったら剣術や魔法を教えると意気込んでいた。
この時はまだ私も大袈裟なと思っていたが、二年三年と成長していくにつれて、天才以外の言葉ではこの子を表現することはできないと理解させられていた。
小さな身体で五つも上の長男よりもよく動き、三つ上の次男よりも物覚えが良い。
旦那から剣術、牧師様から魔法、私から家事手伝い、村長から勉学、猟師から森の歩き方、薬屋のお婆さんから調薬、鍛冶屋のお爺さんから道具の手入れ、行商人から外の情報など休みなく様々な知識や技術を貪欲に吸収していく。
十歳になったあの子が村を出ていく姿を見ながら思い出す。
私は子供たちが無事に元気に生きていてくれたら良いと思っていたけれど、いつだったか旦那の言っていた、あの子は小さな農村に収まる器ではないという言葉にも納得するしかなかった。
その才能は私の理解の及ぶ範疇にはない。あの子が師事する誰もが口を揃えて言う。
「あの子は将来凄い男になる!」
歴史に名を残すような人物になるだろう、と。
この村が伝説の始まりになるんだ。あの子はこの村で生まれて育ったんだ。
どこか熱に浮かされたようにして、口々に言っていた。
私もその一人。いつかどこからか、あの子の名声が聞こえてくるのを楽しみに毎日を生きていくのだ。