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十.銀河の残り火

 タカハシが去った後、トリノは再びメ二トカル星雲の影法師をぼんやりと眺めた。

 

〝ピピッ〟

 

 トリノの耳がわずかに光った。

 

「ミッドナイトブロッサムが開花しました。残り二回です」


 男の声が小さく響いた。そうか、トリノが小さくうなずいた。男が続けた。


「ダークソウルからのアクセスも検知しました。かなり巨大な容力です」


 トリノは軽くため息をついた。


「わかった。引き続き原状調査を続けてくれ」


 耳を軽く撫でると光が消えた。


(そろそろビッグバンが始まるタイミング。そして、ダークソウルの侵入も。果たしてうまく事が運ぶかどうか……)


 トリノは首を振り、決意したように宙に顔を向けた。


(だが、今は彼らに賭けるしか無い。頑張って、ユージさん。そして、我が銀河のソウルたち。あなた達であればきっとこの銀河の危機を乗り越えることができる)


       *


 皆がユージの話す言葉を待った。岡本は胸がつかえる思いだった。ユージの気配、どこかで感じたことがあると気になっていたが、ふと昔を思い出した。かつて秋山とアイコスの脅威に立ち向かった時、あいつも同じような気配で自分に声をかけていた事に。

 

『岡本さん、後はたのみました』


 あの時の秋山の顔を思い出した。まっすぐに見つめる、すべてを理解して信頼する眼差し。そして、あいつは自らの脳をアイコスに差し出すことで、俺がネイティブシナプスに覚醒するきっかけを生み出した。

 

(ユージも同じだ。自らを犠牲にして何かを俺たちに託すつもり。だが、一体何を……)


 ユージの声が響いた。


「マスターが魂の精錬を急いだ目的。彼は決して私利私欲のためにこの行為に及んだわけじゃない。その本当の意味。〝銀河の残り火〟が消えかかっています」


(銀河の残り火?)


 岡本は首を傾げた。聞いたことがない。ユージが続けた。

 

「〝銀河の残り火〟とは前回のビッグバンで生じた残熱量、次のビッグバンを誘導する為の着火熱です。銀河は魂を放出した後に縮小に転じて超高圧に凝縮されますが、残り火に触れることで、強大な爆発が促され拡大に移行します。サイクリック。残り火がある限り、銀河は何度でもその生涯を繰り返す事ができる」


(着火熱だと? それが消えるというのはどういう意味だ?)

 

 岡本はユージの説明に聞き入った。


「だが、予想外の状態が起きた。その弱体化。原因は不明ですが、このままでは次の爆発のタイミングを待たずに火が消えてしまう。そうなれば銀河は二度と再生されない。待つのは完全なる死。マスターはその事態を避ける為に、次のビッグバンのタイミングを速める決断をした」


(なるほど。確かに消えては一大事。それで魂の精錬を急がせ、銀河の縮小を速めたのか。だか、その影響でアースの時間が逆行することになるとは。他に何か方法は無かったのか)


 岡本は納得いかないように首を振ったが、ふとアースの状態が気になってゲートの先に目をやった。レインボーロードには誰も映っていない。まさか。(つむぐ)が諦めたようにつぶやいた。

 

「彼らは消えてしまったようです。思ったより時間の逆行のペースが速い。マスターの狙いはまずは三男のアース単独でビッグバンを誘発させる事のようです。少しでも残り火を復活させるために」


 ユージのうなずく気配がした。やはり、(つむぐ)の諦めたような声。岡本は背筋がぞっとした。消えただって?

 

「まてまて。消えたってのはどういう事だ? 死んだ……のか? いや、生まれる前に戻った?」


 頭が混乱して頭を抱え込んだ。(つむぐ)がなだめるように答えた。

 

「大丈夫です、正確には死んではいません。サイクリック宇宙論。縮小した空間はいずれ再び拡大に戻ります。今回アースはいったん消えますが、ビッグバンで拡大に移行すれば彼らの存在も元に戻る可能性がある。うまく行けば残り火も復活して銀河の危機も乗り越えられます。あくまでも可能性ですが……」


 岡本はますます混乱した。


「元に戻るだって? それはあれか、まったく同じように戻るのものなのか? いや、そんなうまい事いくわけない。しかし、俺は納得いかない。まるで俺達のアースを捨て駒につかってるようなもんじゃないか」


 (つむぐ)が諦めたように答えた。


「仕方がありません。復元するだけでもマシと思うしか……」

 

「それはお前次第だ。岡本巧」


 突然の男の声に岡本は驚いて周りを見回した。


(誰だ? 俺次第だって? どういう意味だ。いや、どこかで聞いた事がある声。まさか)


「久しぶりだな、兄者よ。長兄も骨をおっておられるようだ。まさか隠居した我が出てくる羽目になるとは」


 灰色のフードをかぶったモノがレインボーロードにたたずんでいた。

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