『月夜の約束』
夜の静けさが心地いい。満月が空を照らし、その光が街の角々をほんのりと白く染めていく。僕、斎藤優は、いつものように公園のベンチに座っていた。夜の公園は、日中の喧騒から解放された別世界。ここでは、自分だけの時間を楽しむことができる。
ふと、遠くから足音が聞こえてきた。誰かが近づいてくる。月明かりの中、見慣れたシルエットが浮かび上がる。それは、幼なじみの美咲だった。
「こんな時間にどうしたの?」
僕が尋ねると、美咲は小さく微笑んで言った。
「約束、覚えてる?中学の卒業式の日、ここで会おうって。」
ああ、そうだった。僕たちは、中学の卒業式の日に、この公園で将来の夢について語り合い、いつかまたここで再会しようと約束していたんだ。
「ずっと忘れていたんだけど、今日、ふと思い出してね。」
美咲は嬉しそうに話す。
月明かりが彼女の表情を柔らかく照らし出していた。
「じゃあ、君の夢は叶ったの?」
僕は彼女に尋ねた。美咲は少し間を置いてから、「ううん、まだ」と答えた。
「でも、これからも頑張るよ。」
僕たちは再び昔のように夢について語り合った。月夜の下、時間が止まったかのように。その夜、僕たちは新たな約束を交わした。この先も、夢を追い続けること。そして、またこの公園で会うことを。
月が高く昇り、美咲との会話は尽きることなく続いた。彼女は大学を卒業し、夢に向かっている最中だと言った。一方の僕は、高校を卒業後、地元の会社に就職していた。
「優は変わらないね。昔からこの公園が好きだったもんね。」
美咲が懐かしそうに言う。
「ああ、ここは特別な場所だから。」
僕はそう答え、少し寂しげに笑った。
僕たちは、昔の思い出話に花を咲かせた。中学時代の楽しかった出来事、困った時に助け合ったこと、そして、お互いに持っていた小さな秘密。時間が経つのを忘れるほど、話は尽きなかった。
夜が更けていくと、美咲はふと真剣な表情になり、僕に問いかけた。
「優、本当に今の生活に満足してる?」
その問いに、僕は少し驚いた。正直なところ、自分でもよくわかっていなかった。ただ、毎日をこなしているだけで、本当にやりたいことが見つかっていない。
「わからない…。でも、もしかしたら、もっと違うことができるかもしれないね。」
美咲は優しく微笑み、「優なら、きっとできるよ」と励ましてくれた。
そして、僕たちはもう一度約束した。次に会うときまでに、自分たちの夢に一歩でも近づいていることを。それが、お互いへの応援となるはずだと。夜が明けようとする頃、僕たちは別れを告げた。美咲は元気に手を振りながら去っていった。僕は、月明かりの下で新たな決意を固めた。
この公園での再会が、新しい一歩の始まりになる。そんな予感がしていた。