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夜のお茶会 一回目①

魔法表記に関して、こちらも外国語で響きが気に入ったものを取り入れています。ご了承ください。






 あれから、どんな事を聞こうか考えながら過ごしていたらあっという間に夜になった。

 ニレには、今日は早めに休むと伝え、部屋から下がらせた。

 そこから屋敷の者達が皆寝静まるまで、ベッドの中でカイムに聞いておくことを整理していた。

 二時間も経たない内に静かになる気配を確認した後、ベッドから抜け出して月明かりの差し込む窓際へと寄る。

 窓の外にも人影がないことを確認し、魔力認識阻害魔法(マジカルインヒビター)吸音魔法(ソノスエフージオ)を部屋に施した。

 この二つの魔法は中位魔法の中でも少し難しいのだが、高位の貴族ならば覚えておくべき魔法だと学園(アカデミー)時代に教えて貰った。

 今思えば、苦労しながらも覚えておいて本当に良かったと思う。

 しかも、日々の訓練の副産物か、今日は何時もよりも発動させやすかった。




「……カイム、準備ができたから出て来て大丈夫よ」




 私の声に反応して、月明かりで出来た私の影がゆらりと揺れた。

 引きずり出されるような音を立てながら、ゆっくりと影からカイムが現れた。




「――ご機嫌よう、プリムラ様」

「待たせてしまって申し訳なかったわ。ゆっくり休めたかしら?」

「ええ。プリムラ様の伏魔殿(パンデモニウム)の中は広く心地良かったので……」

「…………人によって、広さとか心地良さって違うのものなの?」

「さあ?何せ、私自身召喚(サモン)されたのは生まれて初めてですし、そもそも魔族を呼び出すことができる者は今までいたことがありません。とある文献には、昔その様な能力(スキル)を持っていた者がいたことや、伏魔殿(パンデモニウム)のことなども詳しく載っていましたが、作り話だと思われていました」

「てっきり魔族で召喚(サモン)能力(スキル)を持っている人って、魔族を呼び出せるのかなって思っていたんだけど……違うの?」

「魔族で召喚(サモン)能力(スキル)を持っている者はおりますが、その者達が召喚(サモン)できるのは魔獣です」

「魔獣?魔獣って魔物のこと?精霊じゃないの?」

「いえ、魔獣と魔物は別物ですよ。精霊は魔獣の一種です」




 あっけらかんと言うカイムの言葉に、自身の中で仮定していたものが早くも崩れ去ったことが分かった。

 そして、次々と言われる内容に理解が追いつかない。

 魔族の中での認識と、私たちの認識が違うのだろう。

 色々と話す前に、認識の違いについての擦り合わせをしなければならないようだ。

 そのように考えていたのは、カイムも同じだったらしい。




「どうやら、色々と話さなければならないことが多いですね」

「そうね……そもそも、私は魔王国や魔族のことについて何にも知らないもの。教えてもらえると助かるわ」

「勿論ですよ。私も、プリムラ様自身のことやこの国のことについては、まだ存じ上げてないので」

「じゃあ、まずはお互いのことから話しましょう」




 本当は、今夜中に聞きたいことが聞けるといいのだが、話す内容によってはもう少し時間が必要になりそうだ。

 急いては事を仕損じる、という言葉もある。

 まずは目の前の彼としっかり向き合うことにした。




「じゃあ、私の方から話すね。昨日も言った通り、私の名前はプリムラ。歳は今年で17歳になるわ。シュテルンベルク辺境伯であるルバーブお義父様が、この領地と真王国の国境付近に捨てられていた私を拾って育ててくれたの。シュテルンベルク家にはラベンダーお義母様と私の三つ上のヘザーお義兄様がいるわ。……みんな、本当の家族のように迎え入れてくれたの」

「やはり、何らかの方法で結界の外から出ることが出来たのですね。生きていて下さったこと、こちらでのご家族に恵まれたこと、自分のことのように嬉しく思います」




 カイムが本当に嬉しそうな表情でそんなことを言うので、思わずドキッとしてしまった。

 そんなに私のことを心配していたのだろうか……いや、きっと違う。

 昨日の彼の話では、彼は本当の父親である魔王の側近だと言っていた。

 おそらく、魔王にとってプラスになる報告事項が出来たことに、喜んでいるのではないだろうか。

 気を取り直して、話を続けることにする。




能力(スキル)は、召喚(サモン)。でも、昨日貴方を呼び出すまで、一回も成功したことがなかったの。それはもしかしたら、夜に練習をしたことがなかったからなのかもしれないけど。しかも、どこの国でも召喚(サモン)能力(スキル)を持つ人はみんな呼び出すのは精霊だったから、カイムが現れて本当に驚いたのよ」

「そうだったのですね。今まで召喚(サモン)が使えなかったのは、魔族の特性が原因と考えて間違いないと思います……が、この国だけでなく、他の国でも精霊しか呼び出せないと言うのは、少し引っかかりますね……」




 体内の魔力循環が……とか、魔族との魔力の性質の違いが……とか、ぶつぶつと呟きながら考え込んでいるカイム。

 話を続けたいのだが、どう声を掛けようと悩んでいたら、部屋のどこに潜んでいたのか例の鶫がカイムの肩に止まった。

 それに気付いたカイムが鶫を見たことで、ようやく思考の海から帰ってきたようだ。




「失礼しました。一度考え出すと止まらない性分なものでして」

「だ、大丈夫よ。精霊云々のことは一回置いておいて、次は貴方のことを教えて」

「分かりました。改めまして、カイム・スラシュルと申します。魔王国の王にしてプリムラ様のお父上であるゴエティア・シャイターンの側近でございます。スラシュル家は古い家柄で、慧眼(インサイト)と言う能力(スキル)を受け継いだ者が当主になるしきたりです。現当主は我が弟で、私自身は火印(ブレイズ)と言う能力(スキル)を持っています」




 突然告げられた、本当の父の名が耳に残る。

 ゴエティア・シャイターンが私の父の名であるならば、私の本当の家名はシャイターンになると言うことだ。

 そして、彼の能力(スキル)を聞いて、私の仮説が一つ当たっていたことが判明した。

 火印(ブレイズ)という能力(スキル)は聞いたことがないが、やはり、カイムの能力(スキル)が火に関係があったから、彼が呼び出されたのだろう。




「魔族は寿命が長く、大体180年前後と言われています。そして18歳で成人してから、そのままの姿を長く保つ特性があります。老化した姿になるのは寿命が尽きる10年ぐらい前からですね。私は56歳なので、まだまだ若輩ではございます」

「ごじゅ……っ!?」




 見えない。

 この顔の美しさで56歳になんて全く見えない。

 見た感じお義兄様ぐらいか、下手すれば私よりも年下なのではないかと思っていたので、お義父様とそうそう変わらない歳であることに衝撃を受けた。




「私のことは以上ですね。ここまでで何かお伺いしたいことなどはありますか?」

能力(スキル)についてなんだけど、火印(ブレイズ)というのは聞いたことがないの。火炎(フレイム)ならこの国にも多いのだけど」

「成程……火印(ブレイズ)火炎(フレイム)よりも火力が高いものと思って頂ければ大丈夫かと思います」




 言わば上位互換のようなものなのだろうか。

 しかし、実際に見てみないことには分からないのだが、ここで実践してもらうのは難しいだろう。

 何かの折には披露してもらおうと決めて、話題を進めることにした。




火印(ブレイズ)については分かったわ。じゃあ次に、魔王国や魔族について教えて」

「では、我が国についてご説明しますね。魔王国は、大陸の北にあるシウテクトリ火山と、麓のシウテクトリ大森林及びその周辺にある国です。国境をなぞる様に結界を張り巡らせてあるため、原則他国との交流を行っておりません」

「ずっと気になっていたのだけど、どうして結界を張っているの?それに、他国との交流が無いと、周辺国の様子が分からなくて困ることもあるのでは?」

「魔王国の結界に関する重要事項は、代々魔王となる者のみにしか伝承されておりませんので、詳しいことはお伝えできないのです。ただ、310年程前の建国当初から100年間、結界は無かったと言い伝えられています」

「210年程前……ちょうどこのローダンセ王国が建国したと言われている辺りね」




 魔王国建設から100年の間に、結界を張らなければならない事情があったのだろうか。

 残念ながら、この国の歴史として学ぶ内容には、建国以前のものはどこにも記載されていない。

 ただ、どの歴史書でも書き出しは「初代ローダンセが混沌から生まれしものを討ったことで真の英雄となり、人々を平和へ導く為の王となった」となっているのだ。

 もしかして、その書き出しの内容が関わっているのではないだろうか、と考えたが、それを知ることはこの王国の闇の部分にも繋がりそうな気がした。

 私は命を危険に晒してまで、詳しく調べるつもりは毛頭ない。

 



「普通は国交が無ければ、周辺国の情報を仕入れるのは難しくなります。しかし、我らは独自の方法で、ある程度ではありますが可能にしているのです」

「独自の方法?」

「……それも、国家機密の為お伝えできないのです」

「うーん……知りたいところだけど、国家機密なら仕方ないわね」




 いくら魔王の娘とはいえ、気軽に国家機密を教えることはできないだろう。

 もし私が魔王になる道を目指したら、今は不明な部分も明らかになるかもしれない。

 しかし、今のところ私の中で魔王になるつもりはないのだ。

 残念だが、他のことについて聞いていくしかない。

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