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牢獄での会話③

 ご無沙汰しております。

 しばらく更新が出来ておらず申し訳ありませんでした。

 新年度が始まり職場復帰をしたのはいいものの、諸事情により当初の予定よりも大幅に多い仕事量を請け負うことになってしまいました。

 もう少ししたら小説を書く時間も取れるのでは無いかと思うのですが……しばらく不定期更新になります。

 ご迷惑をお掛けしますが、小説を書いている時間は楽しいので、無理なく自分のペースでやっていきたいなと思います。

 今後ともよろしくお願いします。




「ムッフィエ……」

「正直、お主にとっても思い出したくない出来事だと思ってな。お主の前ではこの話をしなかったのだ。だが、ぞれがまさか裏目に出るとはな」

「なんだぁ? 少なからず因縁のある家が絡んできてんのか。嬢ちゃん、アンタも苦労してるんだな」




 まるで他人事のように笑うキョウを見て、少し腹が立ったが顔には出さないように努める。

 まあ……彼にとっては本当に他人事なのだが、それでも無責任に笑われるのは気分が良く無かった。

 カルミア・ムッフィエは、例の暴露事件を引き起こした家庭教師(カヴァネス)だ。

 まさか久しぶりにその名前を聞くとは思っていなかった。

 だけど、十年以上も経っているのに今更になってその当時のことを引き合いに出してくるものだろうか。




「そういやあ……ムッフィエかどうかは分からんが、どうやらその下位貴族も自分の崇拝する上位貴族の為に動いてるような話だった」

「上位貴族……」




 この国における上位貴族は、大公・公爵・侯爵・辺境伯・伯爵である。

 それだけでもかなりの数があるので、絞るのは難しい。

 だが、ムッフィエが崇拝しているという上位貴族が本当にあるのだとすれば、事態は思っていた以上に複雑だ。

 流石に、王弟であるサンセベリア大公が絡んでいることはないとは思いたいが……今の段階ではなんとも言いがたい。




「他はどこか関わっていそうな所はないのか? 例えば、帝国の者とか」

「……他に関与してそうな奴らの情報は貰ってねえが、少なくとも帝国が一枚噛んでる情報があったら俺は引き受けてねえよ」

「ほお」




 キョウのその意味深な発言を聞いたお義父様は、興味深そうに呟く。

 そういえば、お義父様はキョウの見た目から帝国の血を引いていると判断していた。

 そんな彼が帝国を忌み嫌うような発言をしたのだ。

 気にはなるが、私の目的は今回の事件の手掛かりを手に入れることだ。

 それ以上の部分については、お義父様に任せるのが良いだろう。




「最後に聞きたいのですが、その胸にあった契約(フェアトレーク)の印はコランバインが付けたのですか?」

「そうだ。“必要最低限の情報しか話したつもりはないが、万が一捕まったりすることがあればその情報も話せないように”という理由で、依頼内容を喋れなくする契約をさせられた。それに……」

「それに?」

「いや、これはお前達には関係のない話だ。俺が知ってる情報はこれで全部だぜ」




 キョウが言い淀んだ内容について知ることができたら良いのかもしれないが、今の彼の表情を見るに話してくれそうにないだろう。

 取り敢えずだが、私の目的は達成された。

 また彼と話すにしても、今回はここまでにしておいた方がいいだろう。




「分かりました。話してくれてありがとうございます。お義父様、彼にまた話を聞くことがあるかもしれませんが、一先ず今後の処遇はお義父様に一任します」

「そうか、分かった」

「それではキョウ、ごきげんよう」

「……ああ、嬢ちゃんとのお喋りも案外楽しかったぜ」




 キョウのそんな言葉を聞きながら、私とお義父様は牢獄を後にすることにした。

 帰る前にユリオプス様にも挨拶をし、元来た道を歩いていく。

 色々なことが判明して考えなければならないことが増えたからか、お義父様との会話が行きよりも弾まない。

 お互いにしばらく無言で歩いていたが、不意にお義父様が立ち止まった。

 私も釣られて立ち止まると、お義父様は此方を見ずに話し始めた。




「コランバインとムッフィエに関しては、儂の方で本格的に調査を行うことにする。何か分かれば直ぐにお前に報告しよう」

「私もその方が良いと思います。お願いいたします」

「ただ、これだけは伝えておこう。恐らくムッフィエが動いていることについて、カルミア嬢の件が理由である可能性は少ないと思っている」

「それは、どういうことでしょうか?」




 当時あれだけ怒りを露わにしていたお義父様が、彼女のことを庇うような発言をしたのは意外だった。

 だが、お義父様は慌てたりする様子もなく、冷静に話を続けていく。

 



「詳細についてはまた落ち着いた時に話すが、カルミア嬢は現在カーフィルライム共和国で暮らしている。その手筈を整えたのは儂だからだ」

「お義父様が!?」

「ああ。彼女もまた、ムッフィエでは肩身の苦しい思いをしていたようだ」

「……そう、だったのですか」

「今まで黙っていてすまなかったな。だが、儂は当時のことを許した訳ではない。そういった意味でも、儂の目が届く範囲で手筈を整えたのだ。それだけは分かって欲しい」

「ええ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」




 当時は少なからずショックを受けたが、それ以上に家族との絆が深まった件でもあったので、今はそれほど気にしていない。

 お義父様も私に気を遣いながら対応してくれたのも十分分かっている。

 近いうちにその詳細を教えてもらうことができればそれで良い。




「話すといえば……お前が召喚(サモン)した火精霊(サラマンダー)についても早急に確認しなければならんな」

「え、あ、その……」

「他人の能力(スキル)に干渉できる程の魔法を使えるようになる火精霊(サラマンダー)など、聞いたことがない。いや、そもそもお前が召喚(サモン)したのは本当に火精霊(サラマンダー)か?」

「さ、さあ……」




 まずい。

 あれだけのことをしたのだから当たり前なのだが、完全にお義父様が邪推しているのを肌で感じる。

 できればまだカイムのことについては誰にも知られたくないのだが、このままでは早々にバレてしまう可能性が高いだろう。

 苦し紛れにシラを切ってみたものの、これで騙されるようなお義父様でないのは私が一番分かっている。

 引き攣った笑顔を崩さずに黙っている私を見て、お義父様はふむ、と呟く。




「まあいずれにせよ、今日明日は難しいであろう。なんせあれだけ高度な魔法を使っているのだ。また魔力切れを起こされたら敵わん」

「は、はあ……」

「ただし、出来るならば明後日。なるべく早くプリムラの能力(スキル)を調べる必要がある。良いな」

「分かりました……」




 思いの外早くに能力(スキル)を調べられることになりそうで、とても不安だ。

 そんな私の心情を見透かしているのか、お義父様は真剣な声で言い聞かせる様に話す。




「もしプリムラの能力(スキル)が普通と違うと分かれば、今以上に周りから狙われる可能性が高くなる。これもお前の為なのだ。それだけは理解してほしい」

「はい……」




 お義父様は私を政略的に利用したくないと言ってくれている。

 だが……他の家はそうは考えないだろう。

 寧ろ、辺境伯という地位を利用するために、私を利用しようとする家も出てくるのだろう。

 今はお義父様達が抑えてくれているから何もないが、私の召喚(サモン)が普通と違うとバレてしまったら……。

 お義父様達の迷惑になることだけは避けたい。

 いっそ能力(スキル)のことについて、素直に白状してしまった方が良いだろうか。

 ただそうなると、カイムのことが気がかりだ。

 今夜にでも、そう言ったことも含めてカイムと話したほうがいいかもしれない。




(カイム、能力のことについて夜にでも相談したいわ)

〈ええ、今後の方向性や対策を考えたほうが良さそうですね〉 




 カイムは私の提案について、素直に了承してくれた。

 きっと彼の方でも何か思うところがあるのかもしれない。

 どちらにせよ、考えなければならないことは沢山ある。

 一先ず話は澄んだ様子のお義父様が再び歩き出したのを見て、私もその後を追いかけることにした。






 ――――――――――――――――――……






「な、何故だ……!? 何故、私の能力(スキル)が解除されたんだっ!?」




 とある部屋の一室、男――コランバインが仕事用の机に何度も拳を叩き付けながら叫んでいた。

 折角手に入れた駒が一人、奪われてしまったからだ。

 しかも本来であれば、解ける筈のない能力(スキル)を強制的に解除された。

 それはなんの前触れもなく起こった。

 突然、左胸が焼けるような感覚を覚え、暫くその痛みに踠いていた。

 少ししてその痛みが引いた途端、男は嫌な予感を感じたのだ。

 急いで自分の席の後ろ、能力(スキル)によって作られた契約書を保管している金庫を開けて確認すると、最近契約したうちの一枚が消えてなくなっているではないか。

 それは帝国人の血を引いている裏稼業の人間と交わした契約の書類だった。

 裏の世界ではそこそこ有名で実力もある為、上手くいけばそのまま子飼いにして使い回そうと思っていた。

 あの男なら帝国に忍ばせても不審に思われないし、そうすれば帝国での商売もやりやすくなっていただろうに。

 返り討ちに合って死んでしまった事も考えられるが、その場合はこんな風に痛みを伴うことはない。




「くそっ! シュテルンベルグの娘もどきを攫うなど、造作もない筈なのに! 見誤ったか……!?」




 今回の誘拐はムッフィエが崇拝しているという“さるお方”の依頼であるとコランバインは聞いていた。

 その“さるお方”とやらは上位貴族で、どうやらシュテルンベルグの養女を欲しているらしい。

 何を考えてそう依頼したのかは分からないが、娘一人誘拐するなど造作もないと踏んでいた。

 何故ならコランバインは、ローダンセで禁止されている人身売買等を裏の世界で取り扱っている。

 ただし、いくら平民上がりの養女とはいえ、貴族の娘を誘拐することは滅多にない。

 念の為足が付くのを恐れてあの帝国人を雇ったが、それが裏目に出てしまった。

 こんなことなら初めから馴染みの奴らを使えば良かったと独りごちる。




「……いや、まだいける筈だ。今からアイツらを使えば問題ない」

 


 

 今回は失敗に終わったが、失敗は想定の内だしまだ打つ手はある。

 焦らず確実に捕らえて仕舞えばいいことだ、とコランバインは自分を納得させた。

 上手くいけば、ムッフィエ(ツテ)を通して依頼してきた高位貴族とやらにお目通りが叶うかもしれない。

 それにコランバインはシュテルンベルグ家が気に食わなかった。

 コランバイン商会と手を組めば、融通して強力な武器を手に入れてやれるというのにそれを断ったからだ。

 場合によってはシュテルンベルグ家も揺すれる材料が手に入るのである。

 あの帝国人がどうやって能力(スキル)による契約を解除したのかが気掛かりだが、早々に始末してしまえば問題ない。

 万が一シュテルンベルグ家に情報が漏れたとしても、娘の命をダシにすれば言うことを聞かざるを得ないだろう。

 そう結論付けたコランバインは、早速馴染みの奴らに連絡を取ることにした。


 ――まさか、その標的(ターゲット)が自分の能力を解除したとは夢にも思わなかったのである。

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