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牢獄での会話②

いつも読んで頂きありがとうございます。




(そっ、そんなことできるの!?)

〈はい。契約(フェアトレーク)能力(スキル)を持つ者の確証が取れなくはなりますが、その者から話を聞いてしまえばさしたる問題ではございません〉




 それならば、契約の解除をしてもいいかもしれない。

 後は、キョウ自身が話してくれる確証を得なければならない。


 


「……キョウ、私と取引しませんか?」

「……あぁ? 嬢ちゃんが俺なんかに何を望むんだァ?」




 訝しげな表情で私を見る彼に、目を逸らさずしっかりと向き合う。

 次の言葉を発するのに少し緊張してしまう自分がいる。

 けれど、その緊張を振り払って言葉を続けた。




「もし……その契約(フェアトレーク)をどうにかできたら、今回の依頼主のことや知っていることを全て教えて下さい」

「――――――……」

 



 キョウもお義父様も驚いたのか黙り込んでしまった。

 成功できるかなんて分からない。

 でも、カイムが言うならきっと大丈夫だと思う。

 気がかりなのは、この場にお義父様がいる事だ。

 カイムの能力(スキル)を使えば、確実に怪しまれるだろう。

 だか、今はキョウから情報を得ることを優先することにした。

 彼からの返事が一向にないので、少し不安になる。

 やがてキョウの口から漏れたのは返事ではなく笑い声だった。


 


「――ククッ ァハハハハハハッ! やっぱり嬢ちゃん、普通じゃねえな!」

「ど、どうなんですか!? 取引するんですか!?」

「ハハハハハ……はー面白ぇ。出来るもんならやってみなよ、嬢ちゃん」




 キョウはまるで面白い娯楽を見つけたかのような顔でそう答える。

 恐らく、私なんかに出来るわけがないと思っているのだろう。

 悔しいが、正直その通りだとも思う。

 ただ、ここまで来て引き下がるつもりは毛頭ない。

 これで言質は取った。




「分かりました……では、やってみますね」

「はあ? 冗談だろう? 本当にできる訳……」




 そこでキョウは口を噤んだ。

 私が左手の指先から炎を出したのを見たからだろう。

 炎自体は蝋燭が燃える時と変わらない大きさだ。

 だが、やはりこの青紫色が不思議な雰囲気を醸し出しているのだろう。

 横にいるお義父様も、私が出した炎から目が離せないようだ。

 私は一度心を落ち着けてから、カイムに教えてもらった詠唱を口にした。

 



「炎よ、忌むべき鎖を焼き尽くせ……浄火(じょうか)(いん)

「――――――っ!? ぐ……!」



 

 詠唱した途端、私の指先からスゥーッと炎が飛んでいく。

 行き先はキョウの胸元、契約(フェアトレーク)の印がある所だった。

 胸元まで辿り着いた炎は、瞬く間に印と同じ大きさに広がってぴったりと張り付いた。

 炎は服の上から張り付いたにも関わらず、服は燃えずにただ印だけが燃えていく。

 炎が熱いのか、印の部分に痛みが走るのか分からないが、キョウが小さく唸る声が聞こえた。

 程なくして、炎はひとりでに消えていく。

 お義父様が何も喋らず再び襟元を捲ると、まるで最初から何もなかったかのように契約フェアトレークの印が消えていた。



 

「う、嘘だろ……? 本当に消しちまいやがった」


 

 

 キョウは印があったところを見て、驚愕を隠せないでいる。

 お義父様も黙ってはいるが、眉を顰めているのがわかった。

 私自身、本当に成功するとは思っていなかったので内心驚きでいっぱいだ。

 というか、この驚きの矛先はカイムに対してである。

 本来であれば能力(スキル)は普通の魔法よりもはるかに強力で、例え別の能力(スキル)を使ったとしても良くて相殺できる程度だ。

 よっぽどの実力差や相性がよくない限り、干渉はできない筈だ。

 なのに、カイムは当たり前のように「出来る」と言っていた。

 それは彼自身が、他人の能力に干渉できる程の実力があるという事を示している。

 魔王の側近と言っていたが、それにしても彼自身の実力の底が知れない。

 彼に対する認識をかなり上方に修正しなければいけないと思った。

 とはいえ、その前にキョウとの話をつけなければならない。




「さあ、これで約束は守っていただけますよね」

「……くそっ、まさかこの俺が依頼人を裏切るような真似をすることになるとはなぁ。だが、約束は約束だ。教えてやる」 




 キョウはようやく観念したかのように呟く。

 幸い、先程の魔法で彼の心身に支障を齎すようなことはなかったようだ。

 そのことに少し安堵しつつ、彼が話し始めた内容に耳を傾けるように努める。




「……俺に依頼してきたのは、とある商会の長だ。わざわざ俺の元に足を運んで直接話を持ってきた。シュテルンベルグ家の養女を攫って来いという内容だった」

「只の商会長が、だと?」

「ソイツ曰く、日頃から懇意にしている下位貴族から持ちかけられたらしい」



 

 下位貴族は子爵・男爵・準男爵なのでまだ絞りやすいが、それでも絞っていくのに手間がかかるだろう。

 やはり先に、その商会長が誰なのか確認してからの方が、繋がりも見えてわかりやすい筈だ。




「それで、その商会長は何処の方なのですか?」

「……自分から名乗りはしなかったが、鳩にオダマキの花の商会紋が入った懐中時計を持っていた。それだけで十分分かるだろ?」

「鳩にオダマキ……やはり、コランバインか」




 お義父様は呟いた商会の名前は、私も聞き覚えがあるものだった。

 コランバイン商会は、この国で大きな商会の一つである。

 商会長は準男爵の爵位を賜っているバロウ・コランバインだ。

 私はお目にかかったことはないが、噂では裏でかなり悪どい商売をしていると聞いたことがある。

 見た目も丸々と太った体に、口周りに沢山の髭を蓄え、いつも見せびらかす様に豪勢な装飾品を身に付けているそうだ。

 陰では「裏で手回しをしてその爵位を買った」とまで言われているらしい。

 お義父様からしたら、そんな人物の名前が出てくるのは想定の範囲内だったのだろう。

 私は関わりが無かったので、パッと思い浮かばなかったが。

 



「他の下位貴族の名前は知らんのか?」

「残念ながら、名前は明かされなかったな」

「そうか……」

「一先ず、コランバインが関わっているのが判明したのは大きいですね。ただ問題は、そのコランバインが懇意にしている下位貴族が一体何処なのか……」

「……その事なんだがな、プリムラ。一つ、心当たりが浮かんだのだ」

「心当たり、ですか?」


 

 

 お義父様の溢した言葉に思わず反応してしまう。

 お義父様の方を見ると、険しい表情を浮かべているので、少し珍しいと思ってしまった。

 


  

「ああ。実は以前、とある家から領地の農作物を荒らす魔物を討伐して欲しいという旨の手紙が届いたことを思い出してな。それも二度。一度目は四年くらい前の話だが、二月前にも打診が来ていた」

「そ、そうなのですか?」

「ああ。記憶が正しければ、二月前の手紙には大きな鉄猪(アイアンボア)が数体と報告されていた筈だ」




 割と最近の話であることに驚く。

 しかしそれ以上に気になるのが、お義父様がこの二月の間、そのような理由で他領へ赴いた記憶がないことだ。

 お義父様に変わって別の誰かが向かったという話も聞いていない。

 私がそんな疑問を浮かべているのを察したのであろう、お義父様が言葉を続ける。



  

「だが……断ったのだ」

「え、断ったのですか?」

「ああ、その家は以前色々あってな。儂にとっては許し難いことをしておきながら、図々しくもうちに頼んできたのが許せなかったのだ」




 貴族同士、友好な関係を築くことが出来ればそれに越したことはないのだが、貴族であり続ける以上そうは言っていられないのが現実だ。

 皆、いかに自分の家が優位に立ち続けることができるかを競うのだから。

 とはいえ、シュテルンベルグは他の貴族との関係は悪くないので、関係の良くない相手がいるとは思わなかったので驚く。

 ましてや、気に入ったら誰彼構わず褒めるようなお義父様が、そのような感情を抱くなんて思わなかった。

 お義父様の方で心当たりがあると言っても、私には検討がつかない。



 

「もしかしたら以前のことに加えて、今回の依頼を断ってしまったからお前が狙われるようなことになったのかもしれん。だとしたら申し訳がない」

「いえ、まだそうと決まった訳じゃ……」




 私がそう声をかけるも、どこか思い詰めたお義父様の表情をしている。

 一体、お義父様をそんな顔にさせる程のことをしたのは、一体誰なのだろうか。

 意を決して、お義父様に聞いてみることにした。



 

「あの、お義父様。差し支えなければ何処の家か聞いてもよろしいでしょうか?」

「……ムッフィエだよ。お前の家庭教師(ガヴァネス)をしていた、カルミア嬢の家だ」

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