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炎弾で狙い撃ち






 雑木林の中を歩いている間、カイムから魔法を使わずに魔力を気取られないようにする方法を教えて貰った。

 勘のいい魔物や戦い慣れた人間は、他者の魔力を察知することが出来るから、やっておいて損は無いのだと言う。

 冷たい水面の奥底のように、自分の体内にある魔力の流れを静かにする感覚らしい。

 教えて貰ったことを意識しながら歩いて、暫く経った頃だった。

 大分離れたところから、聞き覚えのある声がするのに気が付いた。

 聞き間違いでなければ、恐らくこの声はセージ様のものだ。

 私がその方向に急いで駆け出そうとした瞬間、カイムから静止の声が掛けられた。




〈無闇に向かってはなりません!……あの様子だと、恐らく交戦中でしょう。プリムラ様、此処から私との会話は思念にてお願いします〉

(わ、分かったわ)




 私はカイムに指示されて、私は近くの岩の裏に隠れる。

 目を凝らしながら声のする方を見ると、誰がいるか認識出来るくらいの距離にある人影を捉えた。

 その周りに何か飛び回っていて、それに向かって短剣(ダガー)を振り回しているのが見える。

 左手には、円形盾(ラウンドシールド)を構えており、時折身を守るように掲げながら攻撃しているのが分かった。

 飛び回っている何かは、恐らく件の矢羽鷹(ヴェインホーク)だろう。

 ちなみに、カイムとは視覚の共有もされているらしく、私が見ているものと同じ内容が視えると言っていた。




〈あのセージという者、あれだけの軽装で短剣(ダガー)円形盾(ラウンドシールド)など隠し持っていたのですね〉

(恐らくだけど、あれはセージ様の能力(スキル)で出してる筈よ)

〈ほう……武器庫(アーマリー)ですか〉

(詳しくは知らないけど、多分そうだと思うわ)




 国防隊の隊員や王国軍の兵士は、個々の能力や得意不得意に応じ、所属する場所や使用する武器が違うとお義父様が話していた。

 だけど、セージ様は様々な武器を使って訓練しているのを見て、疑問に思い聞いてみたことがある。

 セージ様によると、自分の能力(スキル)の特性上、様々な武器が使えた方が良いのだそうだ。

 私は戦闘について詳しく無いが、戦況に応じて武器を変えられる人間は手強そうだと話を聞いた当時思っていた。

 



短剣(ダガー)では飛び回る矢羽鷹(ヴェインホーク)に対して多少不利ではないかと思いましたが、彼は洞察力も高いようですね。攻撃も上手く避けています。一瞬の隙をつけば、仕留められるでしょう。……今の内に、怪しい人物が居ないか探しましょう〉

 



 カイムの言葉にこくりと頷く。

 とはいえ、そう簡単には見つけられないだろう。

 イベルがいれば違っただろうが、先程の召喚契約(アグリメント)で魔力を取り込む為にいなくなってしまった。

 敵の位置が分からない状態でやたらと魔法を使うのも得策では無い。

 できることなら、魔法を使わずに敵の位置を把握出来ればいいのだが。

 私は岩の裏に隠れたまま、辺りを見回した。




〈森の中で人を見つけるのは難しいですが、ポイントを押さえれば見つけやすいです。恐らくは彼の周辺に人が居ると思うので、一点に集中して見ないよう、なるべく広く視界を捉えてください〉

(う、うん)

〈まずは人間の全身を捉えようとするのではなく、頭の形を探してください。頭から肩にかけてのラインは、自然界には存在しない形です。肌の色も自然界には存在しない色ですから、それも見つけられれば尚よろしいかと〉




 カイムの指示通り、人の頭の形を探していく。

 セージ様の周辺にある草陰を粗方見回したが見当たらない。

 そこでふと、木の上にも隠れるところがありそうだと上を見ると、私から見て右手の奥の方の樹上に僅かな肌色が見えた。

 少し浅黒いようなその肌色をよく凝らして見れば、誰かの目元のように見えなくもない。




(見つけたかも。でも、遠くて分かりづらいわ)

〈少しでも動きがあれば可能性が高いですよ。後は音があればいいのですが、さすがに距離が遠いので難しいですかね。少しづつ近付いて行けますか?〉

(やってみる)


 


 怪しいと思った辺りをじっと集中して見続けながら、木や草陰に移って行って距離を詰める。

 頭の形も分かるぐらいの距離まで来た時、僅かに肌色が揺れるのが分かった。



 

〈プリムラ様、隙を見て彼処に攻撃を入れます。私が合図をしたら、中級魔法の炎弾(フレイムバレッド)を打ち込んでください〉

炎弾(フレイムバレッド)ね……分かった)




 心臓が嫌という程煩く鳴っているのが分かる。

 それを無視して、私は両手を掲げて狙いを定めた。

 手が震えているのに気づかない振りをして、カイムが合図するのをじっと待った。

 しかし、視界の端でセージ様と戦っていた矢羽鷹(ヴェインホーク)が飛び上がって静止する。

 体が淡く緑色に光ったと思うと、周りに緑色の羽根のようなものが無数に現れた。

 それが矢羽鷹(ヴェインホーク)の魔法攻撃であると、瞬時に理解する。

 思わず構えるのをやめてその場から飛び出しそうになったが、ぐっと堪えて我慢する。

 此処で飛び出したら、かえって危険だと判断したからだ。

 それに、矢羽鷹(ヴェインホーク)は自分に任せろと言ってくれた彼だ。

 セージ様ならきっと大丈夫だと信じる。

 その瞬間、私の手の震えが止まった。






 



 ―――――ビュ ビュ ビュ ビュ ビュ……

 ―――――ザ ザ ザ ザ ザ……




 何かが大量に素早く飛んでいく音が耳に入った。

 次いで、それが勢いよく地面に突き刺さる音も。

 矢羽鷹(ヴェインホーク)の攻撃魔法が発動したのだ。

 私は振り向きたいのを必死に我慢して、目標に向かって手をかざし続ける。

 カイムの合図を今か今かと待っていると、矢羽鷹の攻撃魔法とは違う風切り音が耳に入ってきた。




 ――――――――ピィーーーッ!?




 鳥が甲高く泣き叫ぶような声が聞こえたが、顔を動かすことは出来ない。

 だが、今の声でセージ様が矢羽鷹(ヴェインホーク)に何か仕掛けたのだろうと予想が着いた。

 それを裏付けるかのように、ドサッと何かが落ちる音が聞こえると同時に、捉えていた肌色が大きく動いた。




〈今です!!〉

炎弾(フレイムバレッド)!!」




 六つ程、青紫色の小さな炎が物凄い速さで飛んでいく。

 狙い通り飛んで行った先では、突然攻撃に反応出来ず次々と火に飲まれる人影が見えた。

 熱さに呻いたその人影は、逃げるように木から飛び降りる。

 その人影が逃げて行かないよう、草陰から飛び出し後を追いかけることにする。

 突然飛び出してきた私に驚いたのであろう、セージ様から溢れた驚きの声が耳に入った。




「プリムラ様っ!? 街に残られたのではないのですか!?」

「セージ様!お説教は後でいくらでも受けますので、あの者を捕らえるのを手伝ってください!!」




 私が指差す方を見たセージ様は状況を理解したであろう瞬間、手に持っていた何かを数個投げつけた。

 どうやらそれは投げナイフだったようで、逃げようとするその者の近くに生えていた木に刺さっていった。

 私はなるべく近く、でも手を伸ばされたら咄嗟に避けられる位の距離まで近づいていく。

 その者はよろけて足を止めた後、自分の胸に手を当てた。




「ぐっ……水魔法(ウォータ)!!」




 ――――――バシャンッ


 


 その者の手が少し光った後、魔法で現れた水が上から音を立てて落ちた。

 体から炎が消えて直ぐに、燃えてボロボロになったフードを剥ぎ取ったことで、その人物が男であることが分かった。

 男はところどころ火傷を負っているが、私が先程目で捉えていた少し浅黒い肌の色を確かに持っていた。

 髪は鮮やかな赤色で、鋭さを持ったアーモンド型の目は柘榴石(ガーネット)の瞳を宿している。




「くそっ……まだ炎の熱が残ってやがる!()()()()()()()……普通の炎じゃねえのか!? 一体なんだこの魔法は……っ」

「……貴方が先程の矢羽鷹(ヴェインホーク)を操っていたのですね。一体私にどのようなご用ですか?」

「アンタの仕業か、嬢ちゃん。まさか標的(ターゲット)に隙を突かれて攻撃されちまうとは、俺もまだまだだな……」

「質問にお答えください。貴方は一体どのようなご用で私を狙うのですか」

「……おっと、そういった話はきちんと俺を捕まえてからした方がいいぜ」




 男が私達の方に左手を翳すと、その手首に腕輪のように刻まれた三つの模様のうちの一つが水色に光り出した。

 それが何を意味するのかいち早く気付いた後方のセージ様が、私に向かって口調も気にせず大きな声で叫ぶ。




「お嬢様っ!其奴、使役(テイム)してるのは矢羽鷹(ヴェインホーク)だけじゃない!逃げろ!」

「――――っ!?」




 セージ様の言葉を理解した瞬間、私の左斜め後方から何かが地響きのような音を立てて近付いてきている事に気付く。

 バッとその方向を向けば、黒っぽい毛色をした大きめの魔物が猛スピードでこちらに突っ込もうとしている。

 魔法での足止めは間に合わないと思った瞬間、頭の中にカイムの声が響いた。




 〈左方に大きく跳んで転がってください!!〉




 その言葉に弾かれるように、私はカイムの言う通り前方に大きく跳んで転がった。

 間一髪、私はギリギリの所で魔物の突進を躱す。

 もう少し反応が遅ければ、おそらく私の体に直撃していたと思うと、少し恐怖を感じた。

 地面に肌が擦れる感覚も、一々気にしている所ではなかった。

 地面から顔を上げれば、魔物を撫でている男が私の方を見て笑っているのが見えた。




「やるなあ、嬢ちゃん。拾われ子だろうが流石は“歩く要塞フォルタリザ・アンダンテ”の娘だな」

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