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私、魔王の娘らしいです。

本日連投2話目です。






 突然覚えのない呼ばれ方をしたことで、フリーズしてしまった。

 私は辺境伯に拾われた娘であって、間違っても王女などという肩書きではない。

 しかも、魔族にそんな呼ばれ方をされる覚えもないのだ。

 私の驚きを察してか、彼は子どもに言い聞かせるように説明し始めた。




「ああ、そうですね……王女様はまだ赤子だったので覚えてるはずもない。本来貴女様はここに居るはずのない存在なのです」

「居るはずの、ない存在……?」

「そう、貴女様はれっきとした魔を統べる王の血族……つまり魔王様の娘なのです」

「………………え、は?ち、ちょっと待って。突然の展開に私の思考が追いついてこない。わ、私が……魔王の娘!?」

 「ええ、そうです」



 

 にっこり綺麗な笑みを浮かべて笑いかける魔族の人。


 彼曰く、私は生まれてすぐに魔王国で起こった大きな内乱に乗じて母である魔王妃と共に行方が分からなくなってしまったらしい。

 魔王妃は恐らく娘である私を守るために逃げたのだが、内乱者から逃げきれず崩御してしまったのが後に分かった。

 しかし一緒に居るはずの私の姿はどこにもなかった。

 内乱者に攫われた可能性も考え、片っ端からアジトを潰していったが何処にもいなかったという。

 私は生まれたばかりで魔力も発現していなかったため、国中どこを探しても魔力感知にも反応しない。

 万が一、内乱の所為で僅かに結界に綻びが出た隙に私が国を出ていたとしても、国を守る結界が阻害して私の所在を確認することが出来ない状態だった。

 魔王国は長い間外の世界との交流は無いので、無闇に未知の領域を探す訳にも行かず、そもそも外の世界に出ている可能性は低いだろうとの事で、皆の中では私の生存はもう諦められていた……とのことだった。



 

 

 確かに、この辺境伯領はすぐ横に魔王国がある。

 お義父様も、当時の視察目的は魔王国で何やら内乱のようなものが起きているということで、自領に異変がないか調べてたと言っていた。

 その中で、衰弱して今にも亡くなりそうな私が見つかったのだと。

 だけどまさか、そんな出来のいい話があるのだろうか。

 私の中ではまだ納得していない部分もあった。



 

「そ……そうだとしても、なんで私を一目見て魔王の娘だと分かったの?赤ちゃんの時の私しか知らないなら、そんなすぐに分かるはずもないでしょ?」

「それは貴女様の瞳と髪の色が、魔王様と同じ色だからです」



 

 その言葉にハッとして、思わず両手で顔を触る。

 まさか、私の持ってる色は魔族特有の色だったとは。

 確かにそれなら、これまで同じ色合いもつ人と出会わなかったのにも納得がいく。

 しかし、私の持つ色だけで本当に魔王の娘と断定できるのだろうか。

 そう考える私の心の声は分かりやすいのだろうか、彼は説明を続けた。

 



「魔族で金色の瞳を持つのは魔王と、次代魔王の資格をもつ者とされています。次代魔王の資格を持つ者は一人しかいないので、その瞳の色はこの世に二者しか存在しないのです。黒髪は魔族が持つ色。そして貴女様は、生まれながらにその両方の色を宿していました」




 思わず足の力が抜けてへたり混んだ。

 こんな形で自分の出自を知ることになるとは、思いもよらなかったからだ。

 その上普通の人間でもなく、魔王の娘だなんて……ん?今、スルーしかけてたけど、結構重要なことサラリと言ってなかった?



 

「――……魔王と次代魔王の資格をもつ者だけが、この瞳の色をしているって言った……?」

「左様でございます。いやしかし、もし生きておられたら美しく強くなられているとは思っておりましたが……本当に予想通りでした。それに加えてこんなにも聡明になられているとは!魔王様も泣いて喜ばれるでしょう!」

「ま、待って待って!次代魔王ってことは、次に魔王になるの、私!?」

「勿論ですとも。とはいえ、まだ魔王様はご健在なので、即位に関してはもう暫くは先になると思いますが」



 

 開いた口が塞がらない思いとはこういう事なのか。

 何の気なしに召喚の練習をしたら初めて成功して、召喚されたのが魔族で、しかもその魔族から私は魔王の娘で魔王を継ぐ者だと言われて……。

 まさか夢でも見てるわけではないよな、と思いつつ、思わず自分の頬を抓ったが、痛みを感じたのでどうやら現実らしい。

 

 


「て、丁重にお断りさせていただきます!!」

「おや、何故ですか?魔を統べる王となれることができるのですよ?」

「無理無理!一介の小娘にそんなことできるわけ無いじゃない!私は人生を人並みに生きていたいんだから!」

「……人並み、ですか」




 きょとんとしながらそう呟く彼は、私の心境がまるで分からないようだ。

 魔族だから仕方がないのかもしれないが。

 そういえば彼の名前もまだ知らないし、少し落ち着いて話をする必要があるのかもしれない。




「……とりあえず、もう少し詳しくお話を伺いたいのですが、先に貴方のお名前を教えていただいてもよろしいですか?」

「おや、王女様にお会いできた喜びで思わず名乗り忘れておりましたね。大変失礼致しました。私、魔王様の側近をさせて頂いているカイムと申します」

「カイム様、宜しくお願い致します。私はシュテルンベルグ家の長女・プリムラと申します」




 カイム様は少し大袈裟にお辞儀をしたので、私もカーテシーを披露する。

 私のカーテシーを満足気に見た彼は、ニコニコと笑顔を浮かべていた。




「私めに敬称は要りません。王女様のこちらでのお名前はプリムラ様ですね。一応生まれた際に魔王様直々に名付けた名前もありますが……それはまた魔王様とお会いしてからお話しましょうか」

「うっ……ま、まあ、そうだよね。向こうでも名前があった筈だもんね」

「それで、ゆっくりお話をされたいとの事ですが、生憎あと2時間ほどで夜が明けてしまいます」




 確かに時計を見れば、言われた通りの時刻を指していた。

 しかし、この状況で一度寝ろと言われても難しい話である。

 ましてや、今後の自身の存在価値が変わってくるのだから尚更だ。

 そんな私の想いとは裏腹に、カイムは私に言葉を続ける。




「我々魔族は、その名の通り魔力が豊富な一族です。基本的には月が空を支配する夜に力が増す一族なのですが、忌々しい陽の光がこの大地を照らす間は、我らの力は抑えられてしまいます。ですので、それを避ける為、昼間は眠りに就くのです」


 


 ……成程、私が今まで能力(スキル)を使えなかった理由に合点がいった。

 確かに私は今日まで、夜に能力(スキル)を使ったことは無かった。

 今まで能力(スキル)を使えなかった理由が、まさか私の種族の特性が問題だったとは。

 魔族については何の情報もないので、分かるはずが無かった。

 カイムの言葉を受け、特性の所為で昼は眠るのであれば、仕方がないが彼に無理をさせてはいけないと考えた。



 

「じゃ、じゃあ……また明日の夜にお話を聞くことはできる?その場合って、また召喚(サモン)すればいいのかしら?」

「勿論でございます。それと……プリムラ様、折角なので魔族が召喚(サモン)すると使えるようになる技を使わせて頂いても?」

「??……いいけど、一体何?」





 カイムは整った顔で笑顔を浮かべると、私の目の前に立つ。

 次の瞬間、私よりも高い位置にあったカイムの頭がどんどん下がっていった。

 びっくりして彼の足元を見ると、私の背中側にある窓から照らされた月明かりで出来た影に、飲み込まれるように沈んでいってるではないか。



 

「魔族によって召喚(サモン)されたものは、召喚者の影に出入りすることができる『伏魔殿(パンデモニウム)』が使えるようになるのです」

伏魔殿(パンデモニウム)……?」

伏魔殿(パンデモニウム)召喚(サモン)されたものの意思で出入りするが出来る亜空間です。勿論、プリムラ様が強く願えば呼び出すこともできます」



 カイムは少しずつ私の影に沈みながら説明してくれる。

 みるみるうちに彼は腰辺りまで影に沈みこんでしまっている。

 伏魔殿(パンデモニウム)のおかげで、明日また召喚(サモン)をする必要はないようだ。




伏魔殿(パンデモニウム)に入ると外界の様子が分からないので、私の魔力で作った(つぐみ)をお渡ししておきます。この鶫を通して外の様子が分かるようにしているので、何かあれば鶫に話しかけてください」

「分かったわ。じゃあ、また明日の夜に……」

「承知致しました、プリムラ様。では、失礼致します」




 とぷん、という音と共に、カイムは私の影へ溶けていった。

 残った鶫は私の肩の上で羽根を啄んでいたが、私がどっと疲れてベッドに倒れ込むと同時にベッドサイドランプへと飛び移った。

 自身に対する長年の疑問が解決した事と、新たな問題が発覚したことに目が回りそうだった。

 朝になって、この事をお義父様やお義母様、お義兄様に報告する……訳がない。

 まだ自分でも状況がよく分かってないのだ。

 まずは明日、もう一度詳しく聞いた上で判断をするしかない。

 そんな事を考えていると、疲れも相まって段々と自分の瞼が重くなっていくのが分かった。

 眠れないと思っていたが、案外私はこんな状況でも寝られるのだな、と頭の隅で考えてから意識が途切れた。

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