外に出るのね〜
「奥様、お支度に参りました」
部屋での昼食を終え、ロロアーナが本を読むつもりがぼんやりしていると声がかかった。
「どうぞ入って」
ハッとなったロロアーナが返事をすると、昨日から付いてくれている侍女が2人入ってきた。侯爵からは実家から連れてきてもよいと言われていたが、実家では専属の侍女などついていなかったために侯爵家にお願いした形だ。
「お召替えをさせていただきます。」
淡々と仕事を進める侍女を横目にロロアーナはなすがまま、再び上の空になった。
(は〜お茶の時間のために着替えるのね〜?忙しいことだわ、今着ていた服でも十分に思うけどダメなのかしら〜。いけない、こういうのを態度に出してはいけないのよね……当然のように、当然のようにするのよ……実家のみんなに怒られてしまうわ……さっきお昼寝すればよかったな〜)
ロロアーナは大層ぼんやりした、うかつな類の人間なので、彼女の生家の面々はこの婚姻にあたり嫁ぎ先で舐められることがないよういくつかのことを言い含めていた。
(なんだっけ……『考えてからしゃべること』、『毅然とした態度をとること』、『思ったことをそのまま言わないこと』、『使用人にへりくだりすぎないこと』、『考えなしにしゃべらないこと』、『ヘラヘラしないこと』、『口を開けたままぼんやりしないこと』……半分くらい同じこと言ってないかしら……)
「……様、奥様!」
「あら、何かしら?」
「どちらの帽子になさりますか?」
「そうね……では靴と色を合わせた方にしましょう」
(ん?帽子?あら外に出るのね〜)
「あら外に出るのね〜」
(ん?あれ?しまった、思ったことそのまま言ってしまったかしら?)
「……はい、ご説明した通り、お嬢様がお庭の奥にあるサンルームにてお茶をとのことですので」
「そうだったわね、楽しみだわ」
実家の言いつけを再度思い出しながら、無表情がさらに硬くなってこたえるロロアーナに侍女たちは新しい奥様の不機嫌を感じとるのだった。