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当事者にとっては穏やかな、周囲にとっては冷ややかな顔合わせから一夜明け、エリザベスは朝食のために食堂に向かっていた。
「いつも1人で食べていたから今日からロロアーナさまがいるのがうれしいわ!お父さまもロロアーナさまが到着されるときくらいこちらに戻ってきたらいいのに……叔父様も怒ってらしたわ」
「……旦那様はマラードでお忙しくされていますからね」
メアリはエリザベスがロロアーナに気を遣うことなどない、というのを堪えて言った。
エリザベスの父であるジョシュア・ワーズワース侯爵は海運業を営んでおり、ほとんどを港町、マラードで過ごしている。時には国外に船で出てしまうこともあるため、エリザベスの暮らす領都にはほとんど帰らない。
実質の領主としての仕事は実弟のアーチャーに任せきりで、常々小言を言われている。
「おはようございます。ロロアーナさま、昨夜はよくお休みになれましたか?」
食堂へ到着したエリザベスはにこやかに朝の挨拶をする。
「おはようございます。よく眠れましたわ、素敵なお部屋を用意してくださったおかげです」
先に席にいたロロアーナが相変わらずの仏頂面で返事をしたと同時に、そちらを見ていたエリザベスが眉根を寄せた。すぐに子どもらしい笑みでエリザベスがそちらに駆け出す。
「お嬢様?」
「ねえ、ロロアーナさまはこちらにおすわりになって!おねがい!」
ロロアーナは座っていた入り口近くの席を立ち、エリザベスの言うまま中央の席に移る。エリザベスはにこにことその隣に座った。
「お嬢様!そちらの席はダイアナ様の……」
「女主人の席よ、ロビン。きちんとご案内しなさい、知らなかったわけではないでしょう?いただきましょう?ロロアーナさま」
「ええ……いただきましょう」
言われるがままのロロアーナは硬い表情でこたえた。
(……ロビンさんとメアリさんがものすごく見てくるけど大丈夫なのかしら?ダイアナ様って亡くなった前の奥様よねえ?……まあここで話を深掘りしてもシシー……エリザベス……お嬢様……が話したくないかもしれないし……ごはんがおいしそう〜)
ロロアーナは心の中でさえエリザベスの呼び方を決めかねていたが、侯爵家の豪華な朝食に気を取られて思考はそれまでとなった。
「そういえば、ロロアーナさま」
一通り食べ終えて、紅茶を楽しむロロアーナに同じくミルクティーを淹れてもらったエリザベスが話しかけた。
「はい、なんでしょう?」
「今日のティータイムはご一緒できますわね、たくさんお話できたらうれしいわ!うちで作ってくれるお菓子はおいしいから、お口にあえばいいのですけれど」
(まあ、なんてかわいいの〜、うちの妹が5歳の頃なんてご飯の間中走り回って大騒ぎしていたわよね……座って食べられていたかも定かではないわ……賢さが段違いだわあ〜そういえば婚姻の時に侯爵閣下にお会いしたけど賢そうな方だったものね〜)
ロロアーナは前日同様にたっぷり30秒ほど動きを止め、エリザベスを除く面々の表情が硬くなってからようやく口を開いた。
「ええ、よろしくお願いしますわ」