どんなかたかしら
「お嬢様、いらっしゃいましたよ」
ポワソン国内でも由緒ある、ワーズワース侯爵家の老執事は、1時間ほど前から自室で落ち着きなく歩き回る小さな女の子に声をかけた。
「まあ!ありがとうロビン、ねえどのような方だった?わたくしと仲良くしてくださるかしら……」
エリザベス・ワーズワース、5歳になったばかりの彼女はワーズワース侯爵家の長女である。ふんわりとした栗色の髪と丸い緑の瞳が優しげな少女だ。5歳でありながら非常に聡明で、使用人たちには『人生3回目くらいなのではないか?』と言われていた。
3歳の冬に実母を事故で亡くし、父親のワーズワース侯爵が後妻として配下である伯爵家からロロアーナを娶った。
今日がロロアーナが侯爵家へやってくる日であり、エリザベスとの顔合わせの日であった。
「もういらしているのですから、お会いになって確かめてみてはいかがでしょう?応接間へお通しいたしました。」
不安げなエリザベスを宥めつつ、ロビンは共に応接間へ向かうのだった。
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応接間では、まっすぐな金髪に吊り目がちな水色の瞳をもった女性がピンと背筋を伸ばしてソファに座っていた。ロロアーナその人である。
彼女を案内した侍女は、にこりともせず冷ややかな雰囲気を纏うロロアーナを見てエリザベスを守らなくてはと決意を固めていた。
ロロアーナはワーズワース侯爵家の臣下にあたる伯爵家の次女で18歳。上に兄と姉、下に歳の離れた妹がおり、手をかけられずに育ってきたためか元来の性質からか、あまり表情が動かない。また急な婚姻であることに加え、そもそもがどこかに侍女として雇われた上で子爵か男爵にでも嫁げば良いと育てられてきたことから呑気に過ごしてきたために侯爵家の女主人としての力量はないに等しかった。
(まあ、侯爵家ともなると調度品もうちとは大違いね〜、ソファがふかふかで背もたれに身体を預けたら眠ってしまいそうだわあ……いけない、お母様から言われた通り、ぼんやりした顔をしないようにしないとね〜)
そして、見た目と違って非常にのんびりとした人物であった。
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