恋すると綺麗になるのに愛すると醜くなると思わない?
「恋すると綺麗になるのに愛すると醜くなると思わない?」
「そうかな」
退屈そうにスマホをいじりながら、気のない返事をするタツキ。
「なんでだと思う?」
「さあ」
「自分と同じ想いを返してほしくて、相手に求めすぎるからだと思うんだけど、違うかな?」
「なるほどね」
「はなし、聞いてる?」
タツキはスマホから目を離さず、「聞いてるよ」と答えた。
(絶対に聞いてない。スマホばっかり見て!)
「さっきから何を見てるの?」
少し険のある言い方をしてしまった。
タツキがようやく顔をあげ、私の顔をじっと見た。
「な、なに?」
「サナは、僕のこと愛してるってよく言うけど」
そこでなぜか言葉を止め、首を横に傾ける。
「そ、そうだよっ。わたしはタツキのことばかり考えてるもん」
口うるさくしてしまうのも、ヤキモチをやくのも、ずっと触れていたいと思うのも、タツキの事が好きすぎるからで、そんな自分が醜く思えてあんなことを言ってしまった。私だけが必死みたいに思えて。
「いま何を見ていたかというと、サナと出会った頃からの写真を見ていたんだ」
「えっ……」
「でもおかしいんだ。昔も今もサナはずっと可愛いんだよ。愛すると醜くなるのだとしたら、それって僕を愛していないことになるんじゃないか?」
「み、醜くなるっていうのはそういう意味じゃなくて……」
「サナがよく読んでいるウェブ小説の履歴からみて、普段はそっけない態度の男に、実は溺愛されているみたいなのが好きなようだから僕もそれを意識してたんだけど」
「は?」
(ちょっと待って。履歴って――)
「確かにそれだと僕の想いは伝わらないね」
タツキから絡みつくような視線を向けられ、思わずたじろぐ。
「つ、伝わってるから大丈夫だよっ!」
なんだか見てはならないものを見てしまった気がして、咄嗟にそう答える。
(ここは何も気づいていないふりをするのが賢明な判断だと思う!)
「じゃあ、僕は醜くなってない?」
「タツキはずっとかっこいいよ! 今の方がかっこいいくらい!」
「そう? そう言ってもらえると嬉しいな。だったらさっきの話は、恋すると綺麗になるし、愛するともっと綺麗になるでいいんじゃない?」
「そうだ…ね。愛で醜くなるわけないよね……」
「悩ませてしまったことは謝るよ。でも安心して。今も変わらず君を愛しているから」
タツキが笑顔を向けてきたから、私も笑顔をかえす。ちょっと口元が引きつったのは大目に見てほしい。
「わ、わたしも」
思った以上に愛されていると知って嬉しい。私がタツキを愛する気持ちも変わらない。愛し方は違えどお互い愛し合っているのだから、それは幸せなことだと思う。
……けど。
ほんの少し、思うところはある。
でもそれは、愛する心があれば許せる……許容範囲……見ないフリはできる……から、きっと大丈夫。