8話.弁当
今日は普通に起きることができた。目覚ましの鳴る5分前には起きた。優秀だな。
そのまま自分の部屋を出て1階に下りると、キッチンのところに目黒が立っていた。
制服の上から水色のエプロンを着る目黒…。なんだろう、ずっと見ていられる気がする。
目黒は俺の気配に気づいたのか、チラッとこちらを見た。
「スグル、おはよう」
「あー…おはよう」
寝起き一番に目黒と挨拶するのも不思議な感覚だ。まだ慣れない。
目黒は包丁やまな板、フライパンを使って何か作業しているが…。
「朝早くから何してるんだ?」
「お弁当作ってる」
ああ…なるほど。
この前は一緒に購買のパンを買ったが、目黒は弁当派か。
しかし、自分の分をちゃんと作って用意するあたり大したものである。
「お前って偉いな…。俺には弁当を作る気力は無いわ」
「スグル」
「ん?」
「はい」
急に目黒から何か渡された。
これはまさか…手作り弁当というやつじゃないか!?
「おかず余ったから。あげる」
「お、おう。…ありがとう」
「スグルって唐揚げ好き?」
「大好物だが」
唐揚げ、ハンバーグ、卵焼き。弁当の中にあったら嬉しいシリーズである。
「それならよかった」
「何が?」
「スグルのには唐揚げいっぱい入れた」
「えっ、どうして…」
俺が唐揚げが好物だと知ってホッとする目黒、そして俺の弁当にいっぱい唐揚げを入れたと報告してくる目黒。
なぜ俺のためにそんなことを…ま、まさか。
「揚げ物は太りやすいから」
「俺を太らせようとしてんじゃねーよ…」
やっぱりそういう事だと思ったよ。
すると、俺と目黒のやり取りを見ていたのか、後輩の秋元がひょこっと現れた。
「初川先輩なにキョドってるんすか?なんかキモいっすよ」
「キョドってねーし、キモくもねーよ…」
秋元は「まじキモー」と言いながら、外へ出て行った。騒がしいやつだな…。
その後、俺も学校へ登校をし授業を受け、無事に昼休みとなった。
「…飯食うか」
俺はカバンから弁当を取り出す。
目黒が作ってくれた弁当…。弁当の蓋を開けるのに、俺はすごい緊張していた。
「おっ!初川殿、今日は購買のパンではなくお弁当とは珍しいでござるね」
右隣の席にいる吉田がすかさず反応してきた。
そんな細かいところまでチェックしなくていいのに…。
それに、今日はあまりこの弁当の存在を誰にも知られたくない。
「あー…まぁな」
俺は適当に吉田に返事をする。そして、弁当の蓋をパカッと開けた。
おお…俺の好物ばかりが入っている。
本当に唐揚げは沢山入っているし、卵焼きもある。地味にプチトマトがあるのもいい。
俺はテンションが上がりながら、唐揚げにかぶりついた。なんだこれ…旨味のナイアガラや!!
「スグル」
「な、なんだ?」
脳内で変なリアクションを取っていたら、目黒が俺の席の横に来ていた。
俺が弁当を食べている様子を眺めているのか、じっと見てくる。なんだこれ、変に緊張するんだが。
「お弁当、美味しい?」
「ま、まぁ…普通にうまいぞ」
「…おかしい」
「おかしいってなんだよ」
「初めて人に作ったから、失敗すると思ってた」
初めてという目黒の言葉に、心臓がまたどくんっと跳ねた。
目黒が初めて作った弁当を、俺がもらっていいのだろうか…。なんか無駄にドキドキしてきたぞ。
すると、俺の右隣からガタガタと机が震える音が聴こえてくる。この音は…もしや。
「は、初川殿!?いつの間にそんな憎き恨むべき存在であるリア充の称号を手に入れて女子とキャッキャウフフするクソみたいなイベントを消費できるようなギャルゲーの主人公になったでごさるか!?拙者を裏切るということでいいのでござるね!!?」
「よ、吉田落ち着け!目が血走ってるぞ!」
その日、吉田は俺のことを裏切り者と罵ってきた。
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