3話.根に持つ
転校生の目黒は、俺の後ろの席になってしまった…。
くそっ、どういうことだ。俺は窓際の1番後ろの席だったのに…。その後ろに新しい席が用意されるなんて!
休み時間になると、目黒の周りには転校生という存在に興味津々なクラスの奴らが集まっていた。ここだけ人口密度が高すぎる。
「初川殿…。陽キャの圧が強すぎるでござる…」
「落ち着けって…。転校生の人気も数日で終わるだろ」
俺と吉田はヒソヒソと喋っていた。
決して周りの人間には聞こえないように。気配りである。
「しかし、さっきから目黒殿から殺気を感じるでござるよ…」
「え、殺気?」
吉田がそんなことを言うので、俺は後ろを向いた。
「……」
「……」
「……」
「……」
おお…。バッチリと目黒と目が合ってしまった。
なんだか、俺の方を睨んでいるようにも思えてきて、手が急に震えてきた。
まるで蛇に睨まれた蛙。
「な、なんでせうか?」
俺は勇気を振り絞って、恐る恐る目黒に話し掛けてみた。
無視されたら、明日から目黒の視界に入らないように机に突っ伏しなくては…。
「朝、間違った場所を教えてきた人」
…やっぱり、今日の朝の件について覚えていたのね。
俺なんてどこにでもいそうな冴えない顔をしてるのに、目黒に覚えてもらえていたなんて光栄だ…と自分に言い聞かせる。
「あなたのせいで学校を間違えた。すごい恥ずかしかった」
「いや、ちょっと待て。訂正させてくれ。あれは、お前が見せてきた紙に書いてある字が汚すぎて、『武蔵南』が『武蔵東』に見えてしまっただけなんだ!」
「言い訳はいらない。私は怒ってる」
目黒は頬をぷくっと膨らませていた。
いちいち怒っているリアクションも可愛く見えた。美少女って何をしても可愛く見える。
「聞いてるの?」
「俺は…何も悪くない」
「犯罪者が言いそうなセリフ」
「…どうしたらいいんですか?」
このままだと、俺が100%悪者になって終わりそうだった。
それだけは避けたい。高校生活を穏便に過ごして卒業したいんだ…。まだ高2だけど。
土下座したら許してくれるかなとか考えていると、目黒は一つ俺に提案してきた。
「学校案内」
「…へ?」
「学校の中を案内して」
そうか…。目黒は転校生だからこの学校の建物の中をよく知らない。
俺がちゃんと説明すればいいのか!
「それで今日の朝の件については許してくれるんだよな!?」
「まだ許さない」
かなり根に持ってるみたいですね。
「言葉だけ聞くと怖いんだが…」
「お昼休みになったらよろしくね」
終始、目黒は無機質な表情だった。
少しは笑顔とかあってもいいのだが…表情がまったく変わらねぇよ。
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