1.プロローグ
「やべ…このままだと遅刻する」
下宿している寮から飛び出し、駆け足で学校まで向かう。
目覚まし時計の電池が切れていた…。こんな時に限って。てか、寮のおばちゃんも起こしてくれたら良かったのに。
現在の時刻は8時25分。朝のホームルームが始まるまであと10分だ。このまま何事もなければぎりぎりで間に合うはず…!
全速力で曲がり角を曲がろうとした時、胸の辺りに衝撃を受けた。
「うおっ!?」
「あっ…」
どうやら、前から来た通行人とぶつかってしまったらしい。
俺も相手もアスファルトの上に尻もちをついてしまった。
まずい。全力で走ってたから、けっこうな勢いでぶつかってしまったはず…。相手に怪我がなければいいのだが…。
俺は学校に遅刻するかどうかなんてことはすっかり忘れて、今の状況に頭がパニックになっていた。
「す、すいません!大丈夫ですか…?」
「…大丈夫です」
彼女はそう言って、ゆっくりと立ち上がった。
よかった…どこも怪我はしていないみたいだ。
よく見ると、俺がぶつかった女の子は制服を着ていた。見たことない制服だから、この辺の生徒ではないんだろうな。
「じゃあ、俺は急いでいるので…」
そういえば、俺は学校に向かっている最中だった。しかも、遅刻するまで残り5分。これはまずい。
再び駆け出そうとした時、左の袖に重みを感じた。
振り返ると、彼女が俺の袖を掴んでいた。
「あの」
そこで彼女と目が合う。
何だこの展開は。よく少女漫画で見る、曲がり角でぶつかって恋が始まる展開なのか!?
相手の女の子は、やや茶色がかった黒髪のロング。背丈は自分の顎の下辺り。きめ細やかな色白な肌。目はぱっちりと大きくて、小顔で可愛らしい顔をしている。
…普通に美少女だ。こんな女の子と青春が始まるなんて!
「ここに行きたいんですけど」
彼女は小さなメモ紙を俺に見せてきた。
字がぐちゃぐちゃで汚くて分かりづらい。武蔵…東?武蔵東高校なら、俺の通っている武蔵南高校の反対側の方にある。
「そ、そこなら、あっちの大通りを真っ直ぐ行って、3番目の交差点を右に曲がってしばらく歩くと着きますよ」
俺は早口で説明していただろう。それも仕方ないのである。すぐ横に可愛い女の子がいたらキョドってしまうのである。
「わかりました…。ありがとうございます」
彼女はそう言うと、スタスタと俺の説明した方向に歩いていった。
もう会うことはないんだろうな…。せめて、LINEでも交換しておけば…。
俺に甘い青春生活など訪れるわけはなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!