究極へと到達する者
――地上が突然の異変に慌ただしくなり始めた頃、天に浮かぶ文人はとうとう完全に『赤き魔導書』を己の内部に取り込むことに成功していた。
これで、劫慈達の奮闘は完全に徒労に終わってしまったのだろうか……。
魔導型究極生命体と化した文人が、眼下の地上の光景を睥睨しながら、何の抑揚もない声で誰にともなく呟く。
「それにしてもよくもまぁ、この程度の忌まわしい劣等種族と半端な文明社会風情が、この神にも等しき俺をこれまで散々にコケにしてくれたものよな……その罪、万死に値する」
冷徹に見えていても、その人物の本質はやはり簡単には変わらない、という事だろうか。
狂気に浮かされた熱を瞳に帯びながら、文人は自身の全身から極大の魔力を放出しようとしていた。
「よってこの俺、這瑠 文人が!……いや、究極魔導教神:“パイン☆十兵衛”様が!!貴様等地上のゴミ共全てに、“人間失格”の烙印のもと、神罰をくだしてくれるわぁッ!!!!」
這瑠 文人改め、究極魔導教神:パイン☆十兵衛。
圧倒的な権能と膨大な魔力を誇る彼による、文明社会への蹂躙劇が始まろうとしていた――まさに、その時であった。
「そこまでです、パイン☆十兵衛。――地上を破壊する前に、貴方には私との“約束”を先に果たしてもらいます……!!」
そのように、パイン☆十兵衛へと呼びかけたのは、彼によって捕えられていたはずのこよりだった。
パイン☆十兵衛は魔力の充填をいったん中止すると、怪訝な表情で声のした方へと視線を移す。
「“約束”だと……?俺がお前と一体なにを決めたというの、だ……!!」
何とか言葉を最後まで言い切ったのは、彼なりのプライドの高さゆえだろうか。
彼が見つめる先にいたのは、酷使した結果、両腕がズタボロになった状態のまま力なく俯いている劫慈と、彼によって解放されたにも関わらず、舌をチロリと舐めながら艶めかしい表情でこちらに媚びるように見上げるこよりの姿があった。
そして、こよりは信じられないことに、セクシーな雰囲気以外の何物も身に着けていない格好のままだったのである。
もともとが肉感的な身体つきのこよりだっただけに、これには普段から『少年のオ○ンチン以外には全く興味がない!』と豪語しているはずの十兵衛も、思わず見惚れてしまっていた。
それを好機と見做したのか、畳みかけるようにこよりが身体を艶めかしくくねらせながら十兵衛へと語り掛ける。
「貴方はここへ私を連れてきたときに、確かにこう仰りました。――『手慰み程度に俺みずからの手によって貴様の純潔を散らしてやっても良いんだぞ?』と。……ゆえに、私もこのまま貴方の圧倒的な力で焼き払われるくらいなら、いっそのことそれだけ強靭な生命体を相手に、記念に一戦交えてみたくなったんです……!!」
それを聞いて、十兵衛がキョトンとした表情を浮かべる。
だが、すぐにニンマリと下卑た笑みとともに、心底楽しそうに劫慈へと語り掛ける。
「オイ!今の聞いたか?ウスノロ!……こ、この女、ズタボロになってまで必死に自分の事を助けたお前じゃなくて、自分の事を連れ去って利用しただけのこの俺に!……初めてを捧げて、玩具同然に抱かれたいんだってよ!!ヒ~、ヒ~、腹痛ぇ!!……身体を鍛え上げた青春真っ盛りな若造のはずなのに!万年童貞の中年無職に“オス”として完全敗北を眼前で突きつけられる屈辱!――想像するだけで、たっのしそう~~~☆」
ゲヒヒヒヒ……!!と、直前にまでわずかながらあった荘厳さを全てドブの中に投げ捨てるような哄笑を上げながら、パイン☆十兵衛がゆっくりと二人のもとに降下してくる。
十兵衛は既に二人の手が届く場所にまで近づいているが、彼の究極生命体としての力は健在なままなので、当然迂闊な事をすれば瞬殺されるのみ。
二人の男女は全く成す術もないまま、ただパイン☆十兵衛の為すがままになっていた。
パイン☆十兵衛が、こよりの顎をクイッ!と持ち上げて告げる。
「――クククッ、所詮女などそれまでの関係性や献身などよりも、強いオスに惹かれるのが本能といったところよ!!……こより、とか言ったか?なぁに、俺を愉しませることが出来れば、地上を滅ぼした後でも暇つぶしの道具として生かしてやっても構わないぞ!!――俺に飽きられないように、常に精進、精進!」
そう告げながら、高笑いをしたかと思うと、劫慈の眼前でこよりとパイン☆十兵衛の顔がゆっくりと近づいていく……。
そこからはもはや、地獄であった。
劫慈が歯を食いしばり、血が滴り落ちるほど両手を握りしめながら見つめる先。
そこでは屋外であるにも関わらず、こよりとパイン☆十兵衛が、激しく交わり合う戦闘を繰り広げていた。
いや、それは“戦闘”などと呼べるものではなく、初々しいカップルによる“共同作業”と言った方が適切かもしれない。
……本当なら、あんな小汚い中年無職の変態親父などではなく、自分がこよりと共同作業をしていてもおかしくなかったはずなのに……。
どこで道を間違えた?
自分は連れ攫われたこよりを救うために、身体を鍛え上げ、世界中を探し回って、頼もしい仲間を集めて、両腕が血まみれになってまでも、彼女をようやく助け出したはずなのに――。
――それなのに、結局何も変えられなかった。
パイン☆十兵衛がこちらに告げた通り、結局自分は何も出来ぬまま、ただ黙って二人の行為を見続けるだけの役割になってしまった。
……いや、一つ違う点があるとするなら、眼前で繰り広げられている行為はパイン☆十兵衛が自分達に無理やり強要したものではなく、こよりが自らの意思で求めたものである、という事のみである。
そんなこの場では何の救いにもならない事を劫慈が思い浮かべている間にも、二人による淫靡な饗宴が続いていく……。




