試験開始――!!
「ウワァァァァァァァァ!!こ、こっちに来るんじゃねぇ!!」
試験会場内にいくつもの怒号や悲鳴が響き渡る。
受験生達は、試験問題衆の身体から吐き出された強制規約令呪という文章の羅列で出来た鎖によって、次々と雁字搦めにさせられていた。
「こ、今年の受験も、絶望的だぁ〜〜〜ッ!!」
眼鏡をかけた私服の浪人生らしき青年が、もはやこれまでと取り乱す。
そんな彼も、試験問題衆によって縛り付けられようとしていた――まさに、そのときである!!
「へっ、まだ諦めるのは早いぜ!お兄さん!」
迫りくる試験問題衆を横っ面から殴りつけたかと思うと、一人の青年が姿を現していた。
彼は『ダイナソー、ヤッター!ダイナソー!!』というダイナミックなロゴをプリントされたシャツの上に、大人気国民的アイドルアニメ作品:『侍武!曙光!!』のジャージを羽織り、下はタイトでキッチュな感じのジーンズという出で立ちをした歴戦の猛者を彷彿とさせる青年だった。
「き、君は一体……?」
外見からして間違いなく年下に違いないが、彼の内側から出る“凄み”のようなモノに圧倒されて、眼鏡の浪人生は思わず敬語で話しかけていた。
そんな彼に対して、青年は二カッ、と笑みを浮かべながら、快活な口調で答える――!!
「俺の名前は、賦勇乃 劫慈!……大事な存在を取り戻すために、勉強もロクにせずに、ガムシャラに鍛えてきただけの馬鹿な男さ……!!」
そんな劫慈の自己紹介を聞いて、浪人生がゴクリ……と息をのむ。
「え、えぇ……嘘だろ?君は、何の勉強もせずに、この“受験戦争”に満ちた戦場に乗り込んだっていうのかい!?」
案の定、劫慈によって吹き飛ばされた試験問題衆がすぐに起き上がり、こちらに再び接近しようとしていた。
どうやら、人の理法から外れた力で生み出された存在である試験問題衆には、通常の物理攻撃で倒すことは不可能であるらしい。
だが、そんな絶望的な状況を前にしても、劫慈は諦めるどころか不敵な笑みを顔に浮かべていた。
「心配するな。例え俺が勉強出来なかったとしても、俺には世界中を旅して回って出来た頼れる仲間達がいる!!……なぁ、そうだろ?」
劫慈の呼びかけに応えるかのように、試験会場の入り口からいくつかの人影が颯爽と現れた。
「ふふっ、恋の駆け引きならこの私:羅武妹 恋歌に任せてちょうだい……♡」
高校生とは思えないほど妖艶な雰囲気をまとった少女が、国語の形をした試験問題衆が放つ強制規約令呪に書かれていた人物の心理描写を瞬時に読み解き、無効化する。
自身を構成していた強制規約令呪に記された問題が解かれたことにより、試験問題衆はその姿を維持する事が出来ずに、バシュウ……!!と音を立てながら消失していく。
「も、問題を解けば、あの化物共を倒せるのか……!!」
浪人生の呟きをきっかけに、会場内には先程までの阿鼻叫喚とは違う希望に満ちた響きのざわめきが大きくなり始めていた。
その声をかき消そうと、招かれざる侵入者を排除するために日本史型の試験問題衆達が恋歌に襲い掛かろうとする――!!
だが、その凶手が彼女に届くことはない。
何故なら、その試験問題衆は恋歌と共に現れたメンバーの一人である派手にチャラついた青年の手によって瞬殺されていたからである――!!
「野望の人!松永 久弥ってのは、まさに俺のこと☆……そんな俺を差し置いて、口説き文句どころか愛想笑い一つすら浮かべられないようなイケてないヤツが、レンちゃんみたいな美人さんを無理矢理手籠めデイズにしようとか、受験戦争の前に文明社会ならびに人間関係舐めすぎっしょ?」
「……気軽に下の名前呼ばないでくれる?他の人ならともかく、貴方にだけはそんな距離感を許した覚えはないのだけれど?」
「メンゴ、メ~ンゴ♡……か・ら・の~!松永 久也デイズ♡」
「……何それ、イミワカンナイ」
そんな2人のやり取りを見ながら、受験生が盛大にたじろぐ。
「……ま、松永 久弥って、高校生でありながらグローバル企業:《ファントム・ヒサヤ》を率いる敏腕社長と名高いあのヒサヤかよ!?……無類の女好きとして有名な戦国武将:松永 久秀の生まれ変わりと呼ばれているヒサヤなら、確かに日本史くらい容易く解いたとしてもおかしくないぜ!」
「しかも、あの恋歌って呼ばれていたのって……間違いなく、あのレンカだよね!?あの女子高生カリスマセレブモデルのレンカを間近で見れるなんて、本当に夢じゃないよね!?」
松永 久弥と羅武妹 恋歌。
一般人の前に姿を現すとは思えない、破格の存在である超人高校生達を前に、先程まで恐怖に呑まれていた受験生達の士気が否応なしに高まっていく。
彼らに限らず、立場や業界関係なしに劫慈がこの場に連れてきた者達が驚異的な人材であることは、最早疑う余地のないことだった。
「イ、イ~ングリッシュッシュ!!」
痺れを切らした浪人生に襲い掛かろうとしていた英語型の試験問題衆が、受験生達の機運を挫くために、この事態の中心人物と思わしき劫慈へと攻撃を仕掛ける――!!
「ッ!?こ、劫慈君!!」
勉強を全くしていない劫慈では、抵抗する間もなくやられるほかない。
――はずであった。
「a piece of cake!(こんなの楽勝さ!)」
何と!驚くべきことに、劫慈は流暢な英語を話すことによって、この敵を撃退する事に成功していたのだ!!
信じられないモノを見た、と言わんばかりに、浪人生が眼鏡をずり降ろしながら劫慈を見つめる。
「へっ、世界中を旅して回るにはボディランゲージだけでは無理があるからな。英語だけは勉強しなくても自然に身に着けることが出来たぜ!」
気づけば、劫慈や彼が連れてきた仲間達に限らず、会場内では試験問題衆に立ち向かう受験生達の姿がまばらに見え始めていた。
――そんな中で、悠然とした足取りでこちらに近づいてくる一つの人影があった。




