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009. 告白

 アルフェリスが目を覚ましたことに喜んでいたディーデリヒやレオンハルトは何もできず会えない日が数日続き悩んでいた。この日リアムがディーデリヒのところに顔を出した。ぼんやりとしていて、執務が捗っていないのを窘めようと考えていたからだ。

「ディーン…全然仕事が終わらない。いつもの君らしくない…どうしたんだ?」

「んー?あー、リアムか…んー、やる気が起きない…」

「いやいやいや、それダメじゃん。もうすぐ学園が始まる」

「もう何日もアルフェリスが会ってくれない…。どうしたらいいんだ?」

 泣きそうな顔でリアムに問いかけた。


「そんなことで…アルフェリス王子だって何もできない小さな子どもじゃないんだ。ディーン、君が傍にいる必要はないんじゃないか?」

「それはそうなんだが…目を覚ました時の様子と部屋の前に立つ護衛騎士と部屋に入る侍女の話だと少し違うんだ…」

「ふーん」

「護衛騎士の話だと、部屋の中で時々大きな音がするらしいんだが扉を開けて部屋を見るとアルフェリスはベッドにいるらしいんだ。侍女の話だと食事も殆ど食べずに眠っていることが多いそうだが、よく見ると身体のあちこちに傷やら青アザがあるらしい。一度侍女が『どうなさったのですか、その怪我は?』って聞いたら『うるさいっ!お前には関係ないことだ!』って言ったそうだ」

「なるほどね。食事をあまり摂ってないことも問題だけど青アザとか傷とか…。ディーンは何か見たのか?」

 リアムの言葉にディーデリヒは先日のことを少し思い出してみた。

「私が見たのは目を覚ましてすぐだったけど…そういえば…音や声にものすごく反応していたな…怯えているような、話をしていても全く目を合わせてくれなかった」

「それはもしかすると…ディーン、とても酷なことを言うけれどいいかい?」

「リアム、何かわかったのか?」

 ディーデリヒは少し顔が(ほころ)んだ。

「アルフェリス王子は目が見えていないのではないのか?あの〈事故〉で被害に遭ったのは彼だけだ。今まで目を覚まさなかったからどこにどれだけ傷を受けたのかもわからなかった。ただ目に見える傷はすぐにわかるから回復魔法を使って癒すことはできる…だからアルフェリス王子も一生懸命そのことを隠そうとしているのかもしれない」

「確かに…リアムの言うとおりだ。それにたぶんアルフェリス本人にも受け止めきれないことだ。それで苛立ったり、一人部屋で動き回ったりすると傷や青アザができるのか…」

「そんな状態じゃぁ、あの日の〈事故〉の話、アルフェリス王子からは聞けないな…」

 リアムは小さな声で溜息を()いた。




 暫くの間、アルフェリスと侍女や護衛騎士の攻防戦が続いた。


 ディーデリヒからの話で侍女と護衛騎士は何度かアルフェリスの部屋に入るとき音を立てずに入ってみた。侍女が部屋に入ると目が見えていないアルフェリスは何もわからずにいた。しかし段々と気配がわかるようになってきた。そのおかげでアルフェリスは音を立てずに部屋に入ってくる侍女の方向に目を向けるようになった。

「何をしに来た?部屋に入って来るな!」

 アルフェリスが何度かに一度部屋に入る《気配》に怒鳴るようになると今度は人を替え、また違う人で同じことを繰り返した。それを何度も繰り返した結果《気配探知》が使用できるようになっていた。

 少し経つと今度はディーデリヒが部屋に入っていくようになった。

 同じことをしていたがやはり最初は気づかずにいた。それを見てディーデリヒは残酷なリアムの答えが正解だったと思い知らされた。ディーデリヒもまた暫くの間落ち込んでいた。

 ―けれど学園ももう始まる…先に延ばして逃げていた現実を受け止めなければ―

 そう考えたディーデリヒはアルフェリスの部屋の扉を叩いた。

「アルフェリス、私だ。ディーンだ。少し話がしたい…」

「……」

「部屋にはいってもいいかい?」

「……」

「アルフェリス…入るぞ?」

「……」

 部屋の中にいるアルフェリスからは何も反応がなかった。ディーデリヒは扉を開けて部屋に入った。アルフェリスの側に近づきディーデリヒはアルフェリスの顔をしっかりと見た。〈事故〉に遭ったあの日からずっと意識がなく眠ったままだったアルフェリスは白かった。食事もあまり食べずにいる所為(せい)か少し()せ細っていた。

「……どうでもいい……」

「…それはどういう意味だ?」

「…俺なんか…俺なんか生きていても意味がないってことです…」

 アルフェリスは無気力な感じで呟いた。

「『俺なんか』って…目を覚ましてからのアルフェリスは変だぞ?何故だ…何故そんなことを言う?」

 ディーデリヒは残酷なことだと思いながらもアルフェリス自身の言葉で言わせようと目を閉じ冷静になり優しく言った。

「そんなことって…俺はもう全てがどうでもいいことなんです…ディーン兄様には俺のことは何も分かりはしないんだ!だから適当なこと言えるんだ」

 アルフェリスの言葉にディーデリヒは小さく溜息を()いた。

「確かに私は私だ、お前ではない。アルフェリスの気持ちまで私にはわからない。だからこそ話してくれなければ理解できない」

「話したからってどうにかなる問題でもないですけど…」

 冷めた口調でアルフェリスはディーデリヒに話した。

「俺にもよくわからない…ただどうにもならない…見えないんだ…ディーン兄様の顔も今どんな表情をしているのかもわからない。目を覚ましているのに、真っ暗な闇の中にいるみたいなんだ!」

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