005. さて、どうしましょうか…?
「申し訳ありません、僕にもあの日何が起きたのかわからないのです」
レオンハルトが少し戸惑いながら答えた。
リアムとディーデリヒも黙ってしまった。生徒会執務室の中だけが鎮まり返っていた。
午後の授業が終了しクラブ活動も終わりそれぞれが寮の部屋へと戻っていく騒めきが聴こえていた。楽しそうないつもと変わらない一日の生徒たちの声だった。
「それじゃ、質問を変えよう…」
ディーデリヒは机の上で両手の指を組んで顎を乗せた。
「先日レオンハルト・バートシェンナ君とセレスト・フランゼン嬢はどの場所にいたんだ?」
騎士科の実習で鍛えた尋問テクニックだったが優しい瞳をレオンハルトに向けた。
声の主がリアムからディーデリヒに変わり、レオンハルトはディーデリヒの顔を見た。
「あの日はアルフェリス様が用事があるからと言って席を外したのでセレストと二人で中庭に行きました。カフェテラスから離れた木陰にあるベンチです」
何を話せばいいのかわからない状態だったのを質問されることによってレオンハルトは緊張感が解けていった。
「ベンチでは何をしていたんだ?」
「セレスと二人で話をしていました。二人だけでベンチに座っていました」
「周りには誰かいたかい?」
「いいえ、誰もいませんでした。一応【感知】を使っていたのですがそれにも引っかからなかったので…」
「そうか…、その後は何を見たんだ?」
「見たというか…ただ光ったものが眩しかったのでセレスを抱いて守ろうとしただけで…」
レオンハルトはあの日の風景を思い出して少し顔が青くなっていた。
「そういえば…あれはもしかすると…」
「何か思い出したのか?なんでもいいから教えてくれ」
レオンハルトは頷いた。
「後ろからだったのでよくわからないのですが押された気がします。押されたのでたぶんセレスと二人倒れたのかも…。気がついて周りを見れば自分たちがいた場所が少し違っていて…すぐ近くにアルフェリス様が…」
段々と弱々しくなるレオンハルトの声。
いつの間にか静かになっていた。建物の窓には西日が射し、緩やかな太陽が部屋を紅く染めていた。
「ありがとう…レオンハルト君。辛いことを思い出させてしまってすまない。もうしばらく寮でゆっくり休養してくれ」
リアムは顔色を見て休んだ方がいいと判断した。
「ディーデリヒ様…僕はアルフェリス様の傍にいたいです…お願いします…」
レオンハルトが必至な顔でディーデリヒにお願いしてきた。
「レオンハルト、まだアルフェリスは意識が戻らない…眠り続けている。だけど目を覚ましたら必ず君にも知らせる…」
ディーデリヒは少し困った顔で答えた。
「他にもまた思い出したらすぐ知らせてくれ」
リアムがそう伝えるとレオンハルトは頷き、軽く一礼をするとセレストとともに生徒会執務室から出た。
扉が閉まり二人の足音が遠のいていくのを確認するとリアムが一言、口にした。
「どう思う?」
「…どうって…何が?」
「レオンハルト君の話だよ」
「…たぶん…アルフェリスはレオンハルトに何かが起きるのを見たんだと思う。そして咄嗟に押し飛ばして身代わりになったんだ」
「そんな話…レオンハルト君には伝えられないなぁ…あとは彼が目覚めなければ何もわからない…。どうするか…卒業パーティー…」
「あの日からだいぶ経過して何もない…警備の強化と報告でパーティーは大丈夫だろう。準備をしてくれた皆の気持ちも無駄にしたくない」
「わかった…ディーンの方も連絡よろしくね」
リアムの軽い受け答えにディーデリヒも微笑んだ。