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003. 意識不明です…

 レオンハルトは倒れた生徒を見つけると驚きで固まってしまった。

 亜麻色のサラッとした髪の毛が後ろできっちりと束ねられ、額にはうっすらと血が滲んでいた。


「なぜ?!」


 レオンハルトは顔面蒼白になり、動揺を隠しきれず叫んでしまった。それもそのはず、さっきまでレオンハルトのそばで笑い話をしていたのはセレスト・フランゼン、彼女一人だけだったはずだからだ。

 いくら《油断》していたとはいえレオンハルトは“初等教育課程”の中では優秀な魔法使いだったからだ。誰かが近づけば、気配でわかった。

 それに亜麻色の髪の毛なのはレオンハルトが知る中ではただ一人だったからだ。しかも、彼はそこにいるはずもなかったからだ。倒れた彼の顔を見つめ近づこうとした。

 ちょうどダンスホールの方から中庭に数人のグループが(あわただ)しげに小走りで近づいてきた。中庭の騒がしさに気付き状況を把握しようとした生徒会長の指示だった。

「サーシアム、この場にいる者で中庭にいる生徒たちを遠ざけるんだ。状況を知っている生徒には話を聞くように…頼んだぞ」

 サーシアム・ベルンハルトは生徒会長に頷くとリュシオンと静かにお互いの目を合わせ、騒いでいる集団へと駆け寄った。

「ここにいては騒ぎも収まらないだろう。倒れている彼を救護室に連れて行こう」

 そのとき中庭にいた生徒たちは閃光と爆音の所為(せい)でパニックに陥っていた。

自分以外の誰かを気にかけることは全くなかった。今までカフェテラスと中庭にいなかった野次馬の生徒まで段々と増え出してきた。

 生徒会長のリアム・エアハルトと副会長でエバーグリーン王国の第一王子であるディーデリヒ・ローゼン・エバーグリーンはレオンハルト・バートシェンナと婚約者のセレスト・フランゼンを立ち上がらせ、人目を避けるように中庭を後にした。


 中庭の喧騒から離れた救護室で。


 中庭で意識を失っていた少年は救護室のベッドへと寝かされた。彼は眠ったままだ。

 レオンハルトは未だに放心状態で中庭で倒れていた少年を見つめていた。

 何度見ても彼は彼だ。

「何故?アルフェリス様はランチタイムにカフェテラスにはいなかったはずなのに…」

 レオンハルトは掠れた声で呟いた。

 すぐそばで下級の回復魔法を使って簡単な止血をしていたディーデリヒ・ローゼン・エバーグリーンはレオンハルトの呟きに気がついた。

「それじゃ何故アルフェリスはあそこに?何が起きたんだ?!」

 突然ディーデリヒはレオンハルトの肩を掴んで揺すりながら声を荒らげた。その部屋にいた他の人たちにはレオンハルトの声は届いていなかったため、ディーデリヒの突然の行為に皆驚いたがレオンハルトはその声に応えることはなかった。

「アルフェリス様は何故?セレスと話していたとき誰も近くにいなかった。僕はどうしてアルフェリス様に気がつかなかったんだ…」

 罪に苛まれるように告白するかのように独り言のようにレオンハルトは呟いていた。


「レオンハルト!休憩時間に一体何があったんだ?!」

 同じようにディーデリヒはレオンハルトの肩を揺すりながら、レオンハルトを問いただした。レオンハルトにはやはり全くディーデリヒの声は届いていなかった。


「ディーン!これ以上は無理だ。今日のところは休ませるんだ。アルフェリス君の意識が戻らないから君も動揺しているんだ。落ち着いて話がきけないだろう?生徒会にはやらなければならない仕事もある。もし無理だったらディーン、君もここに残れ」

 生徒会長のリアムの言葉に冷静さを欠いていたと気がついたディーデリヒは黙ったまま頭を振った。

「レオンハルト・バートシェンナ君とセレスト・フランゼン嬢はこのまま午後の授業に出席するには無理があると思う。二人はそれぞれ寮に戻って部屋で休むように。それからアルフェリス・ローゼン・エバーグリーン君は意識が回復しない。学園の設備ではダメだ。王宮に連絡して療養してもらう」

 リアムの言葉に納得したのか誰も声をあげず頷いた。

 俯いていたレオンハルトが(ようや)く顔を上げた。その顔は泣き出しそうな琥珀色の瞳が潤んでいた。

「…すまん、レオンハルト。君も身体を休めてくれ…」

 ディーデリヒはレオンハルトの肩を優しく叩いた。

 レオンハルトは黙ったままお辞儀をしてセレストの腰を抱き、救護室を後にした。

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