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遅れた救世主【勇者版】  作者: ヘロー天気
かいほうの章

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第六十九話:懸念事項




 キャンプの中に保護されていた、難民達の恩人でもあるらしいラダナサという魔族の男。彼には複数の呪いが刻まれており、自力で動く事も喋る事も出来ないような状態であった。

 視線や僅かに動く指先で辛うじて意思疎通が可能。そんな彼から『勇者様にどうしても伝えたい事がある』という訴えを受けて会いに来た慈達。


 ラダナサを診た護国の六神官の中でも呪術の類を看破する能力を持つレゾルテが、複数の呪いの中に危険な魔法を発動させる為の生け贄の印――『贄』の呪印がある事を見抜いた。

 それは、国家間で禁呪に指定されている『広域殲滅魔法』という強力無比な攻撃魔法を構築する一部なのだという。


「とりあえず、掛かってる呪い全部祓えるか?」

「難しい。一つずつなら解呪も可能。しかし、他の呪印が解呪に連動する罠仕掛けになっている」


 レゾルテ曰く、重ね掛けされた呪いは、『贄』の呪印を刻まれた者の位置や状態を把握する為のモノがあり、解呪しようとすると周囲を無差別に攻撃する罠型攻撃魔法も仕込まれているらしい。

 同時に術者にも情報が伝わるので、『贄』の呪印を解呪できる段階に届くまでに、広域殲滅魔法を発動される恐れもあるとの事だった。


「じゃあ斬るか」

「それが確実」


 慈が宝剣フェルティリティを抜くと、難民の長達が慌てたようにざわめく。


「ゆ、勇者様、なにを……」


 彼等に一から説明するよりも、やって見せた方が手っ取り早い。そう判断した慈は、どうせなら難民キャンプ全体を範囲に入れようと宝剣を掲げて光を纏わせる。


「全ての害意、敵意、悪意ある攻撃性の呪いと術式を――」


 消し飛ばす対象を明確に絞って放たれる勇者の刃。

 難民キャンプはあまり高低差の無い平原にあるので、地面スレスレから数十センチ分ずつほど高さをずらしながら波紋のように放つ事で、キャンプ一帯に満遍なく光の刃を通した。


「い、今のは……」

「呪いとか害意のある魔術の仕掛けとかを斬り飛ばした」


 困惑している長達。宝剣を鞘に納めながら答えた慈は、ラダナサに視線を向けた。彼の状態を見ていたレゾルテが頷いて報告する。


「呪いは去った」

「そっか」


 そこへ、大テントの外で炊き出しをやっていたアンリウネとセネファスが、先程の勇者の刃は何事かと駆け込んで来た。


「シゲル様っ」

「なんかあったのかい?」

「ああ、ちょっとね。リーノちゃんとフレイアさんも呼んでくれる? 全員で聞いた方が良さそうだ」


 慈はアンリウネ達にそう指示すると、ベッドから身体を起こせるようになったラダナサと、彼の回復を喜ぶ長達を見渡した。



 護衛の傭兵部隊をパークスを残してヴァラヌスの警備に向かわせると、兵士隊からシスティーナを呼んで勇者部隊の主要なメンバーが全員揃ったところで、ラダナサの話に耳を傾ける。


「まずは感謝を。まさか伝説の存在に救われる日が来ようとは……」


 『贄』の呪印も隷属の呪印も消えた事で、封じられていた声を取り戻したラダナサはそう言って謝意を示すと、自身の活動とこれまでの経緯を語り始める。


 彼は普段から人間領の街で暮らしていた穏健派魔族組織のメンバーで、現魔王ヴァイルガリンが魔族国ヒルキエラで簒奪に動く以前から、彼の者の活動に懸念を抱いていたという。

 魔族の中でも、ヴァイルガリンの魔族至上主義と闘争志向は、ようやく安定と発展の兆しが見え始めたヒルキエラ国を、以前のような混沌とした魔境に戻し兼ねないと警戒する声はあった。


「たまたま時期が悪かったのか、或いはそれも計算ずくの事なのか、ヴァイルガリンが決起した時、奴とその思想に賛同する有力者に対抗出来る力を持つ者が、悉く睡魔の刻に入っていたのだ」


 もしかしたらヴァイルガリン達は、何年も前から障害になる者達の睡魔の刻の周期を計算して、簒奪に動くタイミングを計っていたのかもしれないと、ラダナサは推察しているそうだ。


 ヒルキエラ国からルーシェント国へ侵攻があった日、ラダナサはルナタスの街に住んでいた妻と娘を逃がした後、王都シェルニアに同胞や逃げ遅れた人間の脱出を手伝いに行った。

 だがそこで、組織の幹部だった人物の裏切りに合い、他のメンバーは軒並み殺されたか、何とか逃げおおせた者もいるようだが、ラダナサ達の組織は壊滅した。


 ラダナサは『贄』の呪印を含む複数の呪術で身動きできない状態にされ、裏切り者の手引きによって脱出組の難民に預けられた。

 混濁する意識の中で、辛うじてその裏切り者と取り引きをしていたヴァイルガリン派との会話内容を聞き取り、相手の目論見を把握したらしい。


 考え得る計画としては、ラダナサに恩のある難民が彼を見捨てず連れていれば、いずれ人間の街に入るので、そこで広域殲滅魔法を発動させる『仕込み贄』作戦。

 魔族軍の斥候が難民達を見逃していたのは、『贄』を抱えた集団だと知っていたから。第四師団の上層部辺りから「手を出すな」と指示されていた可能性が高い。


「第四師団?」

「そうだ。魔族軍の中でも戦略儀式魔法を扱えるのは、全体の半数以上を魔術士で構成している第四師団になる」


 現在、こちらに向かって来ているであろう魔族軍第四師団の名が出た事で、慈達は思わず顔を見合わせた。


 ラダナサは、自分と同じような状態の『贄』が、他のルートから人の街に収容されている恐れがあると危惧する。


「……もしかして、パルマムにも入り込んでる?」

「確かに、その可能性はありますね」


 慈の呟きに、アンリウネ達も深刻な表情で頷く。難民の先導や物資の補給目的で一度パルマムに帰る予定は立てていたが、街に『贄』が入り込んでいないか、早急に調べる必要が出て来た。


「偵察部隊が戻り次第、パルマムに向けて出発しよう」

「分かりました。準備を急がせます」


 速やかに一時帰還する方針で定めた慈達は、手分けして撤収の準備に取り掛かるのだった。




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