第十話：アガーシャ騎士団
勇者シゲルの『アガーシャ騎士団による先行突入参加』が決まり、お供の神官二人も退出した中央大テント内にて。カーグマン将軍に参謀が小声で訊ねる。
「よろしいのですか？」
「まあ、後々面倒も減っていいだろう」
カーグマン将軍は肩を竦めると、鼻を鳴らしてそう答えた。
流石に『救世主』という触れ込みの『勇者』を死なせたとなると、神殿からの抗議や民衆からの批難は免れまいが、その大事な勇者様を最前線に寄越したのは神殿の判断。
先行突入に参加したのは勇者本人の判断だと訴えれば鎮静化は図れる。証人に神官や護衛の騎士もいるので、たいした問題ではない。カーグマン将軍はそう切り捨てる。
「本当に異世界から召喚されて来たのかは知らないが、勇者の代役なぞ他にいくらでも立てられるだろう」
「なるほど、流石は将軍。深慮と慧眼には敬服致します」
将軍が参謀の賛美に気分を直している頃。クレアデスの騎士達が居るアガーシャ騎士団の野営陣を訪れた慈は、騎士団長に先行突入への参加を告げて挨拶していた。
「こんにちは。明日の作戦について打ち合わせしたいのですが」
どことなく悲壮感を漂わせていた騎士達は、慈の言葉にポカンとした表情を浮かべていたが、やがて団長らしき若い女性騎士が立ち上がって応えた。
「私はアガーシャ騎士団長を任されているシスティーナです。貴方は……勇者様という事ですが？」
「勇者の慈です。明日の突入では皆さんを援護するので、頑張って街を奪還しましょう」
よろしくと自己紹介した慈に、騎士達はざわめく。魔族軍を相手に共闘の姿勢を取り、援軍も送り込んでくれたオーヴィスだが、ここまでしてくれるとは思っていなかった。
彼等は、自分達が捨て石にされる事も覚悟していた。それが、救世主と謳われる勇者を突入に参加させるというのだ。
「あ、参加するのは俺が言い出した事だから。あまりオーヴィスを信用し過ぎないようにね」
感激に打ち震えそうになっているクレアデスの騎士達に、一言、忠告して冷静にさせる。援軍兵団のカーグマン将軍は、システィーナ達が覚悟していた通り、彼等を使い捨てにするつもりでいたのだから。
その後、慈の先行突入部隊への編入手続きを終えて報告に来たアンリウネとシャロル、護衛の聖都騎士を交え、システィーナ達と明日の突入と奪還作戦の打ち合わせを行った。
ちなみに、慈は援軍兵団を戦力の勘定に入れていない。自身の力と、アガーシャ騎士団のみでパルマムの街を奪還するつもりであった。
「多分、途中で参戦して来ると思うけど、俺達でやれるだけの事をしましょう」
「わ、分かりました。勇者様のお心遣いには、我がアガーシャ騎士団一同、全身全霊をもって応えましょう」
システィーナ団長の言葉に、騎士達も力強く頷く。
慈が訪ねて来た時は悲壮感さえ漂っていたアガーシャ騎士団は今、大いに士気を高めており、明日の突入に向けて闘志を燃やしていた。
アンリウネとシャロルは、これも勇者の力なのだろうかと、傍らでどこかとぼけた表情を浮かべている少年を見やるのだった。
