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遅れた救世主【勇者版】  作者: ヘロー天気
しょうかんの章
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第百話:『複合障壁』





 勇者の刃をも防ぐ強力な障壁の向こうから、魔法戦に特化した異形化兵が固定砲台のように攻撃魔法を放って来る。


 凄まじい破壊力を秘めた範囲殲滅魔法(過縮爆裂魔弾)は、何重にも圧縮した魔力の塊を複数束ねて目標に投げ込み、炸裂させるという多重爆発系の特殊な攻撃魔法である。


 本来であれば、この魔法の魔力塊は相殺はおろか中和も解呪も効かない、炸裂すれば玉座の間のみならず城そのものを倒壊させてしまい兼ねない危険物なのだが――


「どっせい!」


 農作業のような慈の掛け声と共に出現した光の立方体が、玉座の方から飛んで来た無数の禍々しい魔力の塊を悉く蒸発させていく。


「間合い取ると面倒そうだから、近接戦で対処しよう」


 超鈍足でジリジリ進む光壁型勇者の刃を、障壁の如く攻防一体の護りにした慈は、このまま距離を詰めての直接攻撃をカラセオス達に促した。


「まさに変幻自在であるな、貴殿の攻撃は」


 投射系の技にこのような使い方を編み出すとはと、呆れるやら感心するやらなカラセオス達族長組と魔族の精鋭戦士達は、立方体な光壁型勇者の刃に護られながら玉座への接近を試みる


 ヴァイルガリンの周囲を固める異形化兵から放たれる無数の範囲殲滅魔法は、遅延光壁型勇者の刃に触れた端から消滅していく。


 やがて、遅延光壁型勇者の刃とヴァイルガリンの張っている障壁が衝突。

 勇者の刃は障壁との接触部分から消えていくが、慈が追加の光壁型を重ねて出し続けていると、障壁側も中和されたかのように消え始めた。


「ヌ……、いかン、魔法隊は退がレ! 戦士隊前へ!」


 先程まで余裕の笑みを浮かべていたヴァイルガリンが顔色を変える。自慢の障壁に穴が開いた事で流石に慌てたらしく、攻撃魔法を控えて近接戦闘型の異形化兵を押し出して来た。


「よもヤ『複合障壁』と相殺するとハ」


 ヴァイルガリンが張っていた勇者の刃をも防ぐ魔法障壁は『複合障壁』というものらしい。

 例え玉座の間ごと城が吹っ飛んでも、自分達だけは護られる。そんな強力な障壁に護られていたからこそ、範囲殲滅魔法を屋内で乱発する等という無茶が出来ていたようだ。



「何か吸われてる感があったのはこれか」


 遠距離から撃ち放った勇者の刃は中和されてしまったが、複合障壁と同じように展開させたまま維持し続ければ、密着した部分から互いに打ち消し合う。


 勇者の刃はヴァイルガリンに届かなかった。しかし、ヴァイルガリンの複合障壁による完全防御を前提にした、魔法戦特化型異形化兵の固定砲台作戦も機能しなくなった。


「ククク……流石ハ伝説の存在カ。一筋縄でハゆかぬようダ」


 双方の切り札が相殺して拮抗した状況。

 慈は、放ったその場から殆ど動かない遅延光壁型勇者の刃の重ね撃ちを続ける。背後にはアンリウネ達六神官が控えており、パークスとシスティーナがその護りについている。

 宝珠の大剣と盾を与えられている二人だが、ヴァイルガリン討伐の直接戦闘に参戦するには(いささ)か力不足は否めない。


 勇者の刃が決め手にならない以上、魔族組の奮闘に期待したいところであったが、異形化兵の戦闘力は見た目通りの化け物ぶりで、カラセオス達も攻めあぐねていた。


「どうしタ、叛徒共。ウぬラの力はそんなものカ」


 更には、固定砲台役から退いた魔法戦特化型の異形化兵が堅実に小規模な攻撃魔法で援護に回り始めた為、若干劣勢になりつつある。


「魔族の矜持を忘レ、人間ノ走狗に成り下がった愚カ者共め」


 慈の遅延光壁型勇者の刃は、ヴァイルガリンの複合障壁と触れている部分こそ削れるように消えているものの、少し下がれば味方以外を消し飛ばす光壁に満たされた空間を維持している。

 本当に危ない時は全力で後方に回避する事で確実に護られる。カラセオス達はその恩恵でどうにか致命的な負傷者を出さず凌いでいた。


「これでは埒があかぬな」

「一度退くかい?」


 ヴァイルガリンの挑発を聞き流し、近接型異形化兵の強打に合わせて光壁の中に退避して来たカラセオスが零すと、後衛を担当している妙齢の女族長が撤退の判断を仰ぐ。


「あの力で護りを固められると厄介だ。今夜中に決着をつけなければ」

「しかし、異形化兵が手強過ぎる。我々でも押し切れないとなると……」


 カラセオスと肩を並べて前衛を担当している族長達は、ここで無理に粘っても被害が嵩むばかりで突破口が見出せないと、作戦の続行に消極的だ。


「勇者殿もお手上げのようであるしな?」

「いや、そうでもないぞ」


 年嵩な見た目の族長も、仕切り直しに一時撤退は止むを得まいと判断しており、慈の様子を窺いながら意見を求めた。

 それに対して慈は、打つ手はあると返す。正確には、たった今思い付いた打開策。


 何十度目かの遅延光壁型勇者の刃を放って、複合障壁の一部と中和した拮抗状態を維持するうちにコツを掴んだ慈は、遅延光壁を放つ合間に通常の勇者の刃を挟んで飛ばした。


 中和状態で穴の開いた部分から複合障壁の()に飛び込んだ勇者の刃は、カラセオス達があれほど手古摺っていた異形化兵をあっさりと両断した。


「!……ッ」


 隊列を組んでいた近接型とその後方に陣取る魔法戦特化型の異形化兵を切り裂いた勇者の刃は、そのまま玉座のヴァイルガリンにまで向かう。


 勢いを落とさず飛んでいく光の刃が玉座ごと両断するかと思われた瞬間、バリンッという何かが破砕するような音がしてヴァイルガリンが複合障壁に包まれた。

 玉座の周辺をドーム状に覆っていた障壁を緊急解除して自身の周りに張り直したようだ。かなり高密度の障壁なのか、内側がくすんで見えない。

 勇者の刃はその障壁に掻き消された。



 今が攻めるチャンスかと思いきや、再びドーム状の複合障壁が展開される。それも一枚や二枚ではなく複数枚。

 ヴァイルガリンの複合障壁は、慈の遅延光壁型のようにその空間一帯を同性質の力場で満たすような使い方は出来ないようだ。

 超極厚の障壁を置けない代わりに、大量の障壁を重ねる事で対処しようと考えたらしい。


 何十層もの複合障壁が次々に展開されていく。


「対応が速い。流石に魔王を自称してるだけの事はあるなぁ」


 等と慈は感心してみせるが、ヴァイルガリンは先程の反撃に相当焦ったらしく、挑発の軽口も吐かずしばらく無言で多重複合障壁の構築に集中していた。


 その間にも、玉座の後方に見える幾つかの部屋の出入り口から、新たな異形化兵が追加される。慈は、ソーマ城のエントランスで生き残りの魔族兵士から聞いたくだりを思い出す。


『あれは、理性ある者が踏み越えてはいけない一線を越えている』

『寧ろ被害者と言っても良い。貴殿のその力で解放してやってくれ……』


 宝剣フェルティリティを構え直し、前に出る慈。


「シゲル殿?」

「ちょっとごり押しするから、俺の近くから離れないでくれ」


 族長組やアンリウネ達にそう宣言した慈は、遅延光壁型勇者の刃を複数発現させながら玉座に向かって歩き出した。






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