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遅れた救世主【勇者版】  作者: ヘロー天気
しょうかんの章
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第九十九話:魔王ヴァイルガリン





 派手な急襲があったにも関わらず、戦いの喧噪も無く静まり返っているソーマ城。

 生き残り兵達から、ヴァイルガリンが作り出した禁忌『異形化兵』の秘密を聞いた慈達は、問題の玉座の間に向かっていた。


 事前に勇者の刃を城内全域に向けてばら撒いておいたので、害意や敵対意思を持つ存在は危険な罠も含めてほぼ殲滅されている。


 流石に奥へと続く廊下はヴァラヌスの巨体では進めなかった為、御者とマーロフに兵士隊と傭兵隊の護衛を付けてエントランスに待機させて来た。

 族長組からも手練れを数人付けてもらっている。


 勇者部隊で慈に同行しているのは、六神官とパークスにシスティーナ。それに隠密中のレミ。先導するのはカラセオス達族長組とその配下の精鋭達だ。

 全員を纏めて『ヴァイルガリン討伐隊』とする事で、勇者の刃で味方を護る際、咄嗟に殲滅対象から外し易くした。



「あれが玉座の間だ」

「扉は……閉じてるけどちょっと開いてるな」


 カラセオス達を先頭に廊下をぞろぞろと進んで来た一行は現在、玉座の間を正面に睨みつつ、その手前にある控えの間に陣取って突入後の動きを軽く打ち合わせをしている。


 玉座の間には大量の異形化兵が詰めていると聞いていたが、恐らくそれらも勇者の刃で殲滅出来ている筈。

 しかし、そこ(、、)には勇者の刃を阻む何かが存在していると、慈は放った勇者の刃の手応えを通して感じていた。


 前衛にカラセオスを含む族長組が並び、一つ後ろに勇者慈。その後ろに六神官と彼女達を護るパークスにシスティーナ。左右と後方を魔族の精鋭達が固める陣形で玉座の間に挑む。


「では行くぞ」

「じゃあまずは開幕の一発」


 カラセオスの合図で玉座の間に踏み込む討伐隊一行。扉を蹴破る直前に、慈が光壁型勇者の刃を放つ。

 先程、この控えの間に到着してからも、慈は玉座の間に向かって勇者の刃を放っていた。


 ここに来て更に追加で放つのは「流石に念入り過ぎるだろう」と、族長組は若干呆れていた――が、慈の判断は正しかった。


 光壁型勇者の刃を追うようにして、扉が開かれると同時に玉座の間に飛び込んだ一行の目前で、大量の攻撃魔法と思しき禍々しい姿形をした黒っぽい魔力の塊が、次々に蒸発していく。


「っ……! あれは、まさか過縮爆裂魔弾か!」

「ばかなっ! 室内だぞ!?」

「正気とは思えん……」


「なんだそれ?」


 とんでもない危険行為だと騒めく族長組に、今チラッと見えたのはそんなにヤバいモノなのかと慈が問う。


「今のは恐らく、範囲殲滅魔法と呼ばれる最上位の攻撃魔法だ」


 カラセオスが『過縮爆裂魔弾』について軽く解説してくれる。

 魔族の魔術士の中でも、飛び抜けて多い魔力量と極めて高い制御力を有する一部の者にのみ扱えると謂われる。


 何重にも圧縮した魔力の塊を複数束ねて目標に投げ込み、炸裂させるという多重爆発系の特殊な攻撃魔法。

 投射後、束ねた魔力の塊の一部を解放する事で推進力を得て、通常の攻撃魔法の射程を大きく超えた超遠距離から、広範囲の攻撃が可能な特徴を持つ。


 魔力の塊の維持。魔力の塊を束ねた状態の維持。推進用の魔力の塊の解放量と、指向制御を同時に行わなければならない。

 通常は熟練した魔術士が複数人で協力して行使する、非常に扱いの難しい魔法だという。



「ほう……コレを凌ぐカ……」


 玉座の間の奥から響いた声に、皆がそちらを注目する。

 長方形をしたかなり広い部屋の奥には三段ほど高くなった壇上に玉座がある。そこに座っている魔族の男性がヴァイルガリン当人のようだ。


 勇者の刃が何度も殺到したであろう筈にも関わらず生存している事から、カラセオスが危惧した通り、何かしら勇者の刃への対抗策を得ているのは間違いない。


 現に、今し方突入と同時に放たれ、『過縮爆裂魔弾』なる攻撃魔法を消し飛ばした光壁型勇者の刃を、正面から浴びた玉座のヴァイルガリンに負傷の跡は見られなかった。

 そればかりか、ヴァイルガリンの周囲を護るように佇む複数体の異形化兵も健在だ。


 玉座を中心に周辺と異形化兵を包むドーム状の膜のようなモノが薄らと見える。そして、玉座の少し上辺りの空中に、斜めに走った亀裂のような黒い何かが浮かんでいた。

 見た目からして魔法障壁の類だと思われるそれが、勇者の刃を防いだのだろう。



「どレ……もう一当て――」


 ヴァイルガリンがスッと腕を上げて合図すると、異形化兵が複数の腕を掲げて魔力の塊を精製し始めた。


 ここに揃っている異形化兵は、『地区』を襲撃した近接型とは少し違う。

 魔術士型の異形化兵で、魔法の扱いに特化させてあるようだ。本来なら複数人で行使する範囲殲滅魔法の制御を、一体で行える。

 それが今現在、確認できるだけでも十数体。


 馬鹿げた戦力だと呻く族長達。あんな危険な術を城内で使えば、城が崩壊してもおかしくない。にも拘わらず室内(ここ)で使ったのは、自滅しない確信があったからなのだろう。


 勇者の刃さえ防ぐ強力な防御手段と、全てを吹き飛ばす範囲殲滅魔法を容易く連発できる手札を得たヴァイルガリンは、もはや勝利を確信したかのような笑みを浮かべていた。





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