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プロローグ

私の名前は寺島八雲、大手ゼネコンで40年以上勤めてきた。

過去形になっているのは今日をもって私は定年退職をする。

この年で独身、特にお金のかかる趣味のない私は早めの退職をしてのんびりと老後を送るつもりだ。

まだ少し定年退職には早いだろうが、やはりもう自分の体力・能力ともに限界を感じるようになってきた。


そして今は社内の宴会施設で送別会の真っ最中だ。

私一人のためにこれだけの人が集まってくれたのは心から嬉しい。


八雲:「私がいつまでも上に居ては若い芽を摘んでしまうだろう。」


?:「そんなことないですよ。

先輩は一番若手社員に人気があるんですよ?」

いかにも熱血漢という言葉似合う精悍な男性が応える。


八雲:「私が?」


精悍な男性:「アニメやゲームの話をしてもついて来てくれますし、年齢よりずっと若いですよ。」


はじめは最近の子たちがどんなものに興味を持つか知りたかっただけだったんだが、今となっては私も立派なオタクだ。


精悍な男性:「この前ハゲナマズなんて、ラノベ読む暇があるなら四季報読めって言ってきたんすよ。

あの人3次元CADも使えないし、なんか仕事しているんすかね?」


ハゲナマズとは私の同期の大島のことだ。

昔気質で若手からは嫌煙されているらしい。


八雲:「こらこら、私はあいつと同期だったけど何度も助けて貰ったよ。

よく言っていたなぁ、徹夜は3日目からだって。」


精悍な男性:「え?マジですか?」


八雲:「今ほど労働環境は良くなくてな、過労死ラインを3倍近く超えた残業がスタンダードだったよ。」


精悍な男性:「今でも過労死ライン超えた残業が努力目標ですもんね。」


八雲:「まぁかと言って残業が減れば、他のゼネコンに食われてみんな仲良く路頭に迷うことになるだろうな...」


精悍な男性:「なんかゼネコン同士が互いに首を締め合ってる状態なんすね...」


八雲:「まぁあんま大島を悪くいってやるなよ。

若いときは何も考えられなくなるほど働いて、年食えば落ち着いてきた仕事を任される。

あいつ情熱人間だからやり場のない思いをしているんだろう...

前なんて発注ミスでみんな残業していただろ?

その時、大島は若い時を思い出したとか言って心配するほど徹夜していただろう?」


精悍な男性:「それはそれで怖いっすね。

自分もいつかそんな仕事人間になってしまうのか...」


?:「先輩!

行かないでください~」

突然背後から女性が抱きついてくる。


八雲:「おい、いくらなんでも酔いすぎだ。」


もうお子さんは小学生になった一児の母の面影は無い。


女性:「まだこれからが本番ですよ~

今日は朝まで飲み明かすぞーーー!」


八雲:「まったく酔うと見境がないのは変わらないな...」


精悍な男性:「そうですね、普段はバリバリのキャリアウーマンですもんね。」


八雲:「あいつは新入社員の飲み会で酔って暴れてそれから苗字の平にちなんでタイラントなんて呼ばれてたんだよ。」


精悍な男性:「確かにタイラントですね...」

暴れる彼女を見ながらつぶやく。





八雲:「酒はだいぶ控えたはずなんだけど、頭が痛い。」


送別会は金曜、土日はずっと休んでいたはずだけど月曜になっても疲れが取れない気がする。


八雲:「一体なにしようかな?」


退職後は都内の下町に越してきた。

今までの住居でもよかったんだけど、ツテで格安の物件が手に入ったからだ。

田舎で畑でも耕そうかと思っていたけど、体がついてこないだろうから断念した。

若いときから仕事、仕事で生きてきたけど、その代償として何をやるにも体力が持たず、お金を使うほどの趣味や心意気もないのだ。

若いときはとにかく休みが欲しいって思ってきたけど、いざ定年を迎えるとやることがない。


八雲:「とりあえず、散歩でもするか...」




太陽の日差しが心地良い。

近くを通る電車に目を向けると窮屈そうに詰め込まれているサラリーマン達が見える。


八雲:「つい数日前まで私もあの中にいたんだよな...」


社会から離れて初めて気付くこともあるもんだ。


突然鼻歌まじりに走り回る少女が目に付く。

全身真っ白で髪まで白い。

天使という表現が最もしっくりくる。

確かあれはアルビノとか言う体質なのかな?


八雲:「あれ、なにか落としたぞ。」


なんだろう中央に綺麗な宝石のような物が埋め込まれたペンダントだ。

少女に声をかけようかと思った瞬間、都条例が頭の中をよぎる。


八雲:「変質者扱いされないかな?」


迷っていると少女は遠く離れてしまった。

迷っている場合じゃない、高価なものっぽいし早く追いかけないと...




八雲:「はぁはぁ、もう無理!」


少し走っただけで体が悲鳴を上げている。

ダメだこれは数日間の休息が必要だ。


八雲:「あとで交番に届けよう...」

ペンダントをポケットに入れる。


ふと茶屋が目に入る。

古きよき街並みが気に入ってここにきたんだ。


八雲:「少し、ここで休むか...」




ちょっとの全力疾走で1時間近くの休憩が必要でした。

1時間ほどしてやっと茶屋を出る。


八雲:「あれ?そう言えば何してたんだっけ?」


完全にペンダントのことを忘れて帰路についた。


八雲:「今日は疲れた...」

家に帰ってきてそうそうベッドに倒れ込む。


まだお昼前だと言うのにぐっすりとそのまま眠ってしまう。





八雲:「う、うん?」

頭を抱えながら立ち上がろうとする。


八雲:「いたっ!」

体に違和感を覚えて転んでしまう。


不思議と疲労感は感じないけど、奇妙な感覚だ。

そしてもう一度立ち上がると明らかに視点が低い。


八雲:「ちょっと走っただけで体がおかしくなった?!」


怖いながらもおそるおそる鏡を見ると...


八雲:「あれ?

なんでこんなとこに女の子が?」


いや違う、鏡には反射した自分の姿が映るものだ。


八雲:「え?これが私?」


昨日見た天使のような少女にどことなく似た女の子がそこにいました。








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