三話 再会3
楽しんで頂ければ光栄です!
図書館をあとにした葉太ら三人は昇降口を出て、グラウンドに向けて歩みを進めていた。
「ところで成瀬の奴、何でまだサッカーしてんの?もう部活終わったんじゃ?」
「あれは遊んでるだけ。あの人達は入試受けないから暇なの!」
少しふて腐れた口調から察するに、千歳は受験勉強まっただ中なのだろう。
「サッカーをシテキマス!」
そう言ってサッカー集団に突っ込んで行くアイラを見送る。サッカー集団は、おおぅとかいう歓喜の声をあげている。アイラはサッカーが得意なのだそうだ。見たところ普通のサッカー少年よりは明らかに上手い。
「よーた、あっちの学校でもサッカーしてたの?」
「してない。」
「どうして?上手だったじゃない。」
「あいつらとやってたから楽しかったんだよ。」
思い出すのは、中学のサッカー部。葉太たちの学年はサッカー部が6人しかおらず、後輩たちと仲良く試合に出たりして楽しくやっていた。
練習ではまともな事はほとんどせず、遊んでばかりいたが、皆それなりに上手かった。県大会まで行ったが二回戦で敗退した。みんなその時に泣いていたが、悔しかったとかではなく、楽しい部活ライフの終焉を惜しむ涙がほとんどであった。
「ふーん」と千歳は気の無い返事をしてくる。どうしたものかと千歳の方を見ると、こちらに転がってくるサッカーボールを目で追っていた。
「犬かよっ」そう言いながら葉太は転がって来たボールを蹴った。葉太の得意なスクリューシュート(勝手にそう呼んでるだけ)が急なカーブを描きながら飛んでいく。
狙うは、ボール取って下さーいとか言いながら手を上げている成瀬だ。行けっ、飛べっ。そしてあのスカした面に当たれ!
ボカッ、という鈍い音と共に仰け反る成瀬。命中だ。ケツからコケた成瀬は、ガバッと起き上がり、こちらに向かって全力疾走。
来る。やばい。来る。、とか思ってる葉太に成瀬が思いっきりタックルをしてきた。体制が崩れた葉太に容赦なくヘッドロックで追討ちをかけてくる。
「おい葉太!久しぶりの再会にスクリューシュート見舞うとか随分な挨拶じゃねえか。オレからはヘッドロックを見舞ってやんよー!」
「そのプレイはもう志摩とやった!」
「えっ、マジで」
「胸が心地よくて幸せでした」
「なんでそういう事人に言うの!?」
ほんと信じらんない!とか言ってる千歳をしり目に、成瀬は葉太の肩に手をかけて小声で話しかける。
「葉太、まだ千歳のこと好きなのか?向こうで彼女とか作らなかったのか?」
「作るわけ無いじゃん!あと、志摩の前でそういう事話すなよ!」
葉太も小声で言い返す。
「二人で何話してるんですかー。」
「し、志摩!何でも無いっ」
後ろから声を掛けてきた千歳に慌てつつ振り返る。
「そういえば、成瀬ってばよーたがいるのに驚かないの?」
そういえばそうだ、と葉太も思う。
「さっき、オッサンが会いに来たからな。」
成瀬がオッサンと呼ぶのは、葉太の父の事だ。昔から仲が良くて、しょっちゅう夜釣にも一緒に行っていた。最初は葉太も一緒だったが、段々面倒になって行かなくなったが、二人はしょっちゅう行っていた様だ。
父は、恐らく手続きを終えた後、成瀬に会いに行ったのだろう。
「そーなんだ。」
そう言った後、千歳はスマホで時間を確認し、
「あ、私予備校行かなきゃ。っとその前によーた、ニャインのID教えて!あんた中学校の頃スマホ持ってなかったから大変だったの!」
「う、あ、分かった」
好きな相手からの唐突のID交換に焦りながらも了承。スマホを振る。振っちゃう。振りまくっちゃう。ピコンと音がした後、千歳のIDの登録が完了。
「じゃあ私行くね」
そう言って走り去って行く千歳を見送ったところで成瀬から、サッカーしないか?ちなみにアイラも参加中。
「よし、やるか。」
サッカー集団に混ざって葉太はアホみたいにはしゃいだのだった。
久しぶりの運動で疲れ果てた葉太は、家に帰ると晩ご飯と入浴を済ませてから、空っぽの自室に寝転がった。
まさか中学生時代の親友4人と同じ学校だったとは−−−。
しかしその中でも千歳との再会は最も嬉しいものだった。葉太は千歳との出会いを思い出し少し悲しそうな顔になる。
しかし今は葉太と千歳が知り合ったときのことはまだ書かないでおこう。それよりも今は葉田葉太の心のわだかまりについて話すとしようか。
志摩千歳には想っている人がいる。だがそれは葉太では無い。加賀成瀬だ。成瀬は顔も性格もイケメンだ。その上スポーツが得意で勉強も人並み以上は出来る。
それに比べてこの葉田葉太という男、顔もフツー運動もまあまあ、学力も人並み。この世で誰にも負けない自信があるのは千歳への愛だけだ。
誰にも負けない愛。
それだけ有れば十分な気がするが、そうでは無い。いくら葉太が千歳を愛していても、それは一方的なものでしかない。
ある一人の男から誰よりも愛される女。それだけ聞けば良いような気もするが、その女が男を愛しているかと言えば話が別だ。
どちらか片方が、誰よりも何よりも相手を愛していたとしても、もう片方も、相手の事を誰よりも何よりも愛していなければならない。
釣り合っていない愛は容易く崩れる。
それが葉太の考えだ。
そして結論、明日千歳に告白しよう。
どう見ても釣り合っていない一方的な愛。それは相手にとっても迷惑だ。ならばもう、葉太も一度玉砕してこの気持ちに、千歳への愛に、けじめを付けなければならない。
スマホを手に取りニャインを開く。相手は千歳。メッセージを送る。
明日駅前に1時な 返信は別にしなくていい 勉強がんばれ!
葉太は明日が待ち遠しかった。千歳と二人で出かけるのが生まれて初めてだったから。
読んでいただきありがとうございました!
アドバイスなどがありましたらどしどし頂けると有り難いです。
次回もぜひよろしくお願いします。