二話 再会 2
ぜひ楽しんで頂けると嬉しいです!
「久しぶり、千歳。」
「な、何で。よーたがここにいるの?」
そう言ったのは、濃いショートの茶髪を左だけピンで留めた、かわいい女子生徒。
「転校してきた。」
「は?」
「来週からここ通う。」
「こんな時期に?」
「そう。」
ごもっともな質問だ。こんな時期に転校してきても困るだけなのだが。親の都合なのだから仕方がない。
「て、ていうかさっきのアレは何なの?」
「イナバウアー?」
「そう、ソレ。」
「写真取ってた。ほら、この天井に描いてあるやつ。」
「なんで?」
「とてつもなく魅力を感じたから。まぁ、志摩には分からないだろうが。」
「少しは分かるよ」
そう言って千歳は少し嬉しそうに笑ったあと、少し眉を吊り上げて、
「じゃあ、あの、うふふっていう笑い方は何だったの?だいぶ寒気がしたけど。」
「あれは、田舎の学校にいた友達のがうつっただけで、僕は断じてそういうのじゃあ無い。」
「わたしの写真撮ったのは?」
「志摩に魅力を感じたからだ。」
そう言って葉太は千歳の目を真っ直ぐ見つめる。
「な、何よ。調子狂うじゃないの。でも、どうせ、どうせ冗談なんでしょ?」
「勿論だけど。もっと言うならば誰でも良かった。」
「完璧に犯罪者じゃん。あっ、そう言えば画像消してよねー。」
「志摩、意外と攻めなカンジのパンツ履いてんだなー」
「へ、変態っ。」
そう言うと千歳はドンっと葉太の胸を押した。おっとっと、と言いながら後ずさる葉太。そして、
ヴァキッッッ、と不穏な音が葉太の足元から聞こえた。思い出すのは、さっき落とした自分のスマホ。
アーメン。
これはもしや、否、絶対にやらかしてしまった。そう思い葉太は恐る恐る自分の足元に目を向けようとしたが、その途中で、口をあんぐり開けて俺を見る千歳と視線がぶつかった。
コレはーーーーー確信。
「皆まで言うな。」
葉太は恐る恐る足を上げる。メキッとか聞こえたけどスルーする。満を持して視線を足元へ。
「あ~これ、完全に逝ってますねはい。」
「その、ごめん」
「いや、志摩は悪くない。それよりも志摩のロウアングルショットまだスマホの中」
「データ残ってるの?」
「多分、メモリーは壊れてないと思う。でも電源つかないですわ。」
「と、言うことは?」
「そう、機種変してデータを移し替えた僕のスマホに黒のレースが再び降臨する。」
「それ言わないでっ!ってゆうかどうしよう。」
「まずは神様にお礼を言おうか。」
「言うな。」
「まぁ、そうなった時は僕が有効活用してあげよう。」
「何するつもり?」
「冗談だよ。じゃあ、早速明日機種変に行くわ。」
「待って。私も行くっ。それで、機種変して即画像を私が消す。いいでしょ?」
「じゃあ明日は志摩とデートか。ありがとう神様。」
「デートじゃない。明日、1時に駅前のケータイショップね。」
「分かった。」
「じゃあ、この話はもう終わり。」
千歳は切り替えるように手をパンッと叩いた後、葉太の顔を半眼で見る。
「変わらないね〜。」
そう呟いたのは千歳。三年前と変わらない葉太を見て少し安心したのは確かだった。
「そう言う志摩は育ったな?」
「そういうとこも変わってない。」
「そんな、三年でいい男になるとか無理だわ。千歳、じゃねえ志摩はなんか大人っぽくなったな。」
「そう?っていうか!会った時から思ってたけど何でちょくちょく私の事千歳って呼ぶの?むかしはずっと志摩って呼んでたのに。」
「そ、それはだな。久しぶりでちょっと混乱してるんだっ。」
「何に混乱してるの?」
「んにゃ、何でもない。男の子ってヤツはたまにおかしいんだよ。」
「ふぅーん」
正直、葉太はめっちゃ焦っていた。
何を隠そう目の前の志摩千歳は葉太の初恋の相手。それでいてまだ諦めきれていない。だから結構、心臓がギリギリの状態で、さっきから話している訳だ。
だがそれを悟らせるわけにはいかない。話をそらしにかかる。
「そ、そういえばさ。他に僕の知ってるヤツはいないのか?」
「あ、うーん。よーたが知ってるのは私が知る限りでは3人しか居ないと思う。」
「誰?」
「琴美と成瀬とアイラ」
「おお、良かった。」
世那琴美、加賀成瀬コイツは男、アイラ=イルノーゼンの三人は葉太がとても仲良くしていた連中だ。勿論、千歳もだ。
「でも、何でこんな僕と仲いいやつばっかなんだよ?」
「え、よーた覚えてないの?」
「え、何を?−−−−−−、あっ」
「やっぱり忘れてたんだ。中3の頃みんなで同じ高校に行こー、て息巻いてたじゃん。私達。でもよーただけが転校しちゃって4人だけでここに来たの。」
ちょっと千歳は怒った感じでそう言った。
「そういうことですか。納得です。」
「成瀬のヤツとアイラはまだ学校にいると思うけど会う?」
「会う、あうあうあうあうあうあう。」
嬉しすぎてキモい言い方をする葉太に引きながらも千歳は葉太を案内する。
「じゃあまず、アイラに会いに行こうか。多分図書館に居ると思うから。」
「アイラかー。懐かしいなー」
アイラは葉太が中学2年生の秋に留学してきた生徒だ。たぶんイギリスから。
当時、ダンスが踊れた葉太はマイケルジャクソンのファンであるアイラに気に入られたのだ。休み時間のたびに踊らされたのを覚えている。
「はい、ここが図書館」
そう言って千歳は木でできたスライド式のドアを指差す。
「入っていいのか?」
いいよ。と千歳から許可を貰ったので、ガラガラとドアを開けて図書館に足を踏み入れる。まあまあ綺麗な館内には人が見当たらない。
本当にアイラは居るのだろうか。
「たぶんあそこの本棚の陰に居ると思うよ」
葉太の疑念を察したのか千歳がそう教えてくれる。言われた通りに本棚の裏を覗いてみると−−−。
いた!!女の子座りをして本を読む少女は確かに、記憶の中にあるアイラの姿そのものだった。金髪のロングヘアに蒼い瞳。
恐る恐る声をかけてみる。
「っ、アイラ久しぶり」
するとアイラは記憶の中にあるままの可愛らしい顔で葉太に振り返り、キョトン。誰デスカ?といった顔で葉太を見ている。
「−−−−−−。」
「??????」
「ヨータッ‼」
やっと葉太だと気づいたようで、ぱあっと顔を輝かせ、ピョコン。跳躍。そして、葉太に真正面から飛び付くと、ムギュー、と自分で効果音を付けながら抱きついてきた。
「ぬぅっ、くっ」
アイラの胸が口に当たって呼吸ができなくなりながらも抱きとめる。
「ムギュー、ヨーター。ナンデココにイルデスカー?ワタシヨータに会えテウレシーデス。」
胸で口が塞がって喋れない葉太に変わって千歳が言う。
「葉太は来週からここに通うんだって。それで、アイラが居るって聞いて喜んでここに来たの。」
「エエっ。ヨータ、リュー学するデスカ」
「留学じゃなくて転校な。」
声をくぐもらせながらも葉太が答える。
「ワタシに会エルタノ、ウレシーデスカ?」
「うん、会えるたの嬉しい。会えるたの嬉しい。」
「ワタシもデスッ。ヨータ大スキデス」
そう言って更に抱きしめてくる。
「げ、ゲルルグ」
「ああ、アイラ。葉太が苦しいから離してあげてっ!」
「ワォ!胸ガ当タッテマシタ。スミマセン、ヨータ!」
「よーたも残念そうな顔するなっ!」
ご褒美タイムの終了を名残り惜しそうにする葉太を千歳が一喝。さっき志摩もしてくれたじゃんとか言っている葉太は無視してアイラを落ち着かせる。
「改めて、アイラ元気だったか?相変わらずフレンドリーなのな。」
「ゲンキでしたヨ。今はヨータに会エテ、ヨロコンデマスッ。ナニヨリ、マイケルジャクソンのダンスオドッテクダサイ!!」
「接続詞おかしいな。直そうな。まあいい、踊ろうか」
適当にリズムをとって踊ろうとした葉太を遮るようにアイラがスマホを取り出す。
「曲流しマース」
「おいおい忘れてないか?ここ図書館だぞ。」
「全く持ってそのとおりです。」
唐突の第三者の声。誰だ!そうか!図書委員長か。他に利用者はいないが、流石に止めるよな。
「図書委員長として私にも拝見させていただきます。」
それでいいのか。
「ミュージックスタート、デス」
それから葉太は3曲踊らされた。図書委員長はムーンウォークが気に入ったようだ。
「よし、成瀬に会いに行こう。」
これ以上催促されることを嫌ってか、葉太はクルリと回転し、図書館のドアまで歩いていく。
「ちょっと、葉太。成瀬がどこにいるか分かってるの?」
「さっき見えた。グラウンドでサッカーしてる奴らの中にいるだろ?」
「よく分かったね。アイラも行くよ。」
そう言って三人は、委員長にじゃーねー、と言いながら図書館を出ていった。
読んでいただきありがとうございました!
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