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君の命に値段が付いた  作者: あいまいもこ
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一話 再会



 拙作『僕の事を好きじゃない愛する君への五億円』の修正版です。元と結構内容が変わっています。




 


         



 もしも、自分の命のタイムリミットが唐突に現れたら、自分ならどうするだろうか。


 もしも、生きていたいって思ったときに、自分の命に値段が突きつけられたらどう思うのだろうか。


 そもそも、人の命を救うことに、莫大なお金がいること。それがおかしくないだろうか。 


 そして僕は、人の命よりも価値を持ってしまったお金を、心底恨むのだろう。







          


 車に揺られながら窓の外に目をやる。ついさっきまでは寝ていたのだが、都会の気配を感じて起き出してきたところだ。 


 高速を下り、一般道に入る。久しぶりの都会ということもあり、車線や信号機の多さで、どこを見ればいいのか分からない。 


 葉田葉太はだ ようたは高校生。ちょうど今、田舎から、故郷である都会、横浜に帰省したところである。


 もうすっかり田舎暮らしに慣れてしまっているせいか、ビルが建っていれば見上げてしまう。おーたけーなー、とか思いながらも、実は頭は空っぽで、特に何も考えていない葉太を乗せて車は都市部を外れていく。 


 帰省とは言っても、以前暮らしていたマンションはとっくに空けているので、別のマンションに住むことになっている。そして、葉太がボケーっと外を眺めている間に、目的地のマンションのには着いたようだ。


 車から降り、田舎よりかは幾分も汚い空気を吸って伸びをする。特筆するようなことの無いようなマンションの中階の部屋に軽く荷物を運んだ後、まだ家具も何も無い自分の部屋に、大の字で寝転がった。


 めぐる思い出は3年前のこと。


 あとは入試して卒業するだけ。楽しい三年間だったな!とか言いながら卒業するだけの中3の3学期突入の時期。と同時に、葉太は田舎の中学校に転校、知らない人々と過ごし、田舎の高校入試を受けて、感動の卒業式(笑)で卒業。


 その後、田舎での高校生活を送り、あとは進路を決めて卒業するだけ!

っていうところで転校。そして、今ココ。何で中高と連続で3年生の3学期からの転校なんだよ。まあ、親の仕事の関係なんだけども。


 一通り、惰性の懐古を終えたところで、ボケーっと。世界一無駄な時間を過ごす。


 ふっと我に帰る。母親の声がする。何言っているのか聞き取れないが、見当はついている。今日は、諸々の手続きのために新しく通う高校に父とおもむく予定なのだ。もうこんな時間か。


 思い腰を上げて、玄関へ。父と一緒に学校へ向かう。車に揺られながら車窓から景色を見ている葉太に父が声をかけてくる。


「父さん、手続きしとくからさ。学校、見て回っときなよ。昔の友達もちょっとはいるだろうし。帰りは電車でも使って帰って来たらいいし。財布、持ってるだろ?」


「持ってる。誰かいるのかねー。知ってるヤツ。」


 そして覚えているのだろうか。


 また車内にエンジン音だけが響き渡っている。その空気をぶち破ろうか?とでも言わんようなタイミングで、チャットアプリ[ニャイン]が続けざまに着信2つをお知らせしてくる。ピロン、ピロン。ポケットに入っているスマホを取り出し、ニャインを開く。


 発信もとは田舎の友達ケイゴ。



                                      

〔ケイゴ〕< どうよ? 

〔ケイゴ〕< 田舎は 

〔葉太〕< ビル高い 

〔葉太〕< 空気が汚めのテイスト ビル高い 

〔ケイゴ〕< 他になんかないのか? 

〔葉太〕< 今日から僕はアーバンボーイ 

〔ケイゴ〕< ふうん 

〔葉太〕< でもまだお前は田舎者 

〔ケイゴ〕< 何が言いたい?喧嘩売っているのか? 

〔葉太〕< 要するに 

〔ケイゴ〕< うん 

〔葉太〕< 標準語やめろ 

〔ケイゴ〕< いいでなーお前 今日から都会のもんっちゅうやつだが。 お前こそ連絡ひどずもよこさずに どげんなっとーだ? 学校はもう見ただか? 

〔葉太〕< これから見に行く いい物あったら写真送る 

〔ケイゴ〕< 分がった つーかお前 こっちの学校さ来ても 標準語守り抜きおって 小癪な野郎が 

〔葉太〕< じゃあな またあとで 

〔ケイゴ〕< 写真、楽しみにしとるけえなー じゃあなー



 ニャインを閉じて、スマホを再びポケットへ。田舎の学校のことを思い出す。ケイゴは向こうの高校で知り合って以来、ずっと一緒に遊んだりしていた。一番の友達だ。


「着いたぞー」


 父の声で到着を悟り、顔を上げる。中3の頃、転校する前の志望校だ。


「ありがとう。じゃあまた後ほど」


 高校の事務棟に向かう父とは別れ、葉太は校舎へ向かい、パシャリとケイゴに送るために校舎の写真を撮る。確か、3年前くらいに改装工事をしたらしいが。校舎の見た目は普通にある感じだ。3年前と言っても、もう昔の話だ。


 葉太は昇降口の前で一度立ち止まる。自分を知っている人がいるのだろうか?もし居たらどうしようか?もしかしたら、千歳も、、、。


 葉太は校舎へと足を踏み入れた。





ーーーーーー


 志摩千歳しま ちとせは、ため息を1つ溢した。ついさっきまで、職員室に呼び出されていたのだ。内容は勿論進路のこと。


「このままじゃマズイぞーって言われてもねぇー。サボってるわけじゃないんだけどなー。」


 だから困っているのだ。サボってて出来ないんだったらやればいい。勉強すればいい。これでもかって言うぐらいやっているのに伸びていないからまずいのだ。点数が。


 高3のこの時期。推薦貰える程の成績では無いため、大学受験に向けて勉強をする人々。周りでは、推薦組や就職する人々が遊び回っているから余計につらい。


 誰も居ない廊下を一人歩く。吹奏楽部の練習する音が学校中に響き渡っている。


「私もねー、部活してた時は輝いてたかなー。うん、うん。」


 高校生活は青春だ。美術部にいた頃はとても良かった。

 大学の次ぐらいには、人生のなかで最も楽しい時間だろう。故に下り坂も激しく急だ。受験に追われて、勉強三昧。仕方がないが辛いものは辛い。


「参るなー。一人は寂しいや。彼氏欲しー。なんで琴美には居るのにー。」


 弱音を吐きながら階段を降りていく。踊り場の窓ガラスからグラウンドを見る。サッカー部とは別に、サッカーをしている集団がある。もう進路に対する悩みの無い連中なのだろう。バカみたいにはしゃいでいる。いいなー、人の気も知らないで−−−。


 踊り場の窓から顔を背けて、身体の向きをクルリと回転。気を引き締め直し、昇降口へ向かって階段をくだり出す。


が、しかし、千歳の足は階段を二、三段下ったところで止まっていた。


「ふぇっ」


 それはきっと、昇降口に立って一人、イナバウアーをしながら、うふふっと笑う男の姿を見たからだろう。





ーーーーー


 葉田葉太は校舎に足を踏み入れた。


 昇降口内の天井には、よく分からない絵が大きく描かれている。キュビズム?なのか知らないが、見る人を圧倒する何かがある。こういうのを描く人は何か、自分達とは違う世界を見ているような気がする。


 パシャリとスマホのカメラで写真を撮る。天井を仰ぎ見ながら写真を撮る葉太の姿は、さながらイナバウアー。勝利の女神が微笑んでくれそうなポーズだ。つい、うふふっ、とかいう気色の悪い笑い声が漏れる。


「ふぇっ」


 と、その時。唐突に目の前の階段の上から女子生徒と思われる声が聞こえた。ヤバい。こんな格好を見られたら転校早々変人扱いされてしまう。それはマズイぞ。


 何か無いのか!?どうにかして、天井の絵の写真を撮っているだけだ!、と理解してもらう方法は無いのか?考えろ葉田葉太っ!!


 ハッ!閃いた!!我は策士か。


 結論から言うと、この時の葉田葉太はどうかしていた。狂っていた。


 あろうことか、葉田葉太は唐突に、その女子生徒の写真を撮ったのだ。連写で、50枚も!

 写真撮っているだけですよーっていう意味合いを込めて。


ーーーーーーーーーー


 絶句。


 その時の志摩千歳の反応を表すのに最も適した表現は、この漢字2文字の他に無いだろう。

 さっきまではイナバウアーしてた男が、無言で上体を起こしたかと思えば、自分にカメラを向けての連写。しかも階段の下から。


 千歳は慌てて制服のスカートを手で押さえ、写真を撮られたスマホを取り返そうとその男に向かって駆け出したのだった。



ーーーーーーーーーー


 歓喜。

 そう、自分に向かって駆けてくる件

くだん

の女子生徒を見た時の葉太の心情は歓喜だ。 


 てっきり逃げられるとばかり思っていたのに、こっちに向かってくるのだ。それはすなわち、この奇行の弁解のチャンスがあるという事だ。


 通報されると思っていたのに、ありがたすぎる。wellcome!葉太は間近まで迫って来た女子生徒に向かって弁解しようと微笑みながら口を開く。が、だがしかし!?


 迫ってくる彼女を見た瞬間に悟った。コイツっ、殺る気だっ!!と。


 そして葉太は速やかに次の行動に移っていた。どうせ死ぬなら、殺られるならばっ、バッ!!と葉太は視線を彼女の顔から外し、手元にあるスマホの画面、否、女子生徒の写真に視線を移した。


 何としてでも、このスカートの下のエデンを、ヘブンを、目に焼き付けなければ。死ぬ前にぃ!!


ーーーーーーーーーー


 志摩千歳は男に向かって駆けながら、男の顔を見て驚いていた。なんでコイツがここに?


 だってこいつは三年前に−−−。


 いやっ、関係ない。いくらコイツが相手でも殺る事には変わりないっ。そう決めた千歳。


 しかし、男は更に予想外の行動に出た。さっきまでは、ただうれしそうに笑いながらポケーっと口を開けていただけだったくせに、唐突に思い立ったかのようにスマホの画面(恐らく千歳の画像)にバッと目を向ける。そして目を剥き、スマホの画面を修羅の形相でガン見したのだ。


「見ーーなーーいーーーでぇぇぇええ」そう叫びながら千歳は男に飛びついた。



ーーーーーーーーーー


 葉田葉太は、顔を下に向け、スマホの画面をガン見した。


「みーーなーーいーーーでぇぇぇええ」という声が聞こえてきても見続けた。ガンガン見た。ガン見した。その直後、体を襲う衝撃。


 女子生徒にヘッドロックされたのだ。力も弱く体も小さいので死にはしなかったが、その衝撃で葉太の熱い視線を受けていたスマホが、手から離れ、放物線を描きなら落下した。落下する途中のスマホを見ながら葉太はつぶやいた。


「黒いエデン」、と。


 そして、ヘッドロックを受けながら、思い出す。その女子生徒との中学校での思い出を。

 しかし、そんな悠長な物思いにふける暇もなく、その後も続くヘッドロックという名のご褒美。

 だがこれ以上は息が持たないので、ヘッドロックがご褒美たる由縁を彼女に伝えた。 


「ありがとう。胸が当たってて心地良いよ千歳。ありがとう。」


 すると、千歳はやぁっ、と悲鳴を上げて葉太から飛び退いた。そして、開放された葉太はこう言った。


「久しぶり、千歳。」


「な、なんで。よーたがここに居るの?」


 三年ぶりの再開を果たした彼らが、多くの壁に突き当たることを彼ら自身気が付くはずがなかった。







 読んでいただきありがとうございました!

 次回もよろしくお願いします!

 アドバイスなどがありましたら、どしどし頂けると有り難いです。

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