05 準備完了
「聞け、愚かな者どもよ。この者は魔王軍が決めた決まりを破りあの剣を抜く手助けをした。これは重大な反逆罪である。このような行為は断じて許されない。よってこの者を処刑する。また剣を抜こうとした者も現在捜索中でありもうじき捕まえられる事だろう。我々から逃れることは決して出来ない。そしてしかと覚えろ、魔王軍に逆らえばどうなるのかということを。これはその見せしめでもあるのだからな」
町の役所の様な建物の前で男は叫ぶ様に喋る。町の人はほとんど皆同じことを思っていた。それは目の前の男に対しての怒りと恐怖だ。普通ならばここで少しぐらいヤジが飛ぶこともあるかもしれない。
しかし、今この場では誰も言葉を発しない。皆顔の表情が少し動くくらいだ。理由は簡単で例えそれが称賛の声でも魔王軍の言葉を遮る様なことがあれば目の前の老人と同じ目にあうと知っているからだ。言葉を発していいのは発言を求められた時のみだ。
仮にもし全員で目の前の男とその取り巻きに戦いを挑めば勝てる可能性は十分にあるだろう。相手は武装しているとはいえ同じ人間だ。数的に押し切れる。だが、もし勝利してもその後がない。すぐさま別の魔王軍が来て皆殺しにされるだろう。それ故に皆心の中でしか思うことが出来ず行動を起こせない。老人を助けたい気持ちはあるが自分の人生の方が大事なのだ。それは普通のことで責められるものではないが、この先、町民達はこの出来事を思い出す度に自分達を責める気持ちでいっぱいになるだろう。
それこそが目の前の男の狙いであった。確かに最初は苛立ちと自身の身を案じて口封じの為の処刑だった。しかしこれを上手く使い町民達にもう一度力関係を分からせる事を思いつき町民達を呼び出し見せつけることにした。実際にその計画は上手くいき町民達は男の思う通りになっていた。
「もし、万が一にもこの処刑に異議があるものがある者がいたら申し出ろ・・・・・・よし、いないな。それでは今から反逆者の処刑を始める。準備はいいな。でははじ──」
『ちょっと待った!!』
男の声を遮り声を上げたのは青髪の少女と見慣れない服を着た少年、そしてその隣にいるのは金髪の少女だった。
──────────────────────
どこから整理しようか?
とりあえずあれから俺とナーリーはあの塔に向かい無事に到着した。塔は俺達が最初想定したよりもとても大きく遠近法のせいで距離感が掴みずらく思ったより遠かった。
まあ遠かったのはちょっと時間がかかるぐらいでそれほどの問題ではなかった。問題となるのはその大きさ自体でこんなに大きいとお爺さんを探すのにかなり手こずってしまう。もしその間にお爺さんが殺されたりしたら元も子もない。ここは慎重にそれはもうどこかのBOSSの如く潜入しなければいけないのだが最大の問題は肝心のナーリーが「敵に見つからずに潜入するだと?そんな面倒なことせず正面突破すれば全て解決だろ。私ならあの程度の相手君に一切の傷を負わせること無く制圧してみせるのに」などと抜かしていることだ。そこでは無く時間の問題だと何度説明してもその度に不貞腐れ、またすぐに正面突破を提案してくる。
その姿と中身が一致しない脳筋すぎる考えに頭を痛めてしばらく経った頃相手に動きがあった。警備の人数が一気に減ったのだ。何があったは分からないがこれはチャンスだ。そのままナーリーがウキウキで一気に塔を制圧し司令室を陣取ったまではよかったんだけどなんと塔にお爺さんがいないのだ。正確には実際に確認した訳では無く、兵士を尋問して居場所を聞いたらもうここにはいないというのだ。これじゃあ振り出しに戻ったより最悪の展開だ。
「なあ、もう敵はいないのか? まだ暴れたりないんだが?」
「お前なぁ・・・女神って言われてたぐらいなんだからもうちょっとおしとやかになれないわけ?さっきまでのナーリー、女神っていうより武神だぞ。女の子が二刀流で剣をブンブン振り回しながら笑顔で迫ってくるなんて悪夢だよ。俺思わず相手に同情しちゃったよ」
「私は私だ。他の誰に何を言われようと私は変わらない」
なんか微妙に噛み合わない会話をしながら今後のこと考えている。つまり俺お得意の現状整理が終わり今の状況に絶望しているのが現時点の結果なわけだが、どうしたものかね?
「なあ君、何か声が聞こえないか?」
「どうせお前が切り倒した兵士達のうめき声だろ」
「いや、それにしては声が大きい。ちょっと行ってみないか?」
「まあいいけど、ここにいても何も変わんないしさ」
俺達は声がする下の階に行くことにした。行く途中兵士達の気絶した姿をかなりの数見たのだが、改めてナーリーの強さが分かる。相手を殺さず無力化するのはかなりの実力差がないといけと無いって何かで聞いたことがある。しかもこの人数相手だ、いささか強すぎるかもしれないけど味方としては頼りがいがある。
「さて、この当たりから声がしたはずだが、どこだ?」
「助けて下さいませ。そこのお二方。私はここです。」
そこには牢屋に入れられてる金髪の少女がいた。声の主はこの子か?
「君かい?さっき大きな声を出したのは?」
「そうですわ。そろそろ朝食の時間ですのに一向に兵士の方々が来る気配が無かったので叫んでみましたの。そしたらあなた方が来てくださって、これも何かのご縁です。私を助けて下さいませ」
「それはいいけど、3つ教えてれる?まず君の名前、ちなみに俺の名前は友也、こっちはナーリーだ。あとなんで捕まっていたのか、それとここにお爺さんが捕まってたと思うんだけどどこに言ったか知らない?」
「これはこれは失礼しました。自分の名前も名乗らず一方的にお願いなど。トモヤさんとナーリーさんですね。私の名前はシャルフィー・ノート・フィース。気軽にシャルフィーとお呼びください。掴まった理由はお恥ずかしいので出来れば答えたくないのですが、構いませんか?」
「別にそれはいいよ、ただの興味本位だし」
「あとは、お爺さんですよね。多分ですが役所に連れていかれたのではないかと。先程そのような会話が聞こえたものですから」
「それは本当かい?どうするんだ、君?」
「どうするもこうするもないよ、早く行かなきゃ。おっとその前に、ナーリーこの牢屋壊してくれよ」
「了解だ。少し離れていろ、危ないぞ」
ゴンッと音を立てながら牢屋の鉄格子が崩れ落ちた。ていうか俺も簡単に頼んだんけど鉄格子を一振りで壊すってやばくね。まあ今更か。
「それじゃあ、お爺さんを助けに行こうか」
「お待ちください。私もついて行ってよろしいでしょうか?私、ここの塔の人に酷いこと言われたので少し悔しくて」
「どうするんだね、君?」
「いい加減名前で読んでよ。君、君ってなんか嫌だしさ。まあ俺はナーリーがいいなら別にいいよ」
「私は別に構わないよ。ただ私は守ってやらないからな」
「お前、俺の時もそう言ってたけど結局守ってくれてんじゃん。俺まだ1回も剣振ってないよ。いやあれか、ナーリーがただ戦い好きなだけなのか」
「失礼だな、私を戦闘バカみたいな言い方して。もう守ってやらないからな」
「やっぱり守ってくれてんじゃん。優しいやつだたな。まあいっか。という事だ、シャルフィーどうする?」
「あの、私なら大丈夫です。こう見えても戦いに関しては他の人より自信があるので」
「では、急ごうか。もう日も出始めている。いつお爺さんが殺されてもおかしくないからな」
「おう。じゃあ二人ともよろしくな!」
最後の部分から最初の部分に戻ります。読みづらくてすみません。
ちなみにシャルフィーは「私」と言ってます