私は大した事ないですよ?でもお母さんは最高なのです!だってきゃわいいですから!
見直しが完了しましたので後半部分を投稿します。
馬車に乗って30分ほどで貴族街と下町との境にある中央広場に到着したのですが、この時間だとまだ市が残っていますのでそれなりに人通りは多くなります。
この広場の中心には大きな噴水がありまして、魔法装置を利用した時間帯で吹き出る水の場所が変わるという不思議なものとなっています。
噴水の中央には創生の女神さまを象ったモニュメントが設置してあり、女神の泉という名称がついている王都の観光名所の一つになっています。
また、新年を祝う初年祭や春には建国祭、秋には収穫祭などと言ったイベントがこの広場で行われたりもします。
これらのイベントはすべて国が資金を提供しており、各派閥の上位貴族の方々が取り仕切る仕組みになっているようなのです。
さらに収穫祭では十字聖教の枢機卿クラスの階位の神官さんもお祝いに訪れる格式ある催しになっていまして、噂では今年はラビリオさんが祝詞を唱えるそうです。
あ、噂と言うよりもご本人がドヤ顔で語っていましたから事実なのでしょう。
そしてそのラビリオさんですが、もう用事が済んだのですから帰ると思ったら私たちに同行するようなのです。
本当にお邪魔虫さんですね。
「初めて中央広場で降りましたが、中々に活気ある場所ですね」
「ありがとうございます。女神の泉を初めとした幾つかの観光名所もございますから旅行者の方も多く訪れる場所になっているのです」
「なるほど、そうですか。では、あの時計塔もその一つですか?」
「はい。あの時計塔は銀嶺の塔という別名がございまして、魔法装置である時計盤と魔法銀製の鐘の音で時間を知らせております」
「ほう、魔法銀を使っているのですか。と、いう事は魔法装置の一部として鐘も含まれているのですね」
「おっしゃる通りです、ラビリオ様。魔法技術にも精通されているのですね」
「大したことありませんよ、チェルシーさん」
そう、このようにラビリオさんはチェルシーさんへ話しかけては街の案内をさせているのです。
むぅ、私のチェルシーちゃんと仲良くするだなんて、許せませんね。
いくら可愛い美少女と仲良くしたいという気持ちがわかると言いましても、それだけはダメなのですよ!
「さて、ラビリオさん。私たちは買い物に出掛けますからそろそろ帰られてはどうですか?」
「リスティナ、あなた直球過ぎるわよ」
「これぐらい言わないとラビリオさんの頭では理解できないと思いまして」
「聞こえているぞ、リスティナ!」
「あ、そうでしたか。では、お気をつけてお帰りくださいね?ちゃんと馬車代はお持ちですか?なければ融通しますよ?」
「なぜ僕が帰ることになっているのだろうか?」
「え?だって同行されたのは、私との授業でのやり取りにモノ申したかったのですよね?」
「そうだな、その件については僕が浅慮だった。チェルシーさんに教えて頂けなければ僕は思い上がっていたままだったと思う」
「じゃあ、もう解決しているではありませんか。では、御機嫌よう、ラビリオさん」
「リスティナ、あなたのそのスタンスが怖いわ、流石に。容赦なしね」
「えーっと、リスティナさん。別にこの後もラビリオ様が同行されても問題ないと思うのだけど」
「え?私たちの買い物についてきたいのですか?男性が婦女子の買い物にですか?変わってますね、ラビリオさんは」
「君には言われたくない言葉だな、変わっていると断じられるのは。僕が同行して問題があるのか?そもそも同行者が増えて問題ある場所だとチェルシーさんを向かわせる訳に行かないのだが」
「自然とルビナスさんが外されてますね」
「うるさいわね」
「でも、大丈夫ですよ。ルビーちゃんには私が居ますから、一緒に楽しみましょうね!」
「あなたと二人きりと言う方が私は遠慮したいわ!」
「では、私とルビナスさん、それとお友達であるチェルシーさんの三人で向かうとしましょう。当初の予定通りですね!やっふー!」
「さっらと僕を外すな!」
「あははははは」
ラビリオさん、思った以上に手ごわいですね。
私のうやむやにして置いて行こう作戦が通用しませんでした。
これは、魔法で大人しくさせた方がよいのでしょうか?
「・・・あなた、まさかラビリオ様に魔法を使おうとしてないわよね?」
「え?いやだなぁ、ルビーちゃん。流石にそこまではしませんよ、そこまでは。ただちょっと駆除したいなぁ、と思っただけなのです」
「駆除!?僕をどうするつもりなのだ、君は!?」
「リスティナさん、落ち着こうね、ね?ラビリオ様はそういう人じゃないと思うの」
「やっぱり優しいですね、チェルシーさんは。虫にも五分の魂といいますし、ここはチェルシーちゃんの可愛さに免じておきましょう、仕方がないのです」
「リスティナ、やっぱりあなたが怖いわ、私。あと、何その言い回し?」
「ぼ、僕が虫、だと?」
はい、お邪魔虫さんですよ、とはさすがに口に出しては言えませんでしたが、大人しくなったようですからこれぐらいで良さそうですね。
さて、気を取り直してお買い物デート開始なのです!
今日の目的であるルビーちゃんの運動用の服を購入する場所なのですが、下町でも冒険者の方たちが多く集まるような場所にその服屋は存在します。
服屋がそんな場所にあるのか?とお思いでしょうが、実はその通りでして厳密には服屋ではないのです。
ではそこは何なのか?と言いますと、冒険者、しかも戦闘を得意とする戦闘ライセンスを持ったベテランの方たちが利用する店になります。
そういうと武器防具屋をイメージされるかも知れませんが、ここは剣や盾に兜に鎧と言った武具は一切置いておらず、魔物の皮や魔法繊維から作った魔法服を専門に扱う魔法具店なのです。
元々は冒険者だった補助魔法が得意な魔法使いの店長さんが引退後に始めた魔法具店でして、裁縫にも才能があったので今では知る人ぞ知るお店となっているのです。
「なんだ、この店は?魔法具店ではないのか?そのような場所で衣服などとどう言うつもりなのだ?」
「流石にこういう店とは予想していなかったわね」
「衣服の前に魔法のアミュレットでも買うのですか、リスティナさん?」
「ここは知り合いの人が店長をしている魔法具店なのですよ。そして優秀な裁縫師でもありますから良い魔法服が手に入るのです」
「え?魔法服!?私そんな高級な物が買えるほどお金持ってきてないわよ」
「授業で着る衣服に魔法服・・・発想が違い過ぎてちょっとついていけません、私」
「なぜ平民のリスティナさんがそのような知り合いを。いや、よく見たら冒険者のようにも見えるのか。リスティナさんは冒険者なのだろうか?」
「私が頼めばかなり割り引いて格安で手に入りますからお金はあまり心配しないでくださいね、ルビナスさん。あ、チェルシーさんも合わせてみましょうね」
「どんなコネクションを持っているのよ、あなたは」
「わ、私もですか!?」
「おい、リスティナ!なぜ、僕を無視する!」
「じゃあ、入りますよ~。店長さん、こんにちは~」
「おい!」
さっきから五月蠅いラビリオさんはどうでもよいとして、鍛えるために受ける体育の授業なのですからちゃんとした服の方が良いに決まっているのです。
ちりんちり~んと、ドアベルがなる戸を押して入ると如何にも道具屋と思わせる様な店内が広がります。
壁面には棚が並んでおりまして、店長さんが作った魔法道具が所狭しと陳列されておりますし、真ん中にはテーブルがあってその上にある程度大型の魔法道具が置いてあります。
そして壁の一面にはハンガーラックと姿見がありまして、たくさんの衣服がかかっているのです。
服のデザインは魔法服にしては一般的なモノが多く、どちらかと言えば街着と思えるものまで沢山存在します。
そして、そんな衣服を作るデザイナーともいうべき店長さんですが、カウンターの奥でむすっとした顔で佇んでおりました。
「店長さん、こんにちは。今日はお友達を連れてきました」
「ん?なんだリーナだけか。来るときはエスティも連れてこいと言っただろう」
「お母さんは今日もお仕事ですよ。それよりも今日はお客さんなのですからちゃんと接客してくださいね」
「ふん、仕方がないな」
「えーっと、リスティナ。この人が店長?」
「そうだよ」
「まて、どう見ても店を構えるほどの年齢にみえないのだが?」
「そ、そうですね。とてもお若い方なのですが」
「ああ、店長さんはエルフだからですよ。ほら、耳が尖っているでしょ?」
「「「エルフ!?」」」
そう、この店長さんなのですが、森の民ともいわれているファンタジー世界では定番の妖精族のエルフさんなのです。
物語によっては森から出ない閉鎖的な種族だったり、人を馬鹿にする傲慢な性格だったりしますが、この世界のエルフさんは人里にはあまり出てきませんが人と性格はあまり変わらないのです。
ただ、やっぱり弓の名手で魔法の達人という設定は同じのようでして、冒険者時代には神弓とか渾名されていた有名人だったそうなのです。
そして会話から解ると思いますがこの店長さんはお母さんが魔法学校の学生だった頃からのファンでして、その伝手があって私もよく利用しているのです。
「王都でエルフに会うのはそれほど珍しいか。私はこの魔法具店の店主をしているナバールだ。今日は何を買いにきたのだ?あと、私は女神を信仰していないぞ」
「こちらの美少女なルビナスさんとチェルシーさんの運動着を買いに来ました」
「エ、エルフの魔法具店・・・まさか、ここ新緑の魔法具店じゃないの!?」
「ええ!?あの有名な魔法具店ですか!?たしか伝手がないと上級貴族にも販売しないという噂の!?」
「わざわざエルフを勧誘したりしないぞ、僕は!」
「確かにここは新緑魔法具店だが。あと伝手がなければではない、気に入らなければ売らないだ。あとその気がないならそのような恰好で来店するな、紛らわしい」
「だから言ったではないですか、ラビリオさん。その恰好だと絡まれると」
「確かに絡まれたが、こういう事だったのか!?」
「ふむ、そちらの娘たちか。まあ、リーナの紹介だ、売ってやろう。それで魔法学校の授業で使う魔法服でいいのだな?」
「はい、そうですよ、店長さん」
「うそ、私でも買えるって、本当に何者よ、リスティナって」
「その、私はそれほどお金がないのですが」
「ふむ、身体能力はそれほど高くないようだな。だったら身体強化と疲労回復をエンチャントしたもので良いか。どうだ、リーナ?」
「後は自動修復と耐魔も欲しいかな」
「分かった。そこの二人、見本の服から欲しいのを探せ」
「え、ええ、本当に買えるの?その前に料金は幾らになるのよ」
「そ、そうです。たぶん私だと買えないと思うのですが」
「その前に待て!なんだ、そのエンチャントは!十字聖教の聖騎士の聖鎧並みの効果ではないか!」
「「ええ!?」」
「大したことのない鎧を着ているのだな、聖騎士は。それだったらリーナが今着ている服の方が優れているではないか」
「「「え?」」」
あ、私が来ているワンピースですが王都に来て母に連れられてこの店に来た時に初めて買った魔法服なのです。
店長さんがお母さんに良いところを見せようとして自分が使える補助魔法をすべてエンチャントした一品だったりします。
見た目は町娘さんが来ているようなただの厚手のワンピースなのですが、来ているだけで疲れが取れてMPも回復するし破れても魔力を込めれば勝手に修復されるというすぐれものなのです。
その気になれば中級以下の攻撃魔法も無効化するそうですから、体育の授業では魔力を込めないように気を付けるのよと母に言われているのです。
私は良い子ですから可愛いお母さんの言う事は素直に聞くのです!
ぎゃんぎゃんと喚くラビリオさんは無視し続け、ルビーちゃんとチェルシーちゃんにはワンピースとキュロットから選んでもらってそれらを二着ずつ購入することになりました。
あのあと交渉してエンチャント、物に永続的な魔法効果を施す作業なのですが、言っていた身体強化と疲労回復、自動修復に耐魔以外に汚れや汗を自動的に綺麗にする自動洗濯や着ているだけで熱くも寒くも気にならない温度調節もしてもらう事になりました。
これにはラビリオさんもびっくりしたようで、ぜひ僕も欲しいと言っていましたが店長さんが宗教嫌いという事もあり購入できませんでした。
元々この店長さんは男性には厳しい人ですからね、よっぽど仲良くならない限り男性には売らないというポリシーを持っているようでして、それが上位貴族でも売らないにつながっているのです。
良くそれで商売がやっていけるなぁ、と心配しておりましたが、冒険者時代に稼いだ金額が相当な物だったらしくまったく売れなくても問題ないそうなのです。
あと売れた場合は凄く高い金額になるので、お客さんを選んで販売する商売でも全く問題ないらしいのです。
「す、すごい。これだけの効果がある魔法具を一瞬で」
「で、ですよね。でも、これだと一体幾らになるのかとても心配です」
「ふむ、そうだな。一人あたり金貨100辺りだろう」
「「そ、そんなに!?」」
「なぜ僕だけ買えないのだ。確かに100枚、いや効果だけでみれば200枚だしても足りないかもしれないほどすごい魔法服なのに」
「金貨200枚!?そ、そんなの絶対払えないわ、私!?」
「わ、私もです。お父さんの年収よりも多いですよ、200枚なんて!」
「あ、店長さん。流石に100枚は高いからもうちょっと負けてよ」
「ちょっと安くなっても無理よ、私には!」
「私もです!」
「ふむ、そうだな。エスティの今度の休みが何時か教えろ」
「明後の午後か明後日なら一日だよ、店長」
「おお、そうか。なら金貨1枚ずつでいいぞ」
「「ええ!?」」
「1%だと!?」
「わーい、ありがとう、店長さん。はい、金貨2枚ね」
「ちょ、ちょっと待って、リスティナ。1枚なら払えるから」
「私もです」
「えー?デートに誘ったのは私だから払うよ?」
「デートじゃないわよ!」
「デ、デートだったのですか!?」
「むぅ、仕方ないですね。この後のお茶は私が出しますからね!」
「この後もあるのね」
「お茶は良いですけど、えーっと、どうしてこうなってるの?」
可愛い娘さんとのデートなのですから、美味しいお茶がでるお店に行って休憩するのは当たり前なのですよ?
ちゃんと私がセレクトしたお店なのですからちゃんと期待していてくださいね!
「ナバール殿。購入は諦めるがお聞かせ願えるか?」
「なんだ、御子」
「む、流石に知っていましたか。なぜ金貨200枚はする魔法具を1枚に?知り合いとはいえ安くし過ぎではないか?」
「ああ、エスティの娘だからという事もあるが、材料などはリーナが取ってきたものだからだ。作成費のみで考えればそんなものだろう」
「魔法の腕とエンチャント技術を考えたらもっとすると思うが・・・まて、リスティナが材料を取ってきた?あの服の繊維はそれなりに高位の魔物の繊維ではないのか?」
「中々目端が利くな、御子。だがその通りだ。リーナはあれでも中々の冒険者なのだぞ」
「なん、だと?」
あ、店長とラビリオさんが話し込んでいるようですが、もう私たちに付きまとう気がなくなったのですかね?
だとしたら可愛いルビーちゃんとチェルシーちゃんを独占しちゃえるのでうれしいのですが。
これは、ラビリオさんを振り切るチャンスなのですよ!
さあ、行きましょう、幸せの向こう側なのです!むはー!
「む、どこに行くつもりだ?まさか、僕を置いて行くつもりなのか?待て、おい!」
あ、気づかれちゃいましたね、残念なのです。
「おうおう、神官の坊ちゃん。若いのに女を3人も連れて貧乏な俺たちに対して当てつけか?これが神様のやる事なのか?ああ?」
お邪魔虫さんがあまりにも騒ぐので仕方なしに同行しておりましたら案の定絡まれてしまいました。
新緑魔法具店は店長さんの方針であまり人が現れない冒険者区域でも外れにありますからね、どうしても下町でも裏を通る事になるのです。
そんな場所ですからお金持ってますよ、と言わんばかりの豪華な神官服を着た人が騒いでいたら興味をそそられて近寄ってきますし、そういう人が増えれば変な人も遭遇しやすくなるのです。
ですから気を付けて下さいと言っておいたのですが、ラビリオさんには分からなかったみたいですね。
やっぱりストレートに伝えてあげないとダメなようです。
でも、神官の方たちも貴族さんたちのように言質を取らせない歪曲した言い回しが得意なはずなのですが、ラビリオさんは意識高いですからその辺りはまだまだ勉強中のようなのです。
「む?あなたたちは創生の女神様を愚弄されるのか?」
「愚弄とか言ってるぜ、この坊主神官」
「愚弄してるのは坊主だぜ、俺たちをな」
「だからよ、俺たちがちゃんと世間ってやつを教えてやるよ、世間知らずのお坊ちゃん神官さんよ」
「そうだぜ、授業料はちゃんともらうけどな」
「なんだと!僕を馬鹿にするのもたいがいにしろ!」
にやにやしながら近寄ってくるゴロツキさんたちの挑発にまんまと引っ掛かってますね、ラビリオさんは。
顔を真っ赤にして食って掛かってますが、この手の方たちは無視するか、回りで野次馬をしている方たちに助けを求める方が正解なのですが、その辺りの下町の常識を世間知らずなラビリオさんには難しいのでしょうね。
あ、あそこにいるのは偶に買い物に行く食材屋の下働きのおばちゃんと先日治療院に来られたおじさんですね、手を振って挨拶しておきましょう。
「ちょ、ちょっとリスティナ。これどうするのよ?」
「そ、そうですよ。いくら何でもこのようなところで襲われたら怪我してしまいます」
「男の子なんですから怪我くらい大丈夫なのですよ」
「なんだかあの二人私たちも見てるんだけど、浚おうとしてるんじゃないの?」
「さ、浚う!?こんなに人がいるのにですか!?」
「下町の裏通りの暗黙のルールでこの手の事は見て見ぬか金品を出して助けてもらうかなのよ」
「そ、そんな」
ラビリオさんはプライド高いですから平民に金銭を渡して助けてもらうという選択肢はなさそうですね、世間知らずの前に。
まあ彼がどうにかなっても興味ありませんからルビーちゃんとチェルシーちゃんに手を出さない限り私も動くつもりはないのです。
「あなた、動く気ないでしょ?流石にそれは酷いと思うわよ?」
え?ひどい、ですか?でも私はちゃんと忠告したのにそれを守らなかったラビリオさんが悪いと思うのです
「何とか出来るならラビリオ様を助けてあげてください、リスティナさん」
助けてあげて欲しい?仕方ないですね、可愛い娘さんのお願いですからやるしかないようです
本当にチェルシーちゃんは優しくてきゃわいいのです!
「えーっと、お兄さんたちちょっと良いですか?」
「なんだよ、嬢ちゃん。ちょっと待ってろ、この坊主をしめたら相手してやっから」
「ちょっと子供過ぎるけど兄貴が喜びそうだよな」
「お、おい、リスティナ。流石に君が相手するのは良くない。ここは僕に任せておくんだ」
「お兄さんたちは黒蛇会の人ですよね?」
「うわぁ、またラビリオ様を無視してるわ、あの子」
「あははははは」
「おう、よく知ってるな。そうだぜ、俺たちは黒蛇の一味だぜ」
「そうそう、ちゃんとこの世間知らずの坊主に教えてやんな。この界隈で俺たちに逆らったらどうなるかをよ」
「ど、どうなると言うのだ!僕は神官だぞ?神官に手を出してただで済むと思うのか!」
「ぎゃははははは!本当に世間知らずだな、坊ちゃんは。憲兵たちですら俺たちに手を出せないんだぜ?神官の一人や二人どうってことないぜ」
「お、お前たちの仲間が怪我をしても教会は治療しなくなるぞ!」
「本当に世間知らずだな。下町の教会に治療魔法を使える神官なんざ在中してねえよ」
「ああ、そもそも下町だったら魔法治療院に行くから教会なんぞに行くかよ、だれが」
「ぐっ、だが、神官に手を出せば創生の女神様の神罰が下るぞ!」
「ぎゃははははは!やってみろよ、ぜひな!」
「あーのー、盛り上がっているようですけど、私の話を聞いてもらっても良いですか?」
「なんだ、嬢ちゃん?」
「もうちょっと待ってろって。兄貴のところへ連れて行ってやるから」
「連れて行って貰わなくて大丈夫なのです。でも伝言をお願いしますね」
「伝言?」
「はい。もうあなたの治療は行いません。それと二度と治療院には近寄らないでください。リーナからそう言われたと伝えて頂ければ大丈夫なのですよ」
「は?なんでお前みたいなガキが兄貴を知ってるんだ?」
「カロッカさんですよね、黒蛇会の?」
「お、おう。なんで名前を知ってるんだ?」
「そ、そうだぜ、兄貴がいくら有名だからって」
「知り合いですから。あ、ご本人が来ましたから直接伝えますね。カロッカさーん!」
「「はぁ!?」」
ちょうど野次馬を避けて通ろうとしたおじさん、話に出てきていたカロッカさんが通りましたので声を掛けておきます。
だって伝言よりも直接の方がちゃんと伝わりますからね。
「ん?リーナちゃんじゃないか。どうしたんだ、こんなところで?で、なんでお前たちが居るんだ?」
「「あ、兄貴!?」」
「こんにちは、カロッカさん。何やら私たちに用事があるとかで話しかけられていたのですよ、このお二人に」
「ほう。それは本当か、お前ら?」
「へ、へい」
「厳密にはこっちの神官にですが」
「彼らは僕に脅しをかけてきたのぞ。あなたの部下ならちゃんと教育をするべきではないですか?」
「かなり高位の神官の子か、お前は。まあ、だからと言ってこの界隈じゃあ意味がないぞ、坊主。この辺りに来るならもっと安そうな服にしないと危ないぜ。もっと奥なら有無を言わさず身包みはがされてたぞ」
「な、なんと危険な場所なんだ、ここは!?」
「ラビリオさん。だから言ったではないですか、気を付けて下さいと。もし次回があれば服装に気を付けて下さいね。私たちはもう同行しませんし」
「リスティナ、あなた今さらっと拒絶したわね、ラビリオ様を」
「ぐ、これが下町なのか」
「ラビリオね、なるほど。おい、お前らもう行くぞ」
「え?やっちまわないんですか?」
「そうですよ、このままでは黒蛇会が舐められますよ」
「馬鹿野郎!ちゃんと教えていただろうが!この下町で治療魔法院と孤児院、それと桃色には手を出すなと!」
「へ?え?確かに聞きましたが」
「あ、この嬢ちゃんピンクの髪だ!」
「あ、それでカロッカさんにお話しがあるの」
「「お、お嬢、すいやせんでした!」」
「なんだ、リーナちゃん?」
「明日、明後日は店長さんも来ますから気を付けて下さいね」
「げ、あの爺が来るのかよ。分かった、ありがとよ、リーナちゃん。ティナによろしく言っといてくれ」
「はい、さようなら」
流石クロッカさんですね、あっさりあの場を治めてしまいました。
基本的に男性は苦手なのですが、ある程度おじさんになると別の意味でも対象外になりますから強面でも私には優しいおじさんなのです、クロッカさんは。
「ね、ねえリスティナ。黒蛇会ってあの黒蛇会よね?」
「ルビナスさんが思っている組織ですよ」
「そ、そう。あそこの幹部と知り合いなのね、あなた」
「どういう組織・・・何となく分かりましたけど、すごいですね、リスティナさんは」
「凄いのは私じゃないですよ。お母さんの幼馴染なだけですよ、クロッカさんは」
「何者なのよ、あなたの母親って。凄腕エンチャンターのエルフに組織の幹部が知り合いだなんて普通じゃないわよ」
「ただの可愛い美少女ですよ、お母さんは。ちょっと治療魔法が得意というだけで、あとは可愛さが王都一、いや国一番なだけなのです」
「母親で美少女ですか?」
「はい、美少女なのです!」
「よ、よくわからないが、次からは服装には気を付けるとしよう」
「たぶん次からは絡まれないと思いますよ。流石に教皇の御子であるラビリオさんには手を出さないかと。聖騎士たちを相手にはしたくないですからね」
「む?彼らに僕の素性がばれたのか?」
「クロッカさんですからね、気づいているはずなのです」
「そうなのか?」
「ラビリオ様、リスティナが言っている事は本当だと思いますわ。あの者たちは黒の派閥の諜報員ですから」
「な、なるほど。・・・そんな組織の幹部と知り合いとは増々リスティナの母という人物が普通ではないと思えますね」
それはまあ、もともと黒の派閥、ノワール侯爵家が経営していた孤児院出身の孤児ですからね、母もクロッカさんも。
今は王家が経営していますが、当時は黒蛇会のような諜報組織の構成員を育てる場所にもなっていましたし、普通ではないと思いますよ。
母の場合は可愛いですから当主に気に入られてそちらの方に回されなかったみたいですけどね。
そう、お母さんはきゃわいいのです!
可愛いは正義ですから、なぜか良い方に進んじゃうのです!
なお、クロッカさんも母のファンだと言うのは言わなくても分かりますよね?
さてさて、ラビリオさんの所為で妙なイベントに巻き込まれましたが、無事に目的地であるお茶が美味しいお店に到着です。
こちらのお店は美味しいくて珍しい菓子に合うお茶を出す事でちょっと有名でして、下町にあるお店ながらもちょっと貴族気分が味わえるかなりの人気店なのです。
「さあ、ここですよ」
「ふうん、雰囲気は良さそうね。でもこんな店あったかしら?」
「私はこの辺りは初めてですから知りませんでしたが、下町にはこういうお店があるのですね」
下町というとゴミゴミしたイメージがありますけれど、流石に王都ですから結構綺麗な場所なのですよ。
ただし、貴族街になれたチェルシーちゃんからしたらやっぱり落ち着かない場所なのが下町なのです。
そんな場所にありながらも貴族街にありそうな店構えのお店なのが、ここなのです。
王家御用達の焼き菓子名店マドリードの令嬢であるルビーちゃんでも知らないのは当然だと思います。
このお店ができたのは今年に入ってからですから人気があると言ってもまだまだ認知度は低い場所なのです。
店内も綺麗ですし、従業員の方のサービスもしっかりしていますからどんどん人気が出ると思うのですよ、ここは。
それに珍しいお菓子、私にとってはある意味馴染みのあるものなのですけどね。
さて、ここからは女の子だけのお茶会なのです。
可愛い美少女たちだけで、楽しみますよー!むはー!
「さあ、入りましょうか。珍しいお菓子もでますから楽しみにしていてくださいね」
「ほう、珍しいのか」
む、まだいましたかお邪魔虫さんは。
やっぱり駆除しちゃった方が良いのかもしれませんね。
可愛いチェルシーちゃんに近寄る悪い虫さんは強制排除した方が良いに決まっているのです!えい!
「な、なんだ?なぜ足が動かない!?じ、地面にめり込んでいるだと!?」
「ちょ、ちょっと、リスティナ!あなたラビリオ様に何してるのよ!」
「ええ!?リスティナさんが何かしてるのですか!?」
「私たちがお茶する間は待って頂こうかと思いまして。安心してくださいね、足止めだけで命の危険はありませんから、残念ですけど」
「足止め!?まて、今、残念とか言わなかったか!?」
「なに、この魔法!?すごい、こんな事もできるなんて、あなた本当に何者よ!」
「ルビナスさん、驚くところじゃなくて、ラビリオ様を助けないと!」
「さあ、入りましょう、ルビナスさん、チェルシーさん」
「これぐらいの魔法はディスペルすれば、って解除できないだと!?お、おい、早く魔法を解除しろ、リスティナ!」
「もう、店先で騒いだら迷惑ですよ?静かにしてくださいね、えい!」
「うわ、この魔法に掛かるとこういう風にみえるのね」
「沈黙の魔法!?どうしたんですか、ルビナスさん!顔が青ざめてますよ!」
うん、これでラビリオさんも静かになりましたからゆっくりお茶を楽しめますね。
じゃあ行きますよ、ルビーちゃん、チェルシーちゃん。
あれ?このままではダメですか?
本当にチェルシーさんは可愛くて優しいですね、お邪魔虫さんにもお情けをかけるのですから。
ラビリオさんは女神さまじゃなくてチェルシーちゃんにお祈りする方が良いと思うのです。
でも、チェルシーちゃんに近寄るのは許しませんからね!
なお、後日このやり取りが母の耳に入ってしまいまして、それはもう激おこぷんぷん状態で反省させられました。
流石に下町でもそれなりに人通りがある場所であれだけ騒いでいれば噂にもなっちゃいますよね。
三十分も正座させられてお説教を受けましたので、良い子の私はもうあんな事はしないと母と約束したのです。
はい、母の言い付けですからあのような人通りの多い場所ではお邪魔虫の駆除はしないと誓いますよ!
え?他の場所でもダメ?
うーん、それは母に言われてないですから、今後もお邪魔虫さんの排除には力を入れちゃうのです!
それでもしばれたら母からお説教されてしまいますが、ぷんぷん状態のお母さんは可愛いですからね、私にはご褒美なのです!
お邪魔虫さんを排除できて、きゃわいいお母さんが見れるなんてまさに一石二鳥なのですよ!やっふー!
お読みくださってありがとうございました。
もうちょっと前に書き上がってましたが見直しする時間が取れてませんでした!




