不思議な事は何もない
真夜中の学校、足元に注意しながらゆっくりと廊下を歩く。
1階にある理科室の前で立ち止まり、壊れて鍵が閉まらなくなっている窓から中に入ると、真夜中のパーティーが始まっていた。
「よ~人体模型。遅かったなぁ」
教卓前で悩ましげなダンスをしている花子さんを眺めていると、ドスドスと音をたてながら近付いてきた石像が話しかけてきた。
「途中でパーツが落ちたんだよ」
そう答えながら左肺を指差す。
「パーツて!」
ケタケタと笑っているこの石像は金次郎だ。
赤マントや青マントも理科室にやって来ると、元音楽教師がアコーディオンで曲を奏で始め、カエルや蛇の標本も楽しげに瓶の中で踊り始めた。
あれ?バスケ小僧がいなくないか?
そう言えば太郎もいない。
「太郎は?」
踊る花子さんに近付いて尋ねると、
「え?2階じゃないかしら」
との事。
俺は金次郎と2人でまずは音楽室に向かい、そこで肖像画を手に入れた。
音楽室の肖像画は目が光るので懐中電灯代わりに丁度良いのだ。
「おーい太郎、おるかぁ?」
金次郎が2階のトイレを覗き込みながら言うと、中から短い返事が返ってきた。しかし出てくる気配がないので入ってみると、どうやら外を眺めているようだった。
「なに見てんだ?」
窓際に立って外を見ると、丁度プールが見えた。そのプールサイドにはプール娘とバスケ小僧。
「行ってみよか」
茶化しに行く気満々なのだろう金次郎は満面の笑みを浮かべ、窓から身を乗り出して下にジャンプ、ドーンととんでもない音をたてて着地すると、何食わぬ顔でプール横の植え込みに身を隠した。
あれだけの音を発しておきながらバレてないと思える神経が凄いな。
「あのぉ、キンジロさん。そんな所でなにしてるんですかぁ?」
案の定プール娘に声をかけられている。
「いやぁ、風が気持ちえぇなーって思ってな」
そんな無理のある誤魔化しを聞きながら、フワフワと金次郎の周りを飛び回るプール娘とバスケ小僧を眺めていると、朝の柔らかい匂いがフワリと漂い始めた。
そろそろ人間が起きる時間だな。
さぁて、お開きの時間だ。肖像画を音楽室に戻して保健室に戻ろう。
「人体模型、太郎、また明日な~」
窓の下では笑顔の金次郎が手を振っている。
また明日。