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1日目

 詐欺師はとある拠点でパソコンの画面を見ながら腕を組んで考え事をしていた。

 閲覧しているのは名賀が編集長を務める雑誌編集室の通話履歴である。

 それらは発着信の履歴でありそこに詐欺師の欲する情報が含まれると言う保証は無かった。


 だから詐欺師はそこに目当ての電話番号を発見して、自らの予想が当たったと確信した。

 その電話番号は小三塚一郎の、即ち殺人鬼の電話番号であり、その番号は名賀編集長から受けた依頼の中で唯一個別に調査した情報だった。


 用意した情報を引き渡した時点で殺人鬼が魚岩省吾に関する取材を行うのではないかと言う予想は凡そ間違い無いだろうと思っていた。

 詐欺師はその推測に関して簡単な補強材料を得ただけなのだが、実際の状況が多少異なっていても描いた筋書きには問題無いと感じていた。


 この一件の鍵を握るのは小三塚であると詐欺師は確信していた。


 詐欺師はパソコンの画面から視線を外し、預かった手紙の文字をじっくりと見詰めた。

 詐欺師が小三塚の文字を見たのは七年も昔の話だ。

 あっさりと変装を見破られたその時の事を思い起こしながら、詐欺師の口元に演技では無い笑みが湛えられた。


 後にも先にも詐欺師の変装が通用しなかったのは殺人鬼だけだった。

 あれはこんな顔だったかなと思い出しながら、詐欺師は片手で顔面の造形を造り替える。

 ごりごりと痛々しい音を響かせて詐欺師の人相が全く異なる物へと作り変えられた。


 詐欺師は顔面の骨格をある程度自由に弄る事が出来る。

 全く別の顔になる訳では無いのだが、人の顔と言う物はパーツの一部が変わるだけで全く異なる印象を与える物だ。


 その特殊な体質は詐欺師が幼少期に両親から殴られ続けた後遺症でもある。

 虐待の理由は両性具有と言う奇怪な体質に生まれた事も小さくないのだが、薬物依存症の母親とヤクザの父親の間に生まれてしまった不幸もまた小さくは無い。

 結局の所どうあっても詐欺師に幸福が訪れる要素は無く、強いて言えば両親が死んだ事が幸福とも言えた。


 出生届の出されていない詐欺師の存在を知る者はほとんどいなかった為、その後は文字通り泥水を啜りながらも命を繋いだ。

 生きる為には何かにつけて他人から奪う他方法は無く、奪う手法から暴力的な志向性を排除し続けたのは両親に対する反抗だった。


 そうやって詐欺師として生き長らえて得た偽名は星の数よりも多く、所有する幾つかの戸籍は買うか奪うかして手に入れた他人のそれであり、背負う肩書は悉く偽装された物である。

 そんな詐欺師にとって、人相を変えても詐欺師を詐欺師として認識した小三塚一郎は少しばかり特別な存在となっている。


 その小三塚一郎が殺人鬼かも知れないと言う事情に関して詐欺師が思う所は無い。

 胸の内に湧き出したのは小三塚に相対する事を期待して浮き立つ感情だけである。


 詐欺師は単純に殺人鬼に会いたいのだ。そして可能であれば良好な関係を構築したいのだ。

 詐欺師は期待に胸を膨らませながらも頭の中では名賀に掴ませる偽原稿の素案を構築しつつ、殺人鬼に接触する方法を幾つもシミュレーションしていた。

 それはまるで初デートのスケジュールを練る乙女の様であったが、男女両方の肉体的性質を持つ詐欺師は自身が乙女と分類されるに足るのかを把握してはいなかった。

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